見出し画像

【2021年振り返り】 良かった本/Best Books of 2021

2021年は88冊の本を読みました。
その中で特に良かった10冊+αを紹介します。

全体的な振り返り…
2021年は(小説やエッセイのほかに)人文書を中心にネットワーク理論への興味から集団力学、認知心理学や行動経済学の視点からの「共感」へと関心あるトピックスの本をいい流れで読めた年でした。



1 .『生命科学的思考』  高橋 祥子

生命の原則を客観的に理解した上で主観(個人の生き方やビジネスへの応用)に活かす思考法がテーマ。理路整然としたロジックのスマートさとともに生きることを強く応援してくれるような熱量があり、誠実さを感じた。

2.『進化思考』  大刀川 英輔

生物や自然の変異と適応から創造性の本質を学ぶ本。
2週間に1度の定例読書会でメンバーと何ヶ月もかけて本書の創造のワーク(50個ある)を少しずつやっていった。拡散と収束を繰り返しながら考える体験はとても楽しかったし、この1冊あればこの先も「創造」で遊べる!とすごいわくわくをくれる本。

3.『居るのはつらいよ』  東畑 開人

軽快なユーモアを交えて語られるデイケア施設の現場の話の中で、じわじわと心臓を握られるようなしんどさがあった。私たちの多くは「する」ことがなければそこに「いる」ことができない。何の役割ももたず、ただそこに存在していることのいたたまれなさ。ケアとセラピーの違い。意識して省みたことがないことを深く考える機会が生まれ、学びが多かった。

4.『反共感論』  ポール・ブルーム

共感には
・認知的共感→他者の感情を自分の感情とは別物と捉えた上で理解すること
・情動的共感→他者の感情を自分の感情も同じように感じること
の2つがあり、おもに情動的共感に合理的判断ができなくなる危険性を語っている。また、道徳的行動をとることにとって共感が必須ではないこと、(共感がなくても)理性があれば他者を思いやることはできると強調している。理屈や理論じゃ守れないものもあると思うが、身近な人に対してや合理的判断な判断が必要な場でバランスを保つためには…。まだまだ一辺倒の答えは出さず考え続けたい。

5.『社会はなぜ左と右にわかれるのか』  ジョナサン・ハイト

人々の思想を左右する「道徳」を掘り下げた一冊。
人間の道徳心を多角的な視点から読み解き、メタファーを使っての説明や他分野にまたがる考察が読み応えがあった。中盤ではアメリカの2大政党を6つの道徳的基盤を新しく示し、どの価値に重きを置くか(なにを大切と思っているか)で両者の違いを明らかにしていく。「皆で仲良くやっていこう、誰もがここでしばらく生きていかなきゃいけないんだ」 表紙をめくったところに書いてあるロドニー・キングの言葉が沁みた。

6.『ジーノの家』  内田 洋子

2021年に初めて読んだ内田洋子さんのエッセイ。
自身を「外側」において相手をみつめる力とその寛容的な人柄から描かれたイタリアの市井に生きる人々の甘味も苦味も抱き合わせた人生の話は、まるで短編映画を見ているように美しく、切なく、楽しかった。2021年はこの本に出会ったあとも『ミラノの太陽、シチリアの月』をはじめ内田さんの本をたくさん読んだ。どれも良かった。

7.『ザリガニの鳴くところ』  ディーリア・オーエンズ

ノース・カロライナ州の湿地を舞台に、家族に捨てられ一人で育った少女の成長(過去)とその湿地で起きた不審死事件(現代)の、2つが交差しながら進むミステリー。
動物行動学の科学者である著者の自然や生物の描写力に感嘆するとともに、孤独でなければ自由であることを感じられない少女の姿を見守り、読了後はその小説の中で事象として何が起こったかよりも両手で顔を覆いたくなるような言葉にできない感情の方が残る小説だった。

8.『名もなき人たちのテーブル』  マイケル・オンダーチェ

セイロン(スリランカ)の叔父の家から母と暮らすためにロンドンへ向かう客船に乗った11歳の少年の21日間の旅。船の食堂で上流のテーブルから最も離れた「キャッツテーブル」と呼ばれる優遇されない末席に座り、船上で同年代の少年らとともに思いつく限りの悪さをして、個性豊かな大人たちに囲まれ、そして大きな事件を経験しおとなにならざる得なくなる。
いずれ忘れる人、船を降りたらこの先も会うことのない人たちと、相手にとって「何者でもない」状態で過ごす人生の中の21日間。自身も旅をしながら暮らしていたときを思い出した。折を見てもう一度読みたい一冊。真っ青な装丁も美しい。

9.『サイコセラピスト』 アレックス・マイクリーディーズ

夫の顔面に銃弾を撃ち込み、それ以来6年間ひとことも言葉を発しない女性画家に主人公のサイコセラピスト(心理療法士)が「真実」を知るためのカウンセリングを試みるミステリー。
一見奇妙に思えるどの人物の行動にも背景のピースが埋まると「なぜそうしたのか」が理解できる。その構造、そして腑落ち感が見事だった。

10.『イリュージョン』 リチャード・バック

『かもめのジョナサン』で有名なリチャード・バックの小説。日銭を稼いで生きるひとりの飛行機乗りの男が、奇跡を起こす救世主でいることに飽きてやめてしまった「元救世主」の飛行機乗りと出会い、ともに過ごす。執着しないこと、何にも縛られず飛び回ること。寓話的で不可思議な設定だが、清々しさを感じた。

番外  『あなたはブンちゃんの恋』 宮崎夏次系

カウントした88冊に漫画は入れていないけど、「ベスト本」と言われるとどうしても挙げないわけにはいかない1冊。
もともと友人におすすめされた短編集『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』『僕は問題ありません』から衝撃を受けて読み始めた宮崎夏次系作品。2021年にスタートした長期連載のこの作品は、(これまでの作品と同様に)相変わらずイカれた人間・行動ばかりなのだが、「人を本当に好きになるというのはこういうことだよな」という登場人物に共感する自分を見つけてしまう。宮崎夏次系作品には、とても複雑でごちゃまぜになった感情を、曝け出し、爆発させ、昇華してくれる「クセのつよい優しさ」がある。


その他

上記以外の印象に残った本。
とくに『西洋音楽史』はクラシックの歴史を辿る中で、
出てきた曲をPCやスマホで検索して実際に聴き、
その変遷を「なるほど〜」と感じながら読むという読書体験が出来て新鮮でした。

●(音楽史)『西洋音楽史』岡田暁生
●(文化史)『世界をつくった6つの革命の物語』
●(ネットワーク)『私たちはどうつながっているのか』増田直紀
●(群知能)『群れはなぜ同じ方向を目指すのか』レン・フィッシャー
●(集合知)『「みんなの意見」は案外正しい』ジェームズ・スロウィッキー
●(社会)『縁食論  孤食と共食のあいだに』藤原辰史
●(小説)『レクイエム』アントニオ・タブッキ
●(小説)『わたしたちが光の速さで進めないなら』キム・チョヨプ
●(小説)『君たちは今が世界』朝比奈あすか
●(エッセイ)『わたしを空腹にしないほうがいい』くどうれいん
●(エッセイ)『春になったら苺を摘みに』梨木香歩
●(エッセイ)『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子
●(写真集)『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々』グレッグ・ジラード/イアン・ランボット
●(画集)『ものがたりの家 −吉田誠治 美術設定集−』吉田誠治
●(絵本)『ぼくは川のように話す』ジョーダン・スコット/シドニー・スミス


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?