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小匙の書室119 ─そして誰かがいなくなる─

 殺人事件の舞台は、実際に存在する著者の邸宅。
 “一生に一度” しか書けないクローズド・サークルミステリー


 〜はじまり〜

 下村敦史 著
 そして誰かがいなくなる

 発売前から気になっていました。
 なんといっても作中の舞台である下村邸は現実にも存在しているのです。私は著者のSNSで内装を目にしたことがありますが、それはそれはもう、「絶対に何か起こるやつだ!」と不謹慎にも喜んでしまうほどでした。
 自宅を舞台にするなんて、私の中では前代未聞の作品です。
 だから本作は、推理小説でありながら家庭訪問として楽しく読むことができるでしょう。
 そんな場所で「そして誰かがいなくなる」。
 ワクワクしながらページをめくっていきました。

ぺらり


 ………………ふうむ。

 素晴らしくミステリ愛に溢れた推理小説でした。


 〜感想〜

 ミステリに登場するような館を実際に建築し、しかも事件まで起こしてしまう
 そんな前代未聞な作品、主な感想は以下の通りです。

実在する邸宅。その、お披露目会でもある
 ミステリを読んでいると、「一度でもいいから作中にあるような館(邸宅)に住んでみたい……」と私は思ってしまうのですが、本作はそうした願望をある意味で強くさせてしまうものでした。
 なんといっても、現実に存在している邸宅の豪奢な内覧が丁寧に描写されており、私もそこへ足を運んでいるような気分になるのです。合間に写真も挟まれていて、「本当に実在しているんだ……」と何度も感嘆していました。
 ※冒頭での打ち合わせシーンはメタ的で、それも面白かったです。

ミステリ作家によって集められた男女。そして、誰かがいなくなる──
 怪しげな邸宅、集められた男女、視界を覆う吹雪。
 これはもう、何も起こらないわけがない。本作はミステリですからね。
 ただ……『そして誰もいなくなった』のように連続して人が殺されていくというより、一つのきっかけから積み重なっていく、小さな不可解さがもたらす不穏な気配が私を釘付けにしました。
 果たして、誰がいなくなってしまうのか……。

変わる視点。読めない内心
 登場人物それぞれの視点で事件から結末まで綴られていくので、そのときは怪しく思えなかった人物でも別の視点から窺えば怪しく思えてくる
 私は誰を信じていいのかわからず、ぼやけていく犯人像には悩まされました。

愛に溢れたミステリ
 古今東西さまざまなミステリに対するユーモアや愛に溢れた作品だと、読み終えた後には十分に納得がいきます。まずタイトルが『そして誰も〜』のオマージュですものね。
 いやそもそもこんな邸宅を建てること自体、ミステリを愛していなければ不可能です。※SNSで綾辻行人先生や知念実希人先生が来訪している写真を眺めてはニコニコしていました。
 作中に登場する作家や評論家が、事件を前にして「これはフィクションか否か」に惑う姿には「ミステリあるある」が含まれているので、それも楽しめました。

ネタバレ厳禁
 どの作品にも言えることですね。
 だけど実在の建築物を題材にしているからこそ下村先生の熱意が伝わってきますし、それ故に、その熱意をフイにしてしまうのはネタバレという言葉から響くイメージよりも大罪にあたるのです。
 一生に一度の体験を、是非ともお楽しみください。


 〜おわりに〜

 いや〜とにかく面白かったです!
 巻末には二次元コードがあり、そこからデザインを請け負ったユニバーシスさんのサイトに飛ぶことができます。
 私にも大量のお金があったならば、ぜひとも奇抜でぶっ飛んだ館を依頼してみたい……。

 ミステリとしての面白さの他、夢や希望が膨らむ一冊でした。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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