よかぜ

山口県下関市出身。最終学歴中央大学法学部法律学科、65歳 、考古学調査員、横浜市在住。…

よかぜ

山口県下関市出身。最終学歴中央大学法学部法律学科、65歳 、考古学調査員、横浜市在住。 やりたいこと~ぼくを含む世界の成り立ちと行方を知ること。人間という生物を知ること。 詩や短歌、小説、批評文、様々な文章媒体を駆使して「今」に肉薄してみたい。ここで本気でやれるといいな。

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    現代詩をまとめています。

最近の記事

詩 〈水彩  壱〉

青色インクを 零したら 夜になった 晴朗な 西の国の 砂浜に 南風(はえ)が吹いて 今宵の星空は きっと 世界の果てまで 広がっている たとえば? たとえば 誰も 叩いたことのない 木製の扉の 内側で 咳をする 痩せた人の 乾いた胸の 空洞にも 静かな 夜が満ちるのだ その頃 玲瓏な 東の国の 青く 透き通るような 春の森に 優しい風が 起(た)って 無数の ちいさな 花びらが 舞っている 大切な人の 手

    • 書評【市川沙央〈ハンチバック〉再読】

       本日、障害者の安楽死問題に関わるニュースを観ていて、以前、読んだ市川沙央の芥川賞受賞作 〈ハンチバック〉を再読してみた。ひょっとしたら読み違えているかと危惧したからだ。だが、再読しても根底的な部分でのわたしの感じ方や考えは、以下に再掲する〔   〕内の短評を揺るがすものはどこにもなかった。 文学作品の評価の原則は、ただ1つだ。それはどんな政治的、社会的な価値観をも退けた地点でなされるもので、これは作家本人の置かれた個人的な事情や状況も、なんら斟酌されるものではない、という

      • 詩 〈泳人 壱〉

        アフリカから Asiaへの十万里 黎明の沖を 泳ぐひと 抜手を切って マゼランの 喜望峰を 回りこむ 彼女の滑らかな 水をはじく 背中から 昇る朝陽 広大なブルーグレーの 塩辛い水を 湛える陸の窪みから 聳え立つ 巨岩に滴る 緑と緑とさ緑の 樹木たちの 数えきれない 祝祭の日々 蠕動と褶曲の 地の皺 斜面に 穿たれた 参道を歩む ああ 数万の白い脚絆が 目に染みる 五山の教えを 繰り返し 地を這うような bari

        • 詩 〈往 還〉

          すぅーっと降りてったら 足がついた その時から すべての 生き物に 気を配った 濡れたり乾いたりする きなりの膚を 彩る 赤や緑や黄色の カビさえ 愛しかった 400年が経てば 美男美女も あらゆる 余計な肉や皮を そぎおとして 綺麗になる 髑髏の愛人に 優しく 袖を引かれ 口説かれるたびに 第七肋骨の疼く春が 今年も もうすぐ訪れる だが この軟調はどうなのか もうすぐ 交情を促す 赤い月も昇る 遥か三万年を下る

        詩 〈水彩  壱〉

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          3本

        記事

          詩 〈風 野〉

          春が来る前に もう若い色がついている 陶器の白い肌には 緑の葉脈が透けてみえる 谷をわたる 風の天涯は 真っ青 いやむしろ 眩む群青か 宿命のように 生きてきた途上の 幾つもの 有り様が 暗い頭蓋の 透明な結節の 内部に 点々と灯る 下って行く人と すれ違いざまに 短い挨拶も交わす この峠を越えたら なだらかな 眉間のような 小さな平原(ひらば)に 出られる 終わりそうな 境涯なのに 若い色を追って 愛しいきみと この

          詩 〈風 野〉

          詩 〈25番目の春〉

          夏に向かって 開く その肌への ぬるさ 曖昧な季節の 領域を 容認する時間 新助坂を 女の 足だけが 下ってゆく 地から沸いてくる 野太い読経の声に 唱和しながら 坂下の 南元町に ゆっくりと 沈んでゆく ゆるやかに 雁行する 風の手になぶられ 縷々 縷々と ほどけていく 硬直した 身体の節目 もうすぐ 茜色に やがて 紅(くれない)に 染まっていく 西方の空へと帰る 途上(とじ)だ ほんのひととき 数百年を

          詩 〈25番目の春〉

          詩 〈後朝 壱〉

          まだ 乱れたままの 床の上で 先の御門に 召還された 未明 起き上がった 女と男の その身体の先触れ 国学に 偏向する 明治の亀裂に 向かう 中心の穂先は まだ柔く ゆっくり 練り上げられていく 朝の白い粘りには 江戸の西端 かの大木戸を 囲繞する みるく色の 霧を溶かし混む 虹色に 染まる 想い人との 逢瀬まで 吹き抜ける風と 歌う観覧車の 回る 黒々とした 影の下で 待つ 三日月の かたぶく 21世紀の とある日の 遅い午後まで 第三の男 とし

          詩 〈後朝 壱〉

          詩〈せいじん 壱〉

          うずくのは 胸の奥所なのか それとも 鳩尾の切れ目なのか 下腹からせり上がってくる ものは押さえずともよい いずれ後継もなく 枯れ草のように 燃え落ちる身体なのだ 夢の廃墟に続く道の 黒ずんだ石畳を踏む 甲高の白い足 踵に入る 融雪期のあかぎれのように 遥か足下の 武蔵野ロームを 迷走する 姶良火山の 光る灰を 〈蹴散らし〉 固い生活を版築した 2万4千年の いま その先端で 愛憎の劇を刻板する 濃い墨を 摺っている 柔らかい 胸と鳩尾の 在り処を

          詩〈せいじん 壱〉

          レイモンド・チャンドラー  「プレイバック」

           チャンドラーの最後の作品であり、翻訳の刊行を待たずに、訃報が出された。プレイバックとは、「再生」と言う意味だが、何の再生なのか、訳者も後書きで不思議がっている、のちにハードボイルドの古典と呼ばれた名作「長いお別れ」の後に、4年半待たされたにしては、泰山鳴動鼠一匹の感があると、ニューヨークタイムズの批評家に言わしめている不思議な作品。  読んでいる当方もなんというか、さびぬきだが、ちゃんと味わえる中トロの握りを食べさせられているような感がある。だからと言って作品として完結して

          レイモンド・チャンドラー  「プレイバック」

          詩 〈詩 人 壱 〉

          何が不満なのか 書きすぎて 円環の亜細亜に 欧風の伸展が 鮮やかな毒色に 滲んでいる 石に漱ぐ と書いた 棗形の 骨壷 その 薄暗い奈落から 国の扉に手をかけた 髑髏の人 あの日 背後で音もなく 迸るもの やがて 滴るものを 目で追い 落ちる首に 影色に 軋むこの体を なお この世紀も いまだ 受けとめかねている

          詩 〈詩 人 壱 〉

          詩 〈繚 乱〉

          真っ青な空の端から 堕ちてくる 背中のショウセキは 長い怠惰と 稀にみる 狭い了見の報い それでも 人並みに 身過ぎ世過ぎの 間には 幻の女の 幾体かに 美しい手技を 披露するひとときも あったのだ 岩棚を吹きすぎる ゆるい風が つゆの寝覚めを うながす もう幾万年 眠ったら あの水色の 夢の端に たどり着くのか 果てしない思いに 茫々とした時を刻み 涼やかな目元の 凛とした横顔を 待っている 愛しい君が 散策する 若草台から 跳ね上がり 一億キ

          詩 〈繚 乱〉

          〈鎌倉〉

          長い坂を上り この切通を越える 空へ登るように 心が軽くなる なだれる 木々の 緑の その匂いが濃い 幾つもの影と 石の路を踏んで 下ってゆく いきなり 白い砂浜が 見えたら極楽寺 思い出の スクリーンに 碧い風が巻いて 白い波濤が 上がる 遠いフォーカスで 昨日の君の 愛しい面影が 溶けてゆく ああ この海での この後悔 夕闇の 稲村ヶ崎から 竜頭の船で 遠い旅に出たかった 〈自ずから〉 あの日の サネトモの

          〈鎌倉〉

          〈冬の旅 2024〉

          晴れ上がる この青さを超えて 北へ向かう 数万の翼 風を切り 白い雲を蹴散らし 実に数億年の 旅の記憶が 彼らを正しく導くのだろう いちじるしいもの 溢れ出すもの なべて過剰なものが 命の別名 優しさは 墨のように 宇宙に流してきた 氷の息遣いで あと数万年の 飛翔は軽い 温めあう 小さな胸を ピタリと合わせ 幾つもの 暗い奈落を 越え 遥かきみの 上空を走る 純白の スカイラインこそが 友愛のしるし 描きながら 未来に撃つ ここからは きみのハート

          〈冬の旅 2024〉

          〈聖夜〉

          美しいものが 見当たらない地上 漆黒の闇夜が イブの空を覆う 星の光よりも早く きみの想いは あのひとに 届くだろう うねる銀河の 星間の風は 一際凄いが まだ間に合う なけなしの 未来をはたいて 手に入れた 約束の日に アジアの 歴史的な 夕陽が 黄昏のローマの あの磨かれた 大理石の エンタシス を照射する 輝く翠の 星と 花の 恋人たちよ ぼくたちの詩は まだ終わらない オリエントの 青く渦巻く 泉が 枯

          〈聖夜〉

          〈これがぼくらの冬の悲歌〉

          〈これがぼくらの冬の悲歌〉 冬がくる その朝 われらの列島の 銀杏の葉は いっせいに きらきら光る 高層ビル街の 濡れた石の ペイブメント に響く靴音が 低く霧の這う あの街角を 曲がってゆく 白い息を吐き やがて目覚める 高い窓を探しても 巡りあうはずの愛は どこにもみえない 数千キロを 隔てた この地の 死の日 死の月 血の河を 魚がゆく日 黒煙の覆う 空へ 鳥が還る日 もうすぐ ガザに いつものように 乾期がくる 死の日 死の月

          〈これがぼくらの冬の悲歌〉

          〈2023.世界の悔恨〉

          暗闇の 暗闇が ぼくらの 宙(そら)の涯(はて) 無限縁辺の 紅球から 真っ直ぐに 射してくる つよい 光を受け ある日の 愛の仕草を 真似て 柔らかな 優しさを 模倣する影 金箔のマンハッタンから ゴージャスな毛皮をまとう モスコーまで 石油くさい ドバイの海辺も 君の憧れた 夢の船形の 舳先(へさき)に立って まわるのだ あの日の 喜望峰は 何処までも広がる 青晴れの 高い空の 下に みどりの木々の 優しい腕(かいな)を 静

          〈2023.世界の悔恨〉