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くちびるに色を──コスメ紹介エッセイ(Celvoke)ディグニファイド リップス09


メイクが面倒になったのいつからだ?
就職活動を始めた時からかもしれない。「自分のため」ではなく身だしなみの一環としての──他人様に不快を与えないために、マナー講座と並列で習った化粧があまりにもつまらなくて虚しくて、就職活動がうまくいかないのも相まって毎日鏡に向かうのが嫌だった。

嫌々ながらもやれと言われたことは受け入れるのが社会人だということに気づくのは数年後のお話。ただし、100%受け入れる必要はない柔軟性と創造性を持つことが大事ですよね、ええ。

今は会社に行くための化粧を、「OLのコスプレ」と呼んでは日々楽しんでいる。最初は「こんなのわたしじゃない!」と思っていたけれど、「こんなのわたしじゃない」からこそ「会社用のわたし」という自分の新たな一面として受け入れることが出来ている。

この話は数か月前に書いたのでぜひ読んでください!我ながら結構好きな文章です。

メイクがつまらなくなったのはいつからだ?
これはハッキリわかる。マスクを常時着用するようになってからだ。

この3年間で失われたもの。わたしにとってはリップメイクだ。
くちびるから色を失っただけでこんなに日々はくすむのね。

この前家にある化粧品を整理した。明らかに化粧品の好みが変わっていた。

2019年ごろはカラーメイクが好きだったようで、アイスブルーのアイシャドウパレットにチャレンジしてみたり、オペラのリップが何本も出てきた。(流行っていたね…)

オペラのティントリップ05 コーラルピンク、今はもう廃盤になっているのですね。皆持ってたよね、あの頃。とってもお世話になりました。就活の時によく使っていました。無機質な就活メイクでもこの色を塗ると華やかに、でも自己主張が強すぎず仕上がるので大好きでした…!ありがとうございました泣

わたしが持っていたリップの中でも特にお気に入りだったのが、セルヴォークのディグニファイドリップ09テラコッタ。

これもオペラ並みに雑誌やインスタで見ない日はないくらい流行っていた。ほぼすべての雑誌のベストコスメ大賞にランクインしていたし、インフルエンサーがこぞって紹介するのはこれだった。あの時はテラコッタをはじめオレンジベージュ系がやけに流行っていた気がする。ああ、オペラのアプリコット……

かく言うわたしも記事を見た時「なんて可愛い色なんだ!」と一目惚れし、バイト代を握りしめて新宿伊勢丹のカウンターに向かったのだった。

新宿伊勢丹の化粧品売り場、妙に緊張するのよね…。
BAさんと目を合わせることすらままならないくせに、わたしはタッチングもろくにせず一言、「これください」。

そんな青い思い出がよみがえってきたのは、久しぶりにテラコッタをくちびるに乗せたから。

「あ、可愛い。」

鏡に映ったわたしは、思わずそんな言葉を漏らしていた。

すっぴんではないけれど、化粧水を塗った後化粧下地を兼ねた乳液で整えただけの肌。今日は家から出ないつもりだったから、眉は書いてないアイシャドウも乗せてない。ああ、生理前だからホルモンバランスが乱れて顎にニキビができている、肌が荒れている。

とってもひどい顔! とても人様にお見せできる顔ではない。

それなのにわたしはしばらく鏡を見ていた。唇に色が乗っている。ただそれだけでわたしの顔が一気に華やいだのだ。

潤いを湛えたみずみずしい唇が透け感と艶感になったような、ニュアンス発色を叶えるリップスティックです。ディグニファイドオイルブレンドで体温に溶けるようにのび、ぴたりとフィットします。

【Celvoke】ディグニファイド リップス 【商品説明】より

マスク生活を余儀なくされ、不安に満ちた生活の中、わたしは自らの意思で静かに耐え忍ぶことが美学だと思っていた。一番顕著に現れたのは化粧かもしれない。顔に色を乗せなくなった。だってどうせ顔を覆う画一的な白に隠れてしまうのだもの。個性なんて必要ない。メイクが面倒になったんじゃない。メイクが楽しくなくなったのだ。

カラーメイクが懐かしいと感じたのも、アイシャドウは無難なブラウンしか載せなくなったからだ。社会人になってしばらく経つというのもあるし、出かけなくなったというのもあるし、マスク姿なのに目元だけ色を乗せても、技術のないわたしではバランスの取れていない顔になってしまう。何より、新しい色にチャレンジする気力もこの3年間起きなかった。ただ、「わたし」という人間の生活を保つために、先の見えない日々をやり過ごすことしかできなかった。わたしだけじゃない、みんなそうだ。みんなそうだから耐えられた。でも、全然楽しくなかった。楽しくなかったよね、毎日……。

2023年8月、脅威は去っていないものの少しずつ日々を取り戻してきた。元の生活に戻れたとはとても言い難いが、乾き切ってモノクロだった日々に潤いと色が戻ってきたのは確かだ。

化粧品には使用期限がある。
未開封でも3年、開封後は基本的にワンシーズンで使い切るのが目安だそうだ。

アイスブルーのアイシャドウパレットも、オペラのリップも、そして、なけなしのバイト代でやっと手にしたセルヴォークのリップも、2019年のときのわたしのためのコスメであり、今のわたしには使えない。その時だけ使える魔法だったのだ。

乾き切って色をなくしたくちびるに、わたしらしさを思い出させてくれたセルヴォークのリップ。4年が経った今なら堂々と新宿伊勢丹に足を踏み入れることができる。そしてBAさんの目を見てしっかり伝えよう。
「今のわたしに似合う色を教えてください。」

タイトル画像お借りしました。(pottan_ 様)
素敵な画像をありがとうございます!

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