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敗者だから伝えたい こうして会社は倒産しました 16

~従業員の大量離職~

 前回までのあらすじ。一番頼ってきた有能な営業は、ただの数値トリックでした。

 今回はそれを暴いたことによって、更に大きな問題に発展します。

自分の数値が気に喰わない支店長

 バックリベートを考慮した、実質の利益率で示した個別の営業実績を出し始めると、G支店長の口からは、
「一覧表が見にくい」「やりにくい」「数値がおかしい」
と愚痴を言うようになります。
そりゃそうです。他の営業の順位や成績は、さほど変動はありませんが、彼に限っては営業利益率断トツ1位だったのが、断トツビリに転落しているのですから。

 彼の実態の営業成績的から換算すると、彼の給料分の粗利益すら確保できていない程度であり、全体の足を引っ張っているのも彼です。
元々の営業成績については
・関連会社商品の売上
・利益率
・売上
が評価の指標になっていました。

 G支店長は支店長なので、支店の営業担当の割り振りは彼が行っています。冷静に見れば、同業者との競争が激しい顧客や営業商談のスキルが必要な顧客は新人に任せ、バックリベートが大きい顧客や、ほとんどの売上が関連会社商品だけの顧客が彼の担当になっています。

 つまり自分だけの数値が楽して上がりやすい工夫をしてきたのです。それが本来必要な会社の利益につながれば何も問題ないのですが、見せかけの数値が上がりやすいだけで、単に安売りするだけで成果を出しているに過ぎない状態だったわけです。

先代社長からの教え

 先代社長からも様々なことを教わった部分があるのですが、この時に頭に浮かんでいたのは、
「社長が今何を見ているのかを、社員が意識している」
という言葉です。帳票や算出根拠の変化によって、私が
「実質の利益率と利益額を増加することが重要」
と考えていることが伝われば、利益率を上げるような行動に変わると思っていたのです。

 残念ながら思いは誰一人全く通じず、言葉で言っても動かないというジレンマに陥ってしまいます。値上げや利益率が高いものに変更するよりも、安売りできるものを案内した方が、顧客の反応もいいし売上も上がって気分がよくなるし、そうした営業ばかり長期間続けた結果、約1名(G支店長ではない支店長です)を除いて、まともに交渉した経験すら無かったことに気付いていなかったのです。

 これは、できないことを無理強いしていることと受け止められ、次第に態度も悪くなるし、命令も聞かなくなってきました。

そして計画的な退職が始まる

 ある日、G支店長の営業が退職届を持ってきます。営業もそこそこの実績を出している若い社員です。当然引き留めしますが、意思が固く退職を承諾しました。

 そして2週間後に別の営業が退職届を持ってきます。既にその表情からこちらも察するものがあります。その後も次々と退職届の提出があり、
・G支店長
・G支店長の支店の営業2名(全員)
・本部仕入責任者
・本部経理職員2名(全員)
・本部仕入受付担当者1名
の総勢7名です。全員正社員です。

 ちなみに当時の従業員のうち正社員は、
G支店 営業3名、H支店 営業2名、
I支店 営業2名、J支店 営業2名、
本部 仕入2名 経理2名 の13名です。

 さすがにダメージは非常に大きいことになります。うち4名は勤続15年以上であり、そう簡単に補充ができるものではありません。

 後に分かった全貌としては、1年前よりG支店長が福岡の同業者と密談を重ねており(その様子は仕入先が多数目撃)、同業者の鹿児島支店設立に向けて、G支店長が全員を勧誘(一部は脅し)した結果で起こった顛末です。

 全員が退職する前に、ある程度の情報は入手できたので、悪影響が広まる前に行動に移ります。
・退職届が出ていたG支店長には「今日から退職日まで出勤しなくていい」と通告。
・飲食店でアルバイトしていた元中堅スーパーのバイヤーを仕入れ担当に採用
・未経験の営業を3名採用し、顧客先で午前中は品出しをしながらコミュニケーションをつかみ、同時に商品構成を学んでもらう
・コンビニ部門で働いていた弟を最大の顧客先の担当にする
・経理部門の新規採用
・中堅以上の顧客の社長を巡回し、不義理の会社との取引をしないよう要請
・福岡の同業者に乗り込み、社長と直談判

動乱の結果

 これらの行動の結果、
・顧客については1社を除いて取引はしないと確約
・G支店長は2年間は福岡の会社として採用しないと確約
・営業の新メンバーによりむしろ活性化
・経験のある経理採用によって大きな問題は起こらず
ということで、売上的には微減程度となり大きな影響は回避されました。

 G支店長は福岡の同業者の社長と親しくしている宮崎の製造メーカに一時就職となったようです。業界から2年離れれば、第一線として通用しなくなることはこちらも承知の上でしたし、復帰しても役職者として任用はされないでしょう。前述したように、利益が取れる営業は、社内に一人しかいなかったので(残った社員の一人です)。

 一度だけ退職後のG支店長と話をしたのですが、その際にこれだけのことを起こしたきっかけを聞いたら、
「昇給が見込めないと住宅のステップアップローンが払えなくなるから」
と言われました。
そんな理由で、20年働いた会社を潰そうと計画することが恐ろしいと実感した出来事でした。

 そのあと現在まで退職後の彼らの姿を見たことはありません。


倒産社長が伝えたい経営の教訓


本当にどんな会社にしたいという将来のビジョンをもつべき
 
 この一件では、反省する部分や気付きがたくさんあったのですが、一番大きな部分はこれだと感じています。自分には、赤字を減らして債務超過を解消することしか頭になく、債務超過が解消したらどうなるかすら、何も考えていなかった。

 数年で資金枯渇の状態だから無理もない状態ではあっても、社長が将来に夢を持たない企業で、従業員は何の希望をもって働けばいいのでしょう。ただの夢物語でも空想でもあれば、何かが語れたのですが、本当に何も無かったのです。

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シリーズ1回目はこちらからです。


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