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敗者だから伝えたい こうして会社は倒産しました ⑨

~決算書が全てを語れない~

 前回までのあらすじ。父である先代社長を失った中で、後継者として宣言した私です。これからが本当の倒産社長のお話です。

決算書の再確認

 実は帰郷してから最初に見たのは、過去の決算書でした。
会社が3つあり、どれも決算時期は異なります。全ての企業で営業利益・経常利益は少ないですが出ていて、決算上で問題になるようなものは一切ありません。財務状況も負債はある程度多いのですが、資産もそれなりにあるので、問題になるようなものはありません。

 問題になるようなものが無いのに、会社は安定していないのです。何かがおかしい。

 そこで生前に社長に聞いたことがあります。すると各会社に関連会社勘定があって、そこで取引して辻褄を合わせている・・・意味不明です。A社のうち○○円はB社のもので・・・と説明されましたが、3社で相互取引もしているので、よくわからないのです。

要するにわかったことは、なんとなく粉飾している感じです。

新社長に就任して最初の仕事

 前社長の死亡により、保険金が入りました。総額3億円です。巨大な資金が補充され、大いに喜べる話のようですが、現実的には違います。これは再生用の原資なのです。

 新社長に就任して最初に行ったのは、決算書の整理。意味不明な決算書を見て判断しても役に立ちません。そのため循環しながら溜まっている関連会社の相互取引を保険金を利用して相殺しました。つまり、溜まっている関連会社の買掛金を全額振込して払い、次々に買掛金を消していきます。残ったものだけにすると、ほとんどの関連会社間の売掛金・買掛金が無くなり、純粋な年間取引だけになります。

すると恐ろしい状況が見えてきました。

 3社とも債務超過です。昨年度決算書も黒字に見せてますが、昨年度も実質は赤字。ひも解いてみれば、恐らくB社とC社は創業以来黒字になった形跡がありません。A社は初代社長の死亡後に程なく赤字転落しています。
勘違いされないように言いますが、3億円の保険金を入れて債務超過です。

 この時点で即座に廃業すれば、数千万円の負債で解散することができます。私と母が連帯保証人だったので、二人の家屋敷・現預金を含めた資産を全て負債に充てれば、1千万円程度の負債で終わらせられます。

 ここで選択です。
① 3億円の現金を元手にして、事業再生をする
② 全廃業、全資産放棄で、1千万円の負債を返済しながら転職する
③ 事業をそのまま誰かに継承させる

 とりあえず②は、とても選択できません。転職して1千万円払える自信もありません。③は実はその当時考えて無かった選択肢です。その時に切り売りしたら、A社だけでも生き延びた可能性があります。B社を承継できる会社はありました。思い付かなかったのですが、思いついてもその決断ができたかは微妙です。なぜなら当時は3億円の現金預金があり、当面倒産する懸念が無いからです。これは承継前から続く危機感の欠如だと思います。

結局①を選択することにしました。それさえも茨の道だと思いましたが、他に選択肢は無いと思えたのです。

決算書が会社の正体を教えてくれる

 きれいになった決算書を見れば、各社の問題点は浮彫になってきます。しかし問題は、3社の取引があまりにも密接なことです。問屋の利益率を最も下げているのは自社商品です。また、自社商品を販売するバーターで仕入れ商品も下げている場合がありました。

 A社の赤字は利益率が落ちていること。利益率が落ちているので採算分岐点が高くなり過ぎて赤字転落です。利益率を上げるか、売上を上げるかの比重をどうするかが重要です。

 B社の赤字、本来の核心がつかみにくい状態でした。何か嘘が潜んでいるような感じがしたのですが、そこが掴み切れません。

 C社の赤字は、単価が安過ぎて、売上が採算分岐点に届いていないことです。クレームが大量に発生していたことから、売上増進につなぎにくい状態は続いていました。課題は大きいです。

これからが正念場です。意思を継いで大活躍になるつもりでしたが、結果を題名で書いているので、それを期待して読んでいる人はいませんよね。

倒産社長が伝えたい経営の教訓


粉飾決算するなら、裏帳簿作れ

 テレビドラマで企業ものを見ていると、「隠している裏帳簿を探せ」の話が時々ありますが、視聴者として見ているときは、
「見つかると致命的な証拠をわざわざ作って保管しているのは、もしかしてバカではないのか?」
などと思っていました。

 粉飾決算は違法行為だし、金融機関の信用も無くなるので、当たり前にダメですが、本当の姿が分からないと正しい判断ができません。むしろ窮地に追い込まれ時こそ正しい判断が重要になるので、正しい決算書は必要です。

粉飾決算するなら、裏帳簿もちゃんと作りましょう。
粉飾決算はやめましょう。


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