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掌編小説 葉っぱが紅く染まる理由

さっき遠くにいたはずの雲が、もう頭の上まで来ています。そんなに急いでどこへ行くのでしょう。風は冷たい声で早く帰りなさい、とけしかけてきます。夏の終わり。夏が終わると、世界はやるべきことが増えるのです。

ご覧なさい。太陽までが野原を金色に輝かせています。実りの季節はまだだというのに。

ところで、あなたは秋になるとどうして草木が赤くなるのか、知っていますか?

山の木々たちはみな、夏を愛しています。なぜなら夏はいつも大らかで、木々たちに優しいから。夏になると木々たちは思う存分に背伸びをすることができるからです。

しかし、夏はいつまでも止まっていてくれるわけではありません。夏は毎年役目を終えると、夕日を追いかけて別の場所へと行ってしまいます。

夏が去ると、今度は秋がやってきます。秋はあまり人気がありません。というのは、秋は夏ほどには日差しや暖かさを木々たちに与えてくれないからです。

ある日、一本の楓が言いました。

「ねえ、私たちがみんなで真っ赤に染まってしまえば、きっとこの山に夕日が差しているように見えるでしょうね。そうしたら、もしかしたら、また夏が戻ってきてくれるんじゃないかしら」

周りの木々たちはみな、その意見に賛成しました。そうして、彼らは一斉に、まるで夕日のような色に染まるようになったのです。

さて、そのことを聞いた秋がとても気を悪くしたのは言うまでもありません。元々秋と山の木々たちとの間はそれほど親密ではありませんでしたが、この木々たちの行動によって、秋は山の木々たちを敵だと見なすようになったのです。

そして秋は、自分の役目が終わるときまで、とても強い力で風をびゅうびゅう吹かせるようになりました。そうすると、赤や黄色に染まった葉っぱたちは、冬が来るまでにみんな地面に落ちてしまいます。

「へへん。ざまあみろ」と秋が言います。すると山の木々たちは、ますます秋が嫌いになるのでした。

そんなわけで、山の木々たちと秋は、毎年ケンカをしています。秋が来ると木々たちは夏を恋しがって葉っぱを赤く染め、秋はそんな葉っぱを地面に落としてしまおうと、びゅうびゅう風を吹き付けているのです。

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