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SF読書交換日記 第1回 星新一「処刑」

何度読んでも冒頭2ページから圧倒される作品。

銀の玉ただ一つを持たされ、広大な大地にとり残された男。生きるために必要な水は球体のボタンを押すことで得られる。ただし、銀の玉にはいつ起動するか知れぬ爆弾が組み込まれていて…。

文明が進展し、機械によって罪を裁かれるようになった社会。罪人の最終流刑地となったかつての新天地、赤い惑星でいつか来る「処刑」のときを待つ日々。単語一つ一つが的確に選びぬかれているため、多すぎない文章量で作中の社会構造や男の置かれた状況を過不足なく説明している。飢えと渇きを満たそうとする度に男は死への覚悟を求められる。しかし、乗り越えれば生への執着が一層強まり、次にボタンを押すために更なる覚悟が必要になる。
少しでも気を楽にしようと考える術を一手ずつ確実に潰していくことは男に、そして読者に対しても絶望を刻み込んでいく。

絶望の極点に達するまでが綿密に描かれることで、最終段で男が抱く「悟り」に似た心境へと一気に引き込まれる。そして、ラストには眩惑的な光景が...。

初読はSFも星新一作品も読み始めたばかりの数年前に、第0回で挙げられた『ようこそ地球さん』で。今回の再読にはちくま文庫のアンソロジー『暴走する正義 〜巨匠たちの想像力(監視社会編)〜』を用いた。(他に筒井康隆「公共伏魔殿」、小松左京「戦争はなかった」等も収録)

初読時はラストシーンの衝撃に引っ張られて満足していた部分があるが、改めて「監視社会(あるいは管理社会)」テーマを強く意識して読めたことで、冒頭部を含めて感じ入ることができたと思う。

アンソロジーで再読したことに加えて、以前読んだ佐野洋・小松左京との対談(國文學のSF・ミステリ特集)が記憶に残っていたことも個人的に良かった点。同対談では『日本沈没』が沈没に至るまでの過程も綿密に書いたことに触れて、「星新一だったら沈んだところから書き始める」と話されていて、確かにそのように描かれているなと新たな発見に繋がった。これは、「ゆきとどいた生活」といった他作品でも、本作とは異なる“管理”社会での一幕と言えるかなと想起させられた。

以上のように、再読したことで新たな良さに気づくことができた傑作だった。

次の担当者は壁石氏。課題作は宮内悠介「盤上の夜」(創元SF文庫、同題短編集表題作)を指定する。本作も個人的に何度も読み返したくなる短篇のひとつで、感想が気になるところ。といったところで、第1回の交換日記を終えたいと思う。

(本淵洋)


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