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【妄想】「異質な知性」のあり方を考える。

我々の思考は「空間」に束縛されている。

何かをイメージするとき、必ずその周りに「空間」がある。いくら排除しようと頑張っても、必ず「空間」がそこにある。禅でよく言われる「無」をイメージできない理由はそこにある(と思う)。

カントやベルクソンは、それこそが私たちの「知性」の属性である、と見抜いた。

空間は実在ではない。私たちの知性が現実を認識する際に必要とする形式が、空間なのだ。

では、知性を乗り越えて現実を認識する方法はあるのか。

ベルクソンは、弱気なカントを乗り越えて「ある」と言い切った。それを可能ならしめるものこそが人間に備わった「直観」である。

今日はその一歩手前、「知性」の性質についてもう少し妄想を膨らませてみたい。

「知性」の認識の形式が「空間」であり、その「空間」の性質が「幾何」である。

つまり、「幾何学」こそが「知性的認識」のあり方を規定している。

数学嫌いの方も、安心していただきたい。この議論において数式を持ち出すつもりはない。妄想に際して記号操作は不要である。

中学校、高校の範囲でならう幾何学は一種類しかなくて、それは「ユークリッド幾何学」と呼ばれる。

エウクレイデスという古代ギリシアのおじさんが考え出した「ユークリッド幾何学」は、その後約二千年間にわたって、絶対的権威として君臨し続けた。ところが18世紀初頭、「ユークリッドの公理」を構成する五つのルールのうち、最後の「平行線公準」が打ち破られることによって、「非ユークリッド幾何学」の時代が到来した。アインシュタインはこれを使って、時空がぐにゃぐにゃに曲がる宇宙観を作り出した。

その後、「非ユークリッド幾何学」はさらに抽象化され、集合とその元どうしの関係に注目する「位相幾何学」が生み出された。そこでは、数え切れないほどの「幾何学」が存在し、それを特徴付けるのは「位相」と呼ばれる概念だ。私の理解が正しければ、それは「元どうしの関係のあり方」とでも表現できる概念。

集合と位相があればそこに「空間」ができ、モノサシを設定すればそれは「計量空間」となって物理的に役立つ概念に早変わり。こうして様々な摩訶不思議な性質を持つ空間(量子力学におけるヒルベルト空間など)が考案され、物理学は煩雑な記号体系を圧縮するエレガントな言語を手に入れた。

さて。

以上がざっくりした、幾何学と空間にまつわる歴史である。

私たちはユークリッド幾何学から出発して徐々に、「空間認識のあり方としての幾何学」である位相幾何学の方向に向かってきた。

ここで、「宇宙」に目を転じよう。

「宇宙の形はどうなっているのか」という疑問は、今でも神秘のヴェールの中だ。

物理学者たちは、宇宙を「三次元多様体」として考える。つまり、どの点の近くでも縦・横・高さの三つの座標が取れるような点の集合(ざっくり言うと?)のこと。この「三次元多様体」が取り得る形の種類が、「宇宙の形」をめぐる議論の中核に据えられた。

これに対して有効な示唆を与える「ポアンカレ予想」を巡って、トポロジスト(位相幾何学者)たちは様々なアイデアを提示してきた。サーストンの幾何化予想は、「任意の三次元閉多様体は、幾何構造を持つピースに分解することができる」ことを示した。これはつまり、サーストンの分類による8種類の「三次元幾何学」の組み合わせのどれかが、「宇宙の形」を表していると言うことだ。

そして、満を辞してポアンカレ予想を解決したペレルマンによって、サーストンの「幾何化予想」は完成され、「幾何化定理」になった。

我々は、ついに宇宙の形を把握する一歩手前まで来たのだろうか?

しかし、ここで思い出さなければならないのが、「幾何学と、それに対応する空間は、人間知性の認識の形式にしかすぎない」と言う事実。つまり、ここで分析されている「宇宙の形」とは、本当の宇宙の形ではなくて、「人間の眼に映る形での宇宙のあり方」にしかすぎないのだ。

ここでようやく、本稿における主題、「異質な知性」の話ができる。

この見方でいくと、サーストン・ペレルマンの幾何化定理は、「ありうる宇宙の形」の分類ではなくて、「ありうる知性の形」の分類であったのだ。

例の「8種類の幾何学」は、エイリアン、すなわち異質な知性の現実認識のあり方と関係している可能性がある。我々はそのうちの一つの幾何学(おそらくユークリッド)を採用して宇宙を見ているが、別の知性は別の宇宙を見ている可能性がある。これらはいずれも、「どちらかが上でどちらかが下」と言う問題の話ではなくて、ただ、「異質な知性」を持っているというだけなのだ。

この「8種類の幾何学」の組み合わせから生まれる無限の幾何学、そこから生まれる無限の「異質な知性」、その空間認識が生み出す無限の「異質な言語」まで妄想しだすと鼻血が止まらないが、だんだん意味不明な領域に突進してきている気がするのでここら辺で筆を置こう。

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