掌編小説『師走のふたり』
警備員に労われてビルを後にすると、空はもうすっかり黒く塗りつぶされていた。星座に疎い俺でもわかるオリオン座の三ツ星が大きく浮かんでいて、もうそんな季節なのだと改めて感じさせる。
「おー、結構星が出てますね」
「何それ、口説き文句?」
「東京でも見れるんだなって思っただけですよ」
「冬は空気が澄んでるからね」
くすっと笑う先輩に、俺はため息を吐きたくなったのを我慢する。
年の瀬も近づいた東京の街。残業後の、葦の様な俺たちにはあまりにも眩しすぎて、思わず目を擦った。ブルーライトに