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産後のズタボロメンタルと、M-1グランプリ2020の錦鯉の話

昨年のM-1グランプリが放送された頃、私はとにかくズタボロだった。

11月の終わりに第一子である、息子を出産した。
痛みは本当につらかったけど、ずっとお腹の中で一心同体に過ごしていた我が子とようやく対面できた喜びは大きかった。

しかしその僅か2日後、異常な動悸と緊張感に襲われた。
息が出来なくなって、気が遠くなるようなこの感じ。

これは経験があるからわかる、パニック発作だ。

何年か前にも二度ほど起きたことがある。その時は病院で薬をもらって飲んで、割とすぐに症状はなくなった。
だからすっかり忘れていた。この死ぬんじゃないかと思うような恐怖感を。

生まれたてホヤホヤで儚げな赤ちゃん。
そのお世話について助産師さんから指導を受けながらも、またあの発作が起きるんじゃないかという不安を常に抱えていた。

このまま悪化したらどうする?私が育てられなくなったらどうする?
ただでさえ産後はホルモンバランスがおかしくなるという。
そしてさらに、慣れない赤ちゃんのお世話、周りの人と比べて全然出ない母乳、パニック発作。
里帰り出産を選ばなかったので退院後ゆっくり休む時間もない。

不安と緊張で入院中はほとんど眠れず、結局、助産師さんに相談した。

助産師さん達は優しかった。
特に、自身の娘さんも産後パニック障害を患ったという助産師さん(この人はお産の時も担当してくれた)はすごく親身に話を聞いてくれて、泣いてしまった。
そして退院時には「お守りがわりに」と先生が安定剤を処方してくれた。

そして退院後、さっそく始まる育児。
我が家は安心するが、入院中と違って困ったことがあっても誰も教えてくれない。

夫は家にいる時は、育児と私へのケアを非常に頑張ってくれた。
しかし育休は数日しか取れなかったため、必然的に日中は私一人で育児をすることになる。

実母は遠方なので、このコロナ禍のなか呼び寄せるわけにもいかない。
対して義母は、沐浴やら掃除の手伝いのため毎日自宅を訪ねてきた。
良かれと思っての行為だ。それはとてもありがたいことだし、実際助かることも多かった。でもその反面、めちゃくちゃ気を遣うのも事実だ。
いつ発作が起きるかもわからないし…

こうして息子の新生児期である12月、私は着実にすり減っていった。
我が子はかわいい。圧倒的にかわいい。だけど心と身体がついていかない。

「お守りがわり」の薬は飲まなかった。飲むと母乳をあげられない、というのが理由だ。まぁ飲まなかったところでどうせ殆ど出ないんだけども…
でも寝る時には常に枕元に薬と水を置いておかないと不安だった。いつ発作に襲われるかわからないから。

そんな毎日だったから、正直殆ど記憶がない。
当時の息子の写真を見ると「あぁ、かわいいな〜」と思うと同時に、それを目に焼き付ける余裕がなかったことを悔しく思う。


そして12月20日。
この日はM-1グランプリの放送日だった。
かつてお笑いファンだったこともあり、M-1グランプリは毎年欠かさずに観ていた。
でもその日はあまり観る気が起きなかった。こんな精神状態で漫才を観ても笑えるかどうかわからなかったからだ。

でも夫の「こういう時こそ何も考えずお笑いとか観た方がいいよ!息子は俺が見とくから」という勧めにより、私はぼんやりとテレビを眺めた。

1番手、インディアンス。去年より面白くなってるな…
2番手、東京ホテイソン。あ〜、点数伸びなかったな…
3番手、ニューヨーク。今年は最下位回避したじゃん…

そんな感じで徐々にのめり込んでいき、ネタを見て笑う余裕が出てきた。

そして「こ〜んに〜ちは〜!!」と颯爽と現れた、9番手の錦鯉。

「パチンコ台になりたい」と言い出すまさのり。
次々にリーチがかかるCRまさのり。
ギャグリーチで失敗するまさのり。
我慢できずにレジ横のまんじゅうを食べてしまい逮捕されるまさのり。
リーチじゃなくて高知がかかる。
そこから始まる怒涛のギャグリーチ。
最後までウケないレーズンパン。
そして常に完璧な”間”でクールにツッコむたかしさん。

めちゃくちゃ面白くて、最高で、涙が出るほど笑った。
これが産後、一番笑った瞬間だった。
この時だけは今後の不安とかパニック障害のこととか全て忘れて漫才に没頭できた。

結局、錦鯉は4位に終わりファイナルラウンド進出を逃した。
でも私の心の中には、マラソンを走り切った時みたいな妙な爽快感があった。

ちなみに、マヂカルラブリーの優勝に異論はない。
魔法のiらんどで更新されていた野田クリの日記は愛読していたし、決勝ネタで電車の揺れに耐えきれずオシッコ撒き散らすところなんて超面白かった。

M-1グランプリを観て少し元気が出た私は、息子を抱っこしながら、授乳をしながら、スマホで過去のM-1グランプリを一から観直した。
※Amazonプライムビデオで初回から2020年まで配信されています。

どのネタも懐かしくて面白くて、元気が出た。
(そしてやっぱり2008年のオードリーは最高だった)
▼若林への愛が綴られている過去記事


それでまぁ、パニック障害やら予期不安やらが治ったかというと、そう簡単にはいかなかった。
ただ、母乳があげられないからと意地になって飲まなかった薬に、辛い時は頼ることにした。別にミルクでも子どもは育つ。
そして専門の病院に行き、治療を受けはじめた。

◇◇◇

そして月日はあっという間に流れ、息子は先日無事に一歳になった。
育児は疲れるし大変だけど、息子は本当にかわいくて愛しい存在だ。育児の疲れを育児で癒す、そんな日々。

しかし実は今でもパニック障害は治っていない。
少しずつ減薬は出来ているが、まだ毎日服薬をしている。
症状が良くなっているのかどうかは正直わからない。でも「病気との付き合い方」は何となく身についてきた気がするし、日常生活も普通に送れている。

それでも「あっ、今日しんどいな。ヤバいかも」と思う日はある。
そんな時は無理せず「お守りがわり」の薬に頼り、フリスクとかミンティアを食べてリフレッシュする。そしてお笑いの動画を観て思い切り笑って、気持ちを少しでも切り替えられるよう努めている。

◇◇◇

ありがとう、錦鯉。
優勝は出来なかったけど、ここ北関東の片隅であなた達の漫才に救われた人間がいます。

自分はまだ思いっきり笑える。こんなに笑えるならきっと今後も大丈夫。なんとかなる。
根拠のない自信だけど、あの時そう思えたのは錦鯉のおかげです。

でも、言うほどレーズンパンって見た目で損してるか?

※※追記※※
錦鯉、M-1グランプリ2021決勝進出おめでとうございます!
また思い切り笑いたい!応援しています!

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