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「母がしんどい」

忘れもしない、あれは去年、2020年6月の朝。目覚めた瞬間脳裏に浮かんだのは、まごうかたなき母の顔(のイメージ)。

寝ても覚めても母のことが気がかりという習性をそのときは忘れていたし、母との関係に関する「しんどさ」をも感じないまま、ほわんと浮かんだその顔をみていたら、それがそのまますぅーっとフェードアウトした。

すぅーっと離れてパチンと消えた母の顔のイメージを反芻しながらわたしは、「あ、わたし、今コレやっと親離れしたのかも」と思った。気のせいじゃないという確信がいつも痛い胃の奥に沁みこんだものだった。

そっかあ、永かったなあ。。。と、そのときは思った。ただし、これが始まりだろうなあ、という気もしていた。終わりに向けての始まりだろうなと。そして多分、終わらないんだろうなあと。

ああ終わらない。いやはや果てしない。以前ほどの苦しみはないけれど、今もやっぱり渦中です。。。

――さて、こんなわたしが先日出会ったのがこちら。激しくむさぼり読みました。


「関わらないのが一番いい。だけど……無視するのもすごくしんどい。」
「もう、なんなのこの人」

読んでいると、エイコがかわいそう過ぎることと、気持ちがわかることに呆然としてしまう。

大学受験の朝に角材もって追いかけてくるって…。
たのしみにして準備を整えていた学校企画の旅行を勝手にキャンセルするなんて……(一度ならず二度までも)。
謝るまで執拗に攻撃。職場にまで電話攻勢してくるなんて……。

他人なら即通報、逮捕なのに、「親」だから耐えさせられてしまう。他の家族を知らないから、これが家族なんだと思わされてしまう。こうして平穏な人生そのものが根底から奪われてしまう。

妊娠をきっかけに危機感を究極にまで高めたエイコが心療内科の医師から受けた言葉にわたしまで救われる思いでした。

「あなたはとんでもない親からとんでもない育てられ方をしたんです」
「ひとりで戦ってきてえらかったと思うよ」
「あなたはひとつも間違ってない」

作者の田房永子さんは、「描き始めた頃は親への憤りがすごかった」らしいのですが、担当編集者さんからの「恨みの気持ちを抑えて描かないと読者がつらくて読んでいられない」という助言を受け、「とにかく淡々と」「絵柄も究極にシンプルに」に徹したそうです。

「あとがき」「文庫版あとがき」のほか、臨床心理士の信田さよ子氏による「解説」もあって、それはそれは読みごたえがある本でした。関連本を何冊か手にした中から選んだけれど、ひとまず正解でした。

★ ★ ★

わたしの母は角材を持ったりせず暴力行為とかあるわけではなかったけれど、とにかく「しんどい」思いをさせられました。

この本で、エイコが母の事を、強いと思っていたけど実は「ひとりになれないすごく弱い人」と気づいて「世界が真逆になる」体感をする場面があります。わたしも同じく、強いしなんでもできる人と思っていた母が、実はものすごく弱い人なのだとわかってきてからは、母への対応もずいぶん変わったかなと。たぶんですけど。

母の性格や母を含む実家関係の事をずっと背負わされ続けてきて、もう書くしかないと永年思ってきたのにこれがなかなかちっともいい具合の糸口が見つからないけれど、それは、できれば笑い飛ばしてしまいたいという願いがあるからだと最近は分析しています。

物心ついて最初に体感するのが、母の感触と家族の温度。わたしに不足していた家庭のぬくもりを、わたしが作った家族に与えられてきただろうか。それが今とっても心配です。




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