けんかをやめて　二人をとめて
あたしのために　争わないで

竹内まりや 「けんかをやめて」

巷では、一枚1万円もするチャチな猿の絵柄がプリントされたダブっとしたTシャツを着るのがトレンドとなっており、私の育った小さな町の数少ない若者向けトレンドショップでも、ぶっといジーンズと斜めにかぶるキャップ、件の猿のTシャツが売られていた。ついこの間までイトーヨーカドーで母に買ってもらったトレーナーとかを着ていた連中が、こぞって横文字のブランド名やデザイナーの良し悪しなどを語る姿がどこか滑稽で、それでいてどこか羨ましかった。私はそういった潮流や道化たブームに敏感で反抗的であり、斜に構えたところのある嫌なガキだったので、当然そういうムーブメントにもアンチのスタンスをとっており（そもそも半袖のTシャツが絶望的に似合わない）、専らサティやヨーカドーの婦人服売り場やしまむらで、心にビビッと来るアイテムを仕入れて着ては、猿のTシャツを着た連中にせせら笑われていた。

さすがにこの年になると当時の私が猿T軍団に笑われていた理由はよくわかる。何せその頃の私のお気に入りは、「Kill Two Birds With One Stone」というロゴの入ったロカビリーっぽいデザインの服で、それを着ながら近所のスーパーで母と二人、ショッピングカートを押している少年の姿を想像してみてほしい。なんだよ、Kill Two Birds With One Stoneって。
「一石二鳥」を英語で書いてることに衝撃を受け、うわ、格好いい、クールって思ってお気に入りだったんです、いやマジで。Killから始まるのもなんかロックンロールで刹那的だし。あのシャツ今どこにあるのかな。実家の押し入れで眠っているのかな。

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5月。世間では史上初の10連休や元号の切り替え作業で浮かれている中、私と家人と娘は東京・お台場にいた。連休の最終日、娘の「お友達」を見つけるために我々はお台場にあるベビザラスに赴いていたのだ。

お台場というのは。レインボーに輝く大橋のふもとの埋立地に自由の女神とガンダムと巨大なボールと観覧車が鎮座している摩訶不思議な所で、潮風の影響もあるのだろうか、街全体も割と錆びついていてそんなに綺麗じゃない。人がたくさんいるので平時は気が付かないが、無人になると打ち捨てられた巨大なおもちゃ箱みたいな感じになるのでは、と思わせるような街に、リアルな巨大おもちゃ箱「ベビザラス」はあった。

おもちゃ屋に来ること自体20年以上ぶりのことで、店内は懐かしいおもちゃ屋独特の匂いがした。ハローマックで嗅いだことのある匂いだった。マックライオン元気かな。
娘はその頃、目に入るものを積極的につかみ、舐め、この世界を理解しようとしていたフェーズであった。モノの本にもぬいぐるみや毛布など赤ちゃんの「お友達」を見つけて与えてあげましょうと書いてあったし、我々としてもぬいぐるみと戯れる娘を想像するだけで息が荒くなってしまうので、意気揚々と娘のボーイフレンド選定に来た次第なのでした。

大型のベビザラスは本当に子供の楽園であり、これはお子様興奮するだろうという充実ぶり。しかしながら、まだ0歳時の我が娘には些か早すぎるラインナップで、現段階ではそんなにフィットするものはなかったので詳細は割愛。レジ横に置いてあった、でかい自動で動くゾイドがめっちゃカッコよかった。そんな中、0歳時からでも遊べるおもちゃを2つチョイスした私達夫婦はキャッキャ言いながら帰宅。娘にこれを与えて反応を見ることにした。

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ボーイフレンド１：「ライオンさん」
https://store.shopping.yahoo.co.jp/storecell/19014085857.html?sc_e=slga_pla

とにかく肌触りの良いもち肌が特徴の彼。見た目の派手さ・百獣の王というイカツさとは裏腹なギャップにいつまでもスリスリしていたい、離したくはないT-BOLAN的な良さがアピールポイント。

ボーイフレンド２：　「お猿さん」
https://www.toysrus.co.jp/s/dsg-515348400?gclid=CjwKEAjwlujnBRDl2teOp_veulQSJAC5bHgtxITNICTPAdD4Hsn6CgWX_0SDWH_iA7NKgCr8Sp1oxhoC9IDw_wcB

握るとプープー音のなる袋や鏡、ビニールのクシャクシャ音の袋や歯固め各種をぶら下げた高スペックモンキー。赤ちゃんの興味にダイレクトに突き刺さる、伝説の勇者級の装備を身に纏っている。

非の打ち所のない猿の圧勝かと思われた第一回リトル氏ボーイフレンド争奪戦だったが、軍配はライオンさんに上がった。一応。

「ライオンさんとはなんか肌が合うっていうか、こう、いつも一緒にいたいみたいなところがあって。猿もまあ魅力的なんだけどたまにでいいかな。みたいな」
と言わんばかりに、ライオンさんとネンゴロになりながら、時たま猿の持つクシャクシャビニール袋に手を出し、気を持たせる。寝る前には必ずライオンさんを欲しがるのに、猿が持つ鏡もちょっと気になる。

0歳4ヶ月にして彼女は、かの悪名高い「けんかをやめて女」の片鱗が見え隠れしており、違うタイプの人を好きになってしまう揺れる乙女心を醸し出している状況に我々夫婦は一抹の不安を隠しきれないのでした。

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猿と一石二鳥にうまいこと繋げようとしたのに全く出来なかったので、前半、ただただ私の少年時代がいかにダサかったかだけをお伝えする形となり、あれ？そういや今着ているボウリングシャツにも「MISSION DRIVEN」とかリクルート出身者みたいなセリフがバックプリントされていることに気がついて、あれ、なんだろう、私のセンスって、え？