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レイモンド・チャンドラー  「プレイバック」


 チャンドラーの最後の作品であり、翻訳の刊行を待たずに、訃報が出された。プレイバックとは、「再生」と言う意味だが、何の再生なのか、訳者も後書きで不思議がっている、のちにハードボイルドの古典と呼ばれた名作「長いお別れ」の後に、4年半待たされたにしては、泰山鳴動鼠一匹の感があると、ニューヨークタイムズの批評家に言わしめている不思議な作品。
 読んでいる当方もなんというか、さびぬきだが、ちゃんと味わえる中トロの握りを食べさせられているような感がある。だからと言って作品として完結していないとか、冗長だとか言うつもりはさらさらない。チャンドラーという作家の華麗な文体は、邦訳でも十分堪能可能なのであり、その文章の巧みさや機知にとんだ男女間の会話は全く衰えてはいない。追われている女をかばい、一晩だけベッドを共にしたあと、「あなたみたいにしっかりしている男が、なんでそんなにやさしくなれるの?」と問われたときのマーロウの名セリフは「しっかりしていなかったら生きていられない、やさしくなれなかったら生きている資格がない。」
 チャンドラーをこよなく愛した清水俊二の名訳、一読を乞う。

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