第7話「別れとオープンチケット」

高田馬場駅から徒歩2分の雑居ビルある秀インターナショナルサービスと言う会社は、カツヒロより20歳年上の澤田秀雄氏が始めた格安航空券の会社だ。1990年当時は、旅行大手のJTBや近畿日本ツーリストに行っても格安航空券は手に入らず、旅行雑誌ABロードの広告で見つけたこの会社の取り扱う航空券が最も安く、且つ、好条件の航空券を購入できる。

そう、この秀インターナショナルがのちの大手旅行会社H.I.Sの前身だ。

今のように、スマフォでササっと検索して予約なんていう方法は当然存在せず、インターネットと言う概念が世間に広まるのは5年後。Windows95というパソコン用のOS(オペレーションシステム)が大々的に広まったからで、パソコンや携帯の普及はおろか、ようやくポケベルが広まり始めた時代だった。

カツヒロは新聞奨学生を1年間やり切り、その間に貯めた15万円で成田発、クアラルンプール経由、メルボルン行きの1年オープンの航空券を予約した。JALやカンタス航空なら成田発シドニー経由で行くことも出来るが代金が5万円以上も高いからマレーシア航空を選んだ。

パスポート

「もう直ぐ、新聞配達の仕事は卒業か、今までたくさん辛い事もあったけど、辞めるとなると何だか寂しいな。」カツヒロは、そうしみじみと思いながら、この1年間を思い出していた。

この仕事は雨や風の強い日の配達もきつかったけど、それより月末の集金の方が大変だった。

夜9時ぐらいまで、パチンコ屋やスーパーとかをうろうろして時間を潰し、未払いのお客さん宅を訪問しても、居留守をつかわれて回収できなかった事が結構あった。

確かに、先方にとっては急に集金に来られても困るんだろうけど、露骨に嫌な顔をされたり、一切顔を見せずに、台所の出窓から手が出てきてお金だけ渡された時もあった。

一方で3か月連続滞納中のお客さんが、手紙を残しておいてくれて、毎日、家へ帰るのが遅いから、代わりに職場に取りに来てくれと言われ、素直に職場に伺ったら、きっちり3か月分の代金とお菓子をくれた時はめちゃくちゃ嬉しかった。

他にも、優しいおばあさんから、「あなた若いのに、毎日、新聞配って学校に行って偉いね。これ少ないけど、何か好きなモノでも食べなさい。」と千円をもらった事もあった。

そういえば、夕刊を配っていたら配達先のマンションのすぐ近くで、ドラマ「東京ラブストーリー」の撮影が行われいた。その時はまだドラマが放映前で、主演の織田裕二さんや鈴木保奈美さんの事を全く知らなかった。だから、生の撮影現場に遭遇しても、たいして感激しなかった。その後、ドラマが予想以上に人気となり、視聴率もフジテレビの月9ドラマの中でかなり良い方だったから二人はあっという間に時の人になった。

東京ラブストーリー

時はバブルの最盛期が終わる頃、TV局はこぞってトレンディドラマと言うものを作って放映していた。

カツヒロは、その後、「またドラマの撮影ないかな?」と暫く期待しながら新聞を配った。

・・・。

3月は別れの季節です。1年間一緒に新聞を配って来た仲間にも、それぞれ新しい生活が待っていている。

アナウンサーを目指していたナオトは父親の状態が良くないとの事で北海道に戻る事になった。ナオトはカツヒロより1年長く2年間、この東京で新聞を配り頑張って来たけど、残念ながら家庭の事情で夢を諦めた。

一方、トオルは成績も良くて、希望していた大手ゲームメーカーのナムコに就職を果たした。

24人いた新聞奨学生の約半分が、翌年も居残り、新聞配達を続けながら学業との両立を目指す。残り半分は無事に就職や希望校への進学が決まって辞める者と、仕事との両立が出来ず、学業を諦め、夢破れて故郷に帰って行く者とに分かれた。

ナオトは、大きなリュックを背中に背負い、原付バイクで茨城県の大洗港を目指す。そこから長距離フェリーに乗って苫小牧まで移動する。

出発の夜、奨学生仲間が一堂に集まり見送った。

ナオトは、嬉しそうな、そして、寂しそうな顔をした後、

照れを強がりで隠すように、

「皆、本当に今まで世話になったね。俺も頑張るから、お前らも負けるなよ。絶対、夢を諦めるんじゃないぞ。」と言い、エンジンをふかした。

ナオトは皆に涙を見られたくなくて、そのまま夜の甲州街道に消えていった。


つづく


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