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敗者だから伝えたい こうして会社は倒産しました 12

~異常な残業代が発生する不思議な職場~

 前回までのあらすじ。企業再建のために策を講じて、策に溺れて、自ら人望を失う方向にまっしぐらです。

 物流センターのできごとです。アウトソーシングの少し前の話になります。トンデモない残業代請求が起こりました。

20時間勤務のパートさん

 確か2004年前後の話です。当時私の役員報酬は30万円でした。賞与無しなので、ぴったり年収360万円。それを考えると、早期に破産して再就職した方が稼げたかもしれません。私が新卒で入社した会社の2年目の給料より安いです。

 そこで今回のお話は、物流センターで働いていた、とあるパートさんについてです。

 ある月に30万円の給料が発生しました。当時は最低賃金も安く、今調べたら鹿児島県では606円です。さすがに個別の基本給額は覚えていませんが、赤字会社のパートさんで、当時はデフレの真っただ中ですから、高くても時給700円ぐらだと思います。(恐らくもっと安いです)

ちょっと社労士みたいに計算してみます。

時給700円で、1カ月変形労働時間制とした場合に、月所定労働時間の上限は、177時間。それ以上は1.25倍の割増賃金になります。
300,000円-177時間×700円/時間=176,100円
時間外が全て深夜だと仮定すると、
176,100円÷(700円/時間×1.5)=167時間

1カ月に約167時間の残業です。トータル労働時間は月に344時間。
全く記憶にありませんが、これを許すような36協定は、恐らく結んでないと思います。協定違反にもなってますね。しかも過労死ラインが100時間なので、1.5回死ぬレベルです。

長時間勤務の理由

 物流センターにおけるそのパートさんの仕事は、
①在庫出庫用のデータを紙に出力する。
②出庫用データを見て、在庫から納品数量を出庫する
③在庫の残を見て、在庫の発注をする
④夜の仕分けを行うための出庫データを仕分けシステムに取り込む
⑤仕分け用データを紙で出力する
トータルで掃除まで入れても長くみて1日4時間~5時間ぐらいです。

 そのパートさんは、物流センターでトラブルが起こったり、不正行為が行われたりすると、私に連絡してきていたので、非常に重宝していました。時々物流センター長との不倫の噂が立っていたのですが、既に社内不倫が本当でも、さほど気にならない程度にあちこちで同様の話があり、かなり麻痺していました。

 物流センター長に、パートさんの給料の話をすると
「仕分けのシステムでトラブルが起きて、そのせいで残業が発生した」
だそうです。トラブルが起こってるなら報告しろと言いたくなりますが、やむを得ない事情ということで、ひとまず納得しました。

しかもそれは続いた

 そして翌月になると、計算上の金額が40万円になります。再計算してみましょう。
400,000円-177時間×700円/時間=276,100円
週6日勤務の場合の深夜時間は、最大で177時間なので、
276,100円-(700円/時間×1.5×177時間)=81,250円
81,250円÷(700円/時間×1.25)=92時間
総労働時間 177時間+177時間+92時間=446時間

週の労働時間が100時間を超えました。毎日17時間超勤務です。
これは最低限を簡易的に計算した数値です、絶対にこれよりはるかに多くなければ、ありえません。

 片付けや帰ってきた配送車の対応をする人は別にいるので、現実的に朝6時から12時ぐらいまでは、実は仕事はほとんどありません。受注データ自体が無いからです。するとそれ以外は、全て仕事をしていないとおかしいということになります。

 その日の15:00頃に物流センターに行くと、そこにそのパートさんはいません。その時間に働いている方にヒアリングすると、
「昼はほとんどいないですよ」と言われる。

 物流センター勤務者の業務で、物流センターの外に出て行う業務は、何一つありません。勤務時間から換算しても、タイムカード不正は状況証拠から見て明らかです。(ちなみに機械トラブルについてヒアリングしても何も起こってないし、何も知らないとのことです)

問い詰めようとした結果

 物流センター長と連絡を取り、今現在の状況を話をしたところ、
「その方は既に退職しました」だそうです。

 状況からみて、物流センター長とそのパートは、口裏を合わせているので、正しい時間の精査を任せられる人がいません。客観的証拠はタイムカードだけですし、タイムカードはその人がその時間仕事をしていた証拠ではありません。特にその時間にそこにいないという証言が多数あるのですから当然です。

 但し◯時から◯時まではいなかった
という証拠も無いのです。そこの管理者が仕事をしていたと証言するので、どうしようもありません。

 ついでに本社に連絡があり、監督署に行くと脅しめいたことを言われたそうです。徹底的に戦うことも可能ですが、当時は全額払うことで終わらせました。

倒産社長が伝えたい経営の教訓


不正をする人が悪いのではなく、不正ができる体制が悪い

 この事件を現在で考えても、監督署で実態は異なると主張するのは非常に難しいです。「いなかった」という証言の妥当性を監督署が判断できません。どちらが正しいかを判断できる機関は、裁判所になります。

 せめて管理カメラ等の設置があれば、対抗措置になったでしょうし、そうした設備が設置されていたら、こうした不正を安易にやってしまうことに対する抑止効果を生むことにもなったでしょう。

 「人を疑うから防止体制を敷く」のではなく、「人を疑う必要が無くなるために防止体制を敷く」べきです。結果も行動も同じですが、考え方は重要です。

 この事件のせいで、物流センター長への信頼が揺らいだのも、前回で事業閉鎖解雇とした遠因のひとつになっているかもしれません。

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