雨模様13
ふわふわと浮かぶミヤオにみとれている内に、あたしは頬に冷たいものを感じた。青空はたちまち雨雲に覆われて、雨模様となってきた。
「また雨。」
浮かんでいたミヤオ達も雨に濡れて、ややほっそりと見える。
「さあ、早くミヤオ君達を集めないと、地面に落ちてしまうよ。確かに猫は三半規管が発達しているけど、この高さから落ちたらどうなるか。分かるよね」
つばくろさんは大きな布袋をあたしの方に投げつけて言った。
「なるべく沢山のミヤオ達が集まると良いね。袋の中にミヤオ君達を入れるんだ。」
何だか分からないけれど、あたしは必死になってミヤオ達を袋に入れていった。袋はサンタクロースが担いでいるプレゼントでいっぱいの袋くらいに大きく膨らんだ。
疲労困憊。もう動く事も出来やしない。あたしは袋を担いでつばくろさんを追いかけた。
「つばくろさん。降参よ。」
「僕も今日は月のもので少々カリカリしすぎだったよ。悪いことをした」
「月のもの?」
「そうさ、君も周期的にあるだろう?」
「でもつばくろさんは男だし」
「僕の性別は女性だ。だけど男性として認識して欲しい。性同一性障害ってやつでね。」
あたし達は苔むした森の奥に居た。
「ここは屋久島。もちろん人工的に映し出しているだけだけど。」
「あたしはもうあなたのお遊びに付き合っているのに疲れた。」
つばくろさんは黙っている。
「あなたは女性でここは屋久島なのね?けれども一体それが何だというの?」
無言。
「あたしだって男に生まれたら良かった、って思う時は沢山ある。あなたの気持ちは分からなくもない。屋久島にだって行きたいと思う。お金がないだけよ。」
無言。
「何とか言ったらどうなの?」
「僕の持病は性同一性障害だけじゃない。」
あたしは彼(彼女)の真似をしてだんまりをきめてみた。
「僕はALSという難病を抱えて生きて来た。君はこの病気がどんな病気か知っているかい?」
あたしは軽く髪を指でとかしながら言った。
「悪いけど知らないわ」
つばくろさんの後方に白いスクリーンが開いてきた。スクリーンがすっかり開ききると、ALSという病気と闘う男性のドキュメンタリーが映し出された。
ドキュメンタリーの最後、眼球しか動かせなくなった男性はかろうじて瞳の動きで意思の疎通を行う事が出来たが、その言葉は、とてもやるせないものだった。
「死にたい。」
つづく