2023WBCは、野球界の勝利”Baseball won again”だったのか - イチファンとしての雑感

今回2023年のWBCは大谷選手がとにかく世界一になりたいという気持ちを全面に押し出しながら、エモーションとプレーでチームを牽引するという最高のリーダーシップを発揮し、最終的にそれを本当に実現してしまうという漫画のようなストーリーとなり、本当に感動させられた。

その中で、日本代表の躍進以外にも、
「MLBのトップクラスの選手が(シーズン開幕直前にも関わらず、コンディション調整度外視で、)各国代表として出場している過去に例を見ない大会であったり」、
「マイク・トラウトから決勝戦の直後に3年後の次回WBCに対して I’m in(出ることを決めた)という発言が飛び出したり」、
「メキシコやUSの監督から試合後に”The world of baseball won tonight.”と言う発言が出たり」 (= これに似た趣旨の発言は大谷選手の優勝後のインタビューからも出ており、個人的にはこの発言が複数の関係者から立て続けに出たことが非常に印象的だった)、
と過去に比べて、MLBを在籍選手を中心に選手や監督のコミットメントが極めて強い大会だった印象だ。

せっかくなので、今後の野球界の盛り上がりに期待しつつ、
「今回のWBCの盛り上がりの背景」や
「The world of baseball won tonightの発言の意味」、そして
「日本の野球界やスポーツ界にとっての重要なチャンス」、
について簡単に考察してみたいと思う。

(To: 特にこの領域のプロフェッショナルな方へ。。あくまで専門家ではなく、イチ野球ファンとしての考察なので、多少偏った見解になっている部分もありますが、その点はご容赦頂ければ嬉しいです)

2023WBC盛り上がりの背景

実はアメリカで人気のMLBだが、昨今そのリーグ運営にはチャレンジングな課題がある。「ファンの高齢化*」と「グローバル展開の遅れ」だ。

この点は、早期からSNSの活用による若者の取り込みやグローバル展開の強化に力を入れてきたNBAや昨今グローバルスポーツとしてアメリカでも人気が出てきているMLS(サッカー)に対して、MLBが後塵を拝している印象を持つ。

*MLBファンの平均年齢57歳、NBAは42歳:ソースhttps://frontofficesports.com/mlb-looks-to-grow-its-younger-fanbase/

例えばNBAは早期からファンが試合動画のハイライトなどを切り抜いてSNSで拡散しやすいように著作権に対して柔軟な姿勢を見せるなどの取り組みを行ってきて、早期から若いファンの獲得に対して強い施策を打ち出してきていた。

これに対してようやくMLBも課題感を認識し動き始めた。その一つの施策が今シーズンからのピッチクロックの導入による試合時間の短縮である。長い試合は特に今の若い世代には受けない。ファンの高齢化が課題のMLBにとっては多少の抵抗があっても実行せざるを得ない施策であったと言えそうである。(ちなみにNBAはファンにとって魅力的な試合であるように試合の時間をいじったりスリーポイントラインの位置をいじったり前々から極めて柔軟性が高かった)

(NBAやMLSの台頭とMLBの地位の悪化については、以下の宮武さんのtweetも参考になる)

また、よく言われる話だが、野球というスポーツはアメリカや中米・東アジアと一部の欧州くらいでしか人気がなく、グローバルで見るとまだまだマイナースポーツの部類で、グローバル化も決してうまくいっているとは言えないだろう。

こうした環境下で登場したMLBの救世主が大谷翔平である。二刀流でどちらも世界トップクラスの成績を残すという訳のわからないことを平気でやっており、かつそれが日本から来た外国人であるという、MLBの立場からすると「(スーパースターの登場による)野球人気の復活」と「グローバル化」と言う課題を同時に解決し得るとんでもないチャンスが到来した。

なので、大谷ルールなどで二刀流の価値を最大化するようなルール変更を行っていることも極めて自然な流れである。

上記の状況下、今回のWBCは野球の「グローバル化」にとって非常に重要なチャンスであったと言える。ヌートバー選手のように、アメリカ国籍の選手でも親の国籍等で外国チームの代表として認めていたことも、各国の力が均衡して、かつ野球人気を各国に広げる格好の起爆剤となった。

こうした背景からWBC(≒運営主幹のMLB)側が、「MLB選手のトップ選手の出場に対して前向きだったこと」や(もちろん最後は契約しているチームの判断だが、そうしたリーグとしての課題感は当然共有されているはず)、「決勝でマイク・トラウト vs 大谷という構図が積極的にアピールされ用意されたこと」、「(そしてこれは想像でしかないが)エンジェルスが決勝戦で1イニング限定で大谷を登板させて良い」、とスタンスを変えたこと等も「野球のグローバル化」の課題感が背景にあり後押しされたものと推察できる。


The world of baseball won tonightの真意

上述の通り、そもそも今回のWBCの盛り上がりを後押ししたMLB側の狙いとして「野球のグローバル化」があったと推測できる。

その大会が、チェコやイタリアの躍進に始まり、日本対メキシコ、日本対アメリカ戦等の劇的な試合展開に加え、最後にマイク・トラウトvs大谷翔平という人類最強対決で締めくくられる、という想定を超える展開となったことから、自然と「The world of baseball won tonight」という発言が各国の監督からでてきたことは、まさにその狙いが思惑を超えて「出来過ぎたくらいに」満たされたことから来ているものと推察できる。

今後もMLBとして、背景にある課題意識は継続していくと思うので、WBCの重要度は次回以降も上がり続けることが予想でき、さらなる盛り上がりを次回大会でも期待できるのでは、とイチファンとして強く願っている。

(こうしたUSキャプテン、マイク・トラウトのコメントも、野球が「開国」したと言う不可逆なトレンドを感じさせてくれるし、次回大会ではUSチームの投手陣の充実に対する期待感も高まっているので、今から楽しみである)


日本の野球界やスポーツ界にとっての大きな機会(に関する勝手な考察)

あれほど巨大な市場を持つMLBですら「グローバル化」や「ファンの高齢化」という課題にぶつかっているが、日本の野球界も、縮小する国内市場を背景に、こうした同様の課題を抱えている状況にある。

他方で今回のWBC優勝が示すように、競技力の世界では日本野球界はすでに卓越した成果を出している。つまりビジネス面ではチャレンジングな課題がある一方で、競技面では非常に好調、という状態にある。

実はこの状況はとんでもないチャンスとも取れる。今回NPBがMLBに次ぐ圧倒的な世界no.2のプロ野球リーグであることは証明された。今回のヌートバー選手の日本代表入りやUSチームとの対戦などに触発され、今後MLBとNPBの選手交流はもっと加速していくだろう。

そうした背景を活用し、NPBが更に多くのグローバルな選手を受け入れMLBへの登竜門的な地位を作る土壌があると言える。更に、その先にはそうした(選手を送り込んでくれる)各国に対してのスポンサーや放映権などの事業拡大(TAM expansion)に繋げていくチャンスにもなり得る。つまり競技側だけでなく、事業の方もGo globalできるチャンスが到来したと言える。

(この辺りのビジネス面のグローバル化は、サッカーが上手くアジア市場を取り込んできた歴史もあり学ぶことが多そうな印象も持つ)

特に人口増加が旺盛で若い消費者層が分厚いアジア市場に対して、時差がなく遠征などもしやすい日本という立地は絶好である。これはUS拠点のMLBにはどうしても難しいポイントなので、野球をグローバルスポーツ化していく重要な役割を日本も担っていくチャンスがある。

今こそMLB・NPBが主体となり、本気で野球をグローバルに「開国」していくタイミングと言えるのかもしれない。そしてグローバル化だけでなく、若者の取り込みに向け、伝統や歴史を守ることだけでなく、様々な柔軟性を野球界が持てるようになることも期待してやまない。

ちなみにこの時差と国内リーグの競技力の高さの両面の視点から、アジア市場の開拓・進出が日本にとってチャンスという構図は、バスケットやサッカーなど他のスポーツにも当てはまり得るものであり、「今こそスポーツ"ビジネス"の方にもGo globalのチャンスがある」、そんなことを思い出させてくれる素晴らしいWBCの大会だった。

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