見出し画像

盆栽は令和を代表する文化になるんだろうか論

昨年「盆栽部」という部活を立ち上げました。盆栽に出会ってまだ日が浅い身ではありますが、ハマってしまい、職場を中心に仲間を作り、部活化するに至りました。多くの方に「入りたい!」と言っていただけたり、応援していただけることもある一方、不思議な顔をされたり、「なぜ?」と問われることも多いです。

単純に盆栽が「カッコいいから」「癒しになるから」という事もありつつ、個人的には盆栽を取り巻く人々を動かすダイナミズムに惹かれた所が、盆栽沼に足を踏み入れた理由です。そこで令和の今、なぜ「盆栽」に注目しているのか。なぜ盆栽がトレンドになり、令和を代表する文化になると思うのか。本稿ではお話できればと思います。

ミクロとマクロから、盆栽を眺めてみる。

私は盆栽歴1年半という、まだまだ入門したての初心者の身なのですが、日々盆栽に水やりをしながら、盆栽を愛でる時間が大好きになってしまった人間です。しかし、もともと観葉植物を自主的に持った経験がなく、ましてや盆栽を意識して目に入れたことすらない人間だったと言えるかもしれません。そんな私ですが、ライフワークである文化観測(SNSや街やコミュニティを観測し、トレンドや文化の形成を考察する活動)の一環でweb3領域の情報を漁り続けていた中、たまたまBONSAI NFT CLUBというリアルな盆栽が届くNFTを持った事が、「盆栽」に触れた最初のきっかけだったりします。

なので、実は最初は盆栽そのものではなく、盆栽師さんの活動や、文化的な背景、盆栽の置かれているビジネス環境などから興味を持ち始めました。そのうちに実際に自分でも盆栽を持つようになり、盆栽園、盆栽美術館、販売店などの盆栽スポットにも通うようになりました。そして、毎日自分の盆栽に水やりをし、ワーワー言いながら植え替えや枝葉の手入れをしたりするうちに、すっかり盆栽そのものの魅力にもハマってしまい、現在に至ります。

もはや各種アイコンもBONSAI

熱狂につながる盆栽の沼らせる熱狂の源:ミクロ視点からの考察

盆栽を自分で持ってみてわかったのですが、実は毎日の「水やり」さえすれば誰でも始めることができるものでした。始める前は「何だか面倒くさそう」というイメージが強かったのですが、思っていたよりも参加するハードル自体が低いというのが始めた時の印象だったことを覚えています。一方、盆栽の楽しみ方を掘り下げて観察すると、樹種、樹形、鉢、技術、育成、演出のような多様なやり込み要素やコレクション要素があり、これが盆栽ホルダーを沼らせる熱狂の源になっていると考えます。

ミクロ視点で見た盆栽の魅力

以下、それぞれの要素について説明させてください。

⌘樹種:

幹や枝、葉、花や実、育ち方など、生命体としての違いがはっきりと出る部分です。松、真柏、檜、紅葉、楓、桜、ブナ、皐月など、いかにも「盆栽に使われてそう」な樹種から、ガジュマルのような「あまり盆栽のイメージのない」樹種まで自由に盆栽として楽しまれています。

また、先ほどは「松」と一括りに表現してしまいましたが、松の中にも黒松、赤松、五葉松、蝦夷松など、豊富な種類があり、それぞれに強い個性を持ちます。また同じ「真柏」でも、糸魚川真柏、紀州真柏のように、産地によって風合いが変わってくるようなものもあります。

先人たちの試みによって皐月の交配を繰り返していった結果、種類が増え続け、「1400種」の皐月が収録された図鑑が存在するほど多くの種類があると知った時には「そんなに種類あるんだ!?」という驚きがありました。

このように盆栽は同じ樹種の中でも細かな個性の分岐があり、盆栽の沼要素の大きな柱を形成していると考えられます。

紅葉の盆栽

⌘樹形:

元々樹が持っている個性と、人間による技術の掛け合わせで形成されます。樹木そのものの「姿」を規定し、見る人に与える印象を大きく作用する要素です。一例にはなりますが、たとえば下記のようなものが挙げられます。

直幹:幹が真っすぐに直立したもの。
模様木:模様を描くように曲がっているもの。
文人木:細幹で枝葉が少なく、かつ高く成長したもの。
懸崖:崖に生える樹のように下向きに生えるもの。
石付き:石に樹を絡ませ、溪谷のような厳しい環境の樹を表現したもの。
根連なり:1つ根から複数の幹が立ち上がったもの。

懸崖の中でも、鉢の下まで幹が下がらず、鉢底の手前までで下げ止まる半懸崖と言うような形もあり、樹形だけ見てもとても奥が深いです。

半懸崖の盆栽

⌘鉢:

樹との組み合わせの掛け算により美しさを生み出すことのできる、重要な盆栽の構成要素です。盆栽と鉢植えの違いについては「見せることを考えているかどうか」とも言われています。どの鉢を選ぶか、選んだ鉢とのバランスなど、盆栽を仕立てる際に考えることも多いです。また、鉢の大きさや形は樹木の健康にも影響を与えるため、育成面への影響も考えた選択が必要とも言われています。

規格品の器だけでなく、盆栽鉢を作る盆栽鉢作家さんの作品の趣向を凝らした鉢も、専門店・盆栽市・フリマ・EC・ネットフリマなど、様々な形で流通しており、発見や出会いの喜び収集する楽しさにも繋がっています。推しの盆栽鉢作家さんがいる方も多くいるのではないでしょうか。また、盆栽用として作られた鉢以外にも、生花の花器を工夫して盆栽用として活用したり、もともと盆栽用でない器を使った例を見ることも増えてきているように思います。

作家鉢

⌘育成:

水やり、用土、肥料、環境(日当たり、風通し)、虫・病気対策など、樹の育成も盆栽の重要な要素です。「水やり3年」と言われる位、水やりだけでも奥が深く、量、頻度、タイミングがうまくいかずに枯れてしまうような事も多くの人が経験しています。

⌘技術:

樹は、人間の技術を加える事で「盆栽」となります。「育成」も広義では技術の範疇となりますが、それに加え、以下のような技術が盆栽を極めていく上で必要な技術として挙げられます。

個人的に初心者にとっての一大イベントは「植え替え」だと思っているのですが、例えば「盆栽の学校」さんの記事がわかりやすいので、興味ある方はぜひご覧いただけたらと思います。

植え替え作業の様子

⌘演出:

前述のように、盆栽は「見てもらうこと」を前提に、樹と人間が共創する作品なので、飾る・展示する際の演出も、盆栽には欠かせない要素です。

空間設計:
どのような場所・台に置くのかの選択、背景の選択や、配置や向きなど、空間を丁寧に設計し、盆栽空間を演出します。
添配(てんぱい)
盆栽特有の小さなフィギュアのようなもののことを「添配」と呼び、盆栽の空間に彩りを添えます。
石:
自然界を表現する手段として石を用い、空間を演出します。一言で「石」と言っても、石の中にも種類が様々あり、奥が深い世界が広がっています。
照明:
光源の種類や当て方により光と影のバランスを調整したり、形状や色の見せ方を調整します。

桜盆栽に沿えたカエルの添配

「水やり」をすればとりあえず始めることができるという入り口のハードルの低さでありながら、樹種、樹形、鉢、育成、技術、演出のような、やり込みたくなる要素やコレクションしたくなる要素やを多角的に備えている所が、盆栽が熱狂を生み出す源なのではと考えています。

様々な人に自分ゴト化してもらい、巻き込むチカラ:マクロ視点からの考察

ここまでは盆栽そのものを掘り下げ「個が熱狂するポテンシャル」に関する話をしてきました。ここからは俯瞰のマクロ視点で、「様々な関心層に自分ゴト化してもらい、拡がる可能性」についてお話させていただければと思います。

マクロ視点で見た盆栽の魅力

盆栽は趣味、文化、アート、ビジネス、地域振興、コミュニティという6つの関心軸で捉えられると考えています。以下、それぞれの関心軸について説明していきたいと思います。

⌘趣味:

盆栽を観葉植物や家に置くインテリアと同じように「趣味として育てる・飾る」という最もベーシックな関心軸です。コロナ禍を経て、観葉植物が大きく売上を伸ばした事をご存知の方も多いかもしれませんが、アフターコロナとなってからも売上を伸ばしていることを示唆するような記事も散見されています。

観葉植物全体の話にはなりますが、下記のようにコロナ禍による巣篭もり生活を経て、より多くの人が家で植物を育てるようになったことを示すデータもあり、これは盆栽にとってもポジティブな傾向だなと感じています。

一方、盆栽専門YouTubeのデータの分析結果から、「高齢層に偏り、盆栽人口が全体としても減っている」ことを考察して憂いていらっしゃる盆栽Qさんの記事もあり、盆栽そのものは観葉植物の活況に対してまだ連動しきれていない状況が伺えます。

しかし、家に植物を置くことへの意識が高まっている世の中の流れの中、盆栽自体の魅力に触れる機会さえあれば、人口が増える機会は大いにありそうということもまた言えそうです。

⌘文化:

盆栽は中国の「盆景」にルーツがあり、日本には平安から鎌倉時代には渡来したとも言われ、日本の中で長らく育まれてきた文化です。

2月9日より開催の国内最大の盆栽展・国風盆栽展は98回目を迎え、多くの盆栽ファンが集まる展示会となっています。「24歳の時に盆栽を始め、40年毎年通っている」とお話される方もいらっしゃるのを聞くと、歴史の長さ伝統文化としての力強さを感じる所です。

第98回国風盆栽展

そんな伝統文化の流れを汲みつつも、昨今ハイカルチャーに属する企業やブランドによる取り組みが続いています。

盆栽師さんの感性に焦点を当てる形でのブランドとコラボレーションした事例も散見されます。

昨年には日本を代表するポップカルチャーブランドであるBEAMSでも、盆栽のポップアップショップを展開し話題となりました。

BEAMSでのPOP UP SHOP

一方、YouTubeを見ると、1億円の盆栽を手がけたと言われる日本屈指の盆栽師・小林國男さんによる盆栽パフォーマンスYouTube動画が900万回以上再生されているのですが、コメント欄はほとんど英語であり、盆栽に対する海外からの注目の高さも感じます。

近年、海外の盆栽YouTuberが900万回再生を超える動画を発信している例も観測されており、盆栽ファンだけでなく「情報発信側」にも海外の方が増える事により、海外への盆栽の普及がより促進される事が期待できます。

また、タイでは「若者の間でブームになっている」なんていうカルチャーとしての勢いを感じるような報道もあり、現在の日本にはない胎動がアジアで起きていることを感じさせます。

これらのようなハイカルチャーやポップカルチャー、そしてグローバルカルチャーの関心軸から盆栽を捉え、価値の再定義を進める事は、前述の趣味軸とは全く異なった角度からの盆栽の価値の醸成に繋がるように感じます。

⌘アート:

盆栽師はその技の巧みさから、アーティストというよりは職人として研鑽されてきた背景があるように感じますが、人と樹が一緒になって織りなすアートであるという側面もあり、現代アートと言えるような盆栽作品も存在します。

たとえば、こちらの盆栽をご覧ください。

「俗界図」平尾成志氏作

こちらは「俗界図」という盆栽師・平尾成志さんの作品です。水を潤沢に受けられ、商人の集まる様子を表現した寄せ植えと、垂れてくる水を受けとり、懸崖で逞しくしがみつきながら生きる一本の木の対比を、風刺的に表現した作品なのだそうで、ただ「樹を綺麗に見せた」「自然を再現した」だけでない、盆栽師の想いや世界感が込められたアートと言える作品となっているように思います。

同じ生命との共創アートである金魚アートであるアートアクアリウムに盆栽が展示されたのも、このような盆栽のアートとしての文脈を汲んだものであると推察します。

今まで既存のアート業界の中で盆栽はアートとしてほぼ認識されてこなかったのではないかと考えられつつも、世界のアート作品の流通における中心的な役割を担っているオークションハウス・サザビーズがアジアで展開する香港サザビーズで16点の盆栽が販売された形跡が2014年に確認されており、王道の既存のアート業界が「盆栽を本格的にアートとして捉えるようになる」息吹のようなものはすでに生まれていると言えそうです。

このような背景を考えると、盆栽とアートの親和性の高さを改めて感じますし、アート関心層が盆栽により一層の関心を強めていく流れは十分にあると考えます。

⌘ビジネス:

盆栽はビジネス的視点からも、注目すべき要素が豊富にあります。
日本における国内需要の縮小傾向が続いた一方、世界の盆栽人口は大きく増えたと言われています。盆栽が海外で評価を高め、2021年の輸出額は3億7000万円を突破したという報道もあり、「バイヤーが日本で安く買い付け、海外で高額で売られている」というような話もよく耳にします。

盆栽の輸出額については諸説ありそうなのですが、農林水産省によるレポート「花きの現状について(令和5年11月)」内の財務省「貿易統計」資料を元にしたデータにて、2022年の盆栽の輸出額が7億円というデータもあり、盆栽の輸出額が大きく伸びた事は間違いなさそうです。もともと中国、ベトナムの輸出額が大きいと言われていた中、EU諸国の割合の高さには注目せざるをえません。

出典:「花きの現状について(令和5年11月) 」(農林水産省)

EUはこれまで防疫の観点から輸出が難しかったようなのですが、2020年10月に黒松の輸出が解禁され、2年間の指定の保管場所・方法で管理されたものの輸出が可能に。この流れを受け、EU諸国の割合が非常に大きくなっているようです。嬉しい悲鳴と言っていいかはわかりませんが、需給バランスの大きな変化に、新たな課題も発生しているようです。

欧州連合(EU)が求めているのは樹齢15年ほどの黒松。15年前に供給過多となり、産地は松を植えていなかったため、在庫が少ない状況が続く。

日本農業新聞「盆栽の未来 輸出てこに産地振興を

2023年にはJETROもオランダで黒松が大ブーム?!とヨーロッパでの活況ぶりを動画を交えPRしていたり、EUに続いて米国での輸出解禁に意気込む高松市の動きも報道されています。

一方、長らく盆栽の輸出の大きな割合を占めてきた中国ですが、「中国マネーが日本の盆栽へ!アリババ創業者が1000万円お買い上げ」なんていう記事が出たのも2023年のことです。

海外への可能性にアツさを感じつつ、これまで「花き市場」を軸としてビジネスが整理されてきた盆栽は、前の項目でお話しした文化やアートの話を踏まえると、アートやカルチャーの市場でのビジネス展開にも可能性が期待できるように感じます。

「文化庁文化審議会文化政策部会アート市場活性化WG資料」(2021)によると、世界のアート市場は7兆円の市場規模を持っており、米国は44%の3.2兆円の規模を有しており、日本の2580億円を大きく凌ぎます。米国をはじめとする海外のアート市場で盆栽の需要を高めるという方向性は、盆栽にとって大きな可能性があるのではないかと考えます。

ここに着眼し、「盆栽を世界中のアート好きが熱狂するコンテンツへ」をスローガンに掲げるプロジェクト・BONSAI NFT CLUBは、新しいNFTのテクノロジーを活用した新規事業として2021年より展開しており、盆栽のアート市場への導入や、NFTを活用した盆栽経済圏の確立という挑戦に様々な角度から取り組まれています。

BONSAI NFT CLUBのNFTを活用したエコシステム

同じNFTという切り口で老舗の盆栽園・大樹園が、昨年12月に独自のNFT発行とマーケットプレイスをしており、NFTを活用した新しいビジネス設計は今後も注目していきたいところです。

⌘地域振興:

盆栽には盆栽園や盆栽農園のような地域に根ざして浸透してきた側面もあり、事業創出やブランディングを始めとする地域振興の関心軸があります。盆栽において、地域の中でも、特に大宮高松が2大聖地であると言っても過言ではないかもしれません。

大宮が盆栽と縁のある事をご存知でない方も、もしかすると多いかもしれません。1923年の関東大震災の後、1925年頃に盆栽業者が移り住み「盆栽村」という集合地域を形成したと言われています。その後、1940年に「盆栽町」という盆栽の名を冠にした町名に名を変え、今でも継承されているそうです。

世界初の公立の盆栽美術館「大宮盆栽美術館」が文化的拠点として設立されていたり、世界中の盆栽愛好家が集う世界盆栽大会の第8回(2017年)は大宮で実施されるなど、大宮は盆栽文化の中心地として存在感を示しています。

なお、さいたま市の発表によると、結果として12万人が来場したそうですが、2013年には2017年の世界盆栽大会の誘致に大宮が成功し、経済効果5億円という記事も確認できますが、実際の経済効果がどうだったのかは気になる所でもあります。

また、大宮盆栽美術館によると来年2025年には大宮盆栽村100周年を迎えるそうで、大宮盆栽のさらなる盛り上がりが期待できるかもしれません。

大宮盆栽村は、大正14年(1925)4月、東京千駄木の清大園・清水利太郎が現在の大宮盆栽村の地に移住してから、令和7年(2025)で100周年を迎えます。

大宮盆栽美術館公式Insgagram投稿

「文化」の項でも触れたザ・リッツ・カールトン東京での盆栽展示について、盆栽側としてコラボレーションした大宮は、「大宮盆栽」をPRする記者発表資料を発表しており、ブランディングに積極的な様子が観測されています。ザ・リッツ・カールトン東京で行われた藤樹園の盆栽師・廣田敢太(カンタ)さんのライブパフォーマンスはこちらの動画で観ることができますが、生歌、生演奏と相まって、静的な状態で盆栽を見るのとは違うカッコ良さを感じることができます。

一方、高松は、大宮よりも生産地としての個性に強みを持ち、特に松の生産において全国シェアの8割を担っていると言われています。

高松市の鬼無地区と国分寺地区は、松盆栽における国内最大の生産地。珍しい松の畑が広がっており、全国シェアは約8割を占める

高松盆栽ブランドサイト

高松盆栽として海外へのブランディングにも積極的で、「世界に誇る高松BONSAIを海外の富裕層へ」というNHKの特集が、昨年12月に放送されていたりもしました。フランス・カンヌでの高級ホテルで行われたデモンストレーションで使われた様子が映されています。

また、同じく昨年12月に、高松がはじめてNFTのふるさと納税の返礼品として、「樹齢200年を超す黒松の支援をする」クラウドファンディング型NFT「盆栽NFT」が採用されています。高松盆栽を盛り上げる施策であると共に、支援を通じた盆栽関係人口を増やす新しい取り組みとなっている点が注目すべきポイントです。

これらのように盆栽を地域ブランド化し、盆栽と地域が掛け算で盛り上がっていくような地域振興という関心軸も、盆栽を捉える視点として重要なひとつだと考えます。

⌘コミュニティ:

盆栽が誰かと誰かの共通の話題である場合、その間にコミュニケーションが生まれ、そこに誰かが加わるとコミュニティが生まれます。盆栽から生まれるコミュニティも、コミュニティ論マーケティング論の観点から興味深い関心軸です。

リアルの繋がりだけで形成されているコミュニティは観測が難しいのですが、旧Twitterにいる盆栽界隈の方々を観測していると、日々の盆栽投稿をベースにコミュニケーションを取り合い、定期的に行われる盆栽イベント対面で会える機会として活用し、コミュニティが自律的に盛り上がっている様子が見受けられます。

また、ツイ盆展という旧Twitter上で高頻度で開催され、みんなが盆栽を投稿しあい、わいわい楽しむ空気が営利ではない形で自律的に形成されており、コミュニティの熱量の高さに日々感嘆しています。

ちなみに第62回ツイ盆展には、46点の参加があったそうです。どんな投稿がされているのかご興味ある方はぜひ旧Twitterで#ツイ盆展と検索してみていただきたいです。たくさんの素敵な盆栽の写真を見る事ができます。

リアルな場で盆栽のパワーを感じたのは、今年1月に盆栽園・成勝園で開催された超・盆栽新年会というイベントでした。主催がBONSAI NFT CLUBというNFTのプロジェクトでありながら、盆栽やNFTへの知識・経験関係なく、親交を深めて盛り上がる様子に、盆栽をテーマに集まるコミュニティの柔らかさやしなやかさのようなものを感じました。

盆栽は令和を代表する文化になりうるか

ここまでミクロな視点から盆栽の個の熱狂に繋がるポテンシャルについて考察し、マクロな視点から様々な人が自分ゴト化する要素と広がりの可能性について整理してきました。

この2つの視点で見た盆栽をまとめたものが、下記の図になります。

ミクロとマクロで捉える盆栽のポテンシャル

様々な角度から沼らせ、個の熱狂を最大化させるチカラ「沼ポテンシャル」、様々な人を自分ゴト化させ、広がりを生み出すチカラを「巻き込みポテンシャル」、名称は便宜上のものではありますが、盆栽が2つの異なるポテンシャルを兼ね揃えている事をここまでで示してきました。

短命でなく、継続的に強く残り、文化となるようなトレンドの形成を考える際、沼ポテンシャルと巻き込みポテンシャルの掛け合わせは必要なフレームであり、そして盆栽はこの2つを兼ね揃えているのではないかと推察しています。もちろん、盆栽はすでに長年積み重ねてられてきた文化であり、言葉通りに解釈してしまうと違和感のある方もいらっしゃるかもしれません。今の時代環境を踏まえた形で、新たな行動や価値観が盆栽の文脈の中に織り込まれた状態に遷移すること「新しい文化の形成」と便宜上ここでは表現しています。

盆栽以外だと例えばコーヒーなんかも、豆の種類、産地、技術、道具、カップ、演出、ペアリング、お店などの沼ポテンシャルと、趣味、カルチャー、ライフスタイル、ビジネス、コミュニティなどの巻き込みポテンシャルを兼ね揃えることで、ブームが短期的に収束せず、継続的に残り続け、文化として定着したと解釈することもできそうに思います。

そして、この巻き込みという2つの掛け算で、影響を最大化させようとするのは、マスマーケティングの限界とソーシャルメディアの普及から検討が進んだファンベースマーケティング熱狂マーケティングと言われるものが目指す戦術実装と近いようにも感じています。特定のファンの熱量を最大化させることと、マスへの影響力を最大化することをどう接続していくかは、多くの企業やマーケターにとっての重要かつ難しい課題です。

沼ポテンシャルと巻き込みポテンシャルの掛け算イメージ

盆栽には新たな強いトレンド形成に繋がるポテンシャルがある!という趣旨の事を申しましたが、盆栽トレンドはまだまだ一部のトレンドであると言えます。しかし、そこにいる人々の熱量がアツい状態で、新しい取り組み、新しい人、新しい話題が生まれ続け、常に環境と状況がアップデートされ続けています。そして、世界で強まっている盆栽への熱い視線。SNSによる情報の広がりやコミュニティの進化NFTのような新しいテクノロジーを用いたビジネス変革などの現代ならではの息吹も見逃せません。

ここからの盆栽事業者、盆栽ファン、盆栽ホルダーの皆さまが互いに協力しあい盛り上げていくことで、盆栽が持つポテンシャルに人の織りなすコンテクストが織り込まれ、盆栽の強いトレンドが形成される。そして、盆栽から新しい文化の形が生まれる。そんな可能性は十分にあるといえるのではないでしょうか。そして、個人的にはそうあって欲しいと願っています。

冒頭で申し上げたように、私個人としても盆栽部という部活を立ち上げておりますが、キャンプ、ゴルフ、ワイン、釣りのような先人たちの趣味コミュニティのように「様々な組織やコミュニティを横断し、ゆるやかなコミュニティを形成するハブに盆栽がなる」世界になったら面白いと考えております。色々な人と盆栽を通じたコミュニケーションを積極的に図っていけたらと考えておりますので、ご興味ある方はぜひお声がけください。盆栽を片手にお伺いいたします。

盆栽部 題字

これまで盆栽に触れてこなかったけど本noteをお読みいただいた方、盆栽ビジネスに携わられている方、盆栽愛好家の方、トレンド形成に興味をお持ちの方など、本noteが何かの参考になれば嬉しく思います。


この記事が参加している募集

マーケティングの仕事

最後までお読みいただき、ありがとうございます!サポートは今後のnoteを書くための活動に活用させていただきます!