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敗者だから伝えたい こうして会社は倒産しました ④

~建物を資産だと思ってはいけない~

 新社長となったY氏。そして前回触れていない残る二つの問題も、会社を揺さぶります。

前回の話はこちらです。

能力トップの職人がいなくなった問題

 商品戦略を駆使してメーカ業を営むY氏。以前は製造はX氏、販売と経理はY氏のすみ分けで、信頼できる相互の関係ができていたのですが、両方を同時に行うことで、問題はますます大きくなります。

製造業としては、均一化した商品をより多く製造することでコストを削減して、より高く販売されることを望みます。

問屋業としては、バリエーションの多い商品を、少量多品種の商品を、できるだけ低価格で仕入ができることを望みます。

 両方の商品戦略は全く逆です。多くの製造業で生産部門と営業部門の仲が悪いのは、お互いの都合のいい条件が全く逆であることが少なくありません。

 Y氏の場合は、より売れる商品戦略に傾倒していきますが、その根本理由は返済資金を生み出すためです。むしろ繁忙期には製造作業もしており、販売一辺倒の人では無かったはずが、営業中心の戦略にせざるをえない状態に追い込まれているのです。

兄弟の両輪で成長してきた戦略ができない

 兄弟の両輪は、製販の役割分離だけでなく、社長・専務の関係だったので、従業員の叱り役となだめ役を互いに行ったり、顧客への押し役と引き役だったりと、様々な場面で行われていました。

 それが一人になると、両方の役を同時にすることになるので、どうしても力強く行動することができずらくなります。それが全体のガバナンスやコンプライアンスの低下だけでなく販売力の低下にもつながっていきます。

 そうこうする間に、社長が不在になることは滅多に無かった工場から商品製造に厳しかった社長がいなくなり、製造現場も混乱が始まります。それに加えて、少量多品種戦略に舵を切った事で労働時間は増加し、品質的なクレームも徐々に増えていきます。

 特に足を引っ張っていたのが、C社の豆腐製造業です。問屋業であるB社のおかげで、豆腐の販売量は劇的に伸びていましたが、機械の故障が多く、修理屋さんを毎月呼び出して、そのたびに、製造が遅延するトラブルが起こっていました。

 生産が止まったことによって、仕掛け品の品質が劣化し、品質に偏りが出ることや、修繕費が高額になることもあり、利益がでにくい体質の会社になっていました。

いよいよ私が登場するのです

 そこに現れた救世主がさっそうと登場するわけでもなく、会社事情を何も知らない私が東京から帰郷します。帰郷する経緯は、半分騙されたような形もあったのですが、個人的にはいずれ後を継ぐ意思があったので、それが早まったような形です。

 私は前職で品質管理や人員管理に加え、ハイスピードラインの機械修繕等も行っていたので、機械修繕は得意な方です。C社のトラブルに際して、修理を行う場面は多く、本来なら根本的に停止しにくいように製造機の改造をしたかったぐらいです(一部はやりました)。

 そこに並行してA社工場の移転話がありました。私の帰郷に合わせて話が進んでいたようです。残念ながら、この新工場建設で早くも私とY氏で親子喧嘩が始まります。

新工場建設に向かって

 元々の工場は、スレート葺き屋根の倉庫のような建造物の中で製造を行っており、当時さつま揚げ蒲鉾のような、魚肉練製品と言われる分野では、業界等からHACCP基準を満たすような推奨があり、天井すら無い工場では、はるかに及ばない状態でした。

スレート葺の工場(イメージ)

 品質の安定化の意味と、顧客へのパフォーマンスの意味を踏まえて新工場は売上増大のPR戦略としても有効な手段だと考えられていました。

 現在の工場を壊して立て直すとすれば、建設中の製造ができなくなるので、新設工事をすることが望ましく、そうした中で候補となった物件は、銀行の不良債権物件である元漬物工場でした。

 旧工場の1.5倍の敷地面積で、今の工場から車で20分程度の場所です。私もそこを見学に行ったのですが、そこもスレート葺の屋根で高過ぎる天井では、とても安定品質は無理。旧工場よりきれいなのは事務所だけです。

 内装改装では面積効率も悪く、生産効率が悪くなるのも一目瞭然で、建て直しした方が絶対にいいと直感で感じました。後に機械の大きさを測定し、配置してみましたが、やはり直観通りの状況であり、壊して立て直す以外の選択肢は無いことは確実でした。

 しかしY氏の思惑は全く別の方向を向いていました。この物件は、土地1億7千万、建物3千万の2億で購入し、建設費用1億を含めて3億の融資によって成立する話です。

 Y氏は内装工事を5000万円で収めて、残る5000万円は資金繰りにしようとしていたのです。新工場は顧客アピールによる売上アップのパフォーマンス的に必要で、工事期間も工事費用も最初からほとんど無いのです。

この話もY氏が亡くった後で理解できたことで、なぜ頑なに私の意見を無視するのかは一切教えてもらえませんでした。

 今になって冷静に考えれば、建物はゴミなので価値無しとして、解体費用3千万見込んで、1億4千万が妥当な買い物だったと思います。鉄骨だけ残して解体し、パネルで敷き詰める工法をすれば、当時であれば1億で十分に建設が可能です。それで完全新築同然で3千万残るのです。今の知識があれば、かなり違った未来があったと感じます。

倒産社長が伝えたい経営の教訓

事業にとって、建物はむしろ負債だと思うべき

 建物は会計上は資産です。しかし価値は耐用年数前に修繕が必要になるし、転売価値が無くなる可能性もあります。むしろ解体費用の分だけマイナス資産とみなされる場合も少なくありません。買う時も売る時も決算上の価値では無く、実質上の価値で考えるべきでしょう。

 個人の住宅なら意味が違うので、考え方は個人それぞれの価値観次第だと思います。

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