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幻想的空想的妄想的ジブリ解釈です!(『On Your Mark』編)5

『On Your Mark』の謎 〜その5・最終回〜
 
《このシリーズは、すでに視聴されている方を対象としています。ご容赦ください。なお、以下の解釈は、できるだけ、アニメを見ながら読んでいただけるとありがたいです。
謝辞:ヒデちゃん、カズくん、構成、推敲に協力してくれてありがとう。何度もお礼を書くのも変な感じかもしれませんが、実際2人の協力のお蔭でここまで来れました。》
 
 前回までに、かなりの材料が揃ってきました。これまでの分析をもとに、いよいよまとめていきたいと思います。これまで、2回に渡り中断してしまいましたので、流れが分かりにくくなってしまいました。途中で読まれた方、申し訳ありません。このシリーズの第3回目終わりからここまで続いています。ご配慮くださるとありがたいです。
 
【これまでの考察の繋がり・特に繰り返しの意味】
 これまでに検討してきたことをもとにして、特に繰り返しのシーンで起こっていることとその意味について、前回に続いて分析を進めたいと思います。
 まずはじめは、装甲車が落下した後の、大きな繰り返しです。繰り返し前には、天使を助け出そうとして落下し、死んでしまうかもしれない、という大失敗をしています。繰り返し後には、天使を救い出し、地上に出て大空に飛び立たせたわけですから、その繰り返しは、もう一度やり直すための繰り返しと言っていいでしょう。また、その繰り返しの前に、ASKAが天使に触れた時の小さな繰り返しは、2人が警察に入った時のことを思い出した場面ではないでしょうか。つまり、回想シーンで「天使」を飛ばした、ということは、2人がかつて「夢」を持っていたことを表しているとみていいように思います。しかし、警察組織の中に長くいると、はじめに抱いていた思いがいつしか薄れ、何のために警察組織に入ったのかを忘れてしまうことがあります。2人は忘れていたものを、「天使」に触れたことで思い出したのです。
 以上、繰り返しシーンの分析により、その前後で、2人の心理や状況が異なることが分かります。小さな繰り返しでは、忘れていた初期の「夢」を、繰り返し後に思い出して(自分を取り戻して)天使を奪還する行動に出た、ということが起こっています。大きな繰り返しでは、一度天使の奪還が装甲車の落下により失敗したのですが、繰り返し後には天使を飛ばすことに成功している、ということが起こっています。これら2つの繰り返しに共通していることはなんでしょうか。繰り返しの前には、自己喪失や失敗が起こり、繰り返し後には自己回復や成功という状況になっているのです。その2つに「天使」が関わっていることは、アニメを見ていると分かります。「天使」は、まるで「あきらめずに、もう一度やってごらん」と言っているようです。「天使」がいれば、やり直しができる、それも、死んでしまうかもしれないくらい重大な失敗の危険性があっても。
 繰り返しの意味は、この「天使」を「夢」の象徴と考えることで、その必要性を理解できる気がします。
 
【抽出されるメッセージ】
 これまでの材料を合わせて幻想的空想的妄想的に考えてみますと、次のようなメッセージが出てきはしないでしょうか。
 
あなたは、夢を持っていますか。昔は持っていたかもしれませんが、今はそれを忘れていませんか。その夢は大失敗により実現できず、それで挫折して苦しくなることがあるかもしれません。それは、偏見や何かに凝り固まった考え方で容易に消えて無くなります。安定した組織にいれば実現できるというものでもなく、科学的に合理的に効率的に考えればいいというわけでもありません。そのような考え方の中では、いつの間にか何のために生きているのか分からなくなってしまうかもしれません。夢は実現できなくとも、思い出し忘れることがなければ(危険を覚悟して持ち続ければ)、あなたの人生は、少しかもしれませんが、充実していることでしょう。今このアニメはあなたに問います。あなたは、人生の位置についていますか、と。
 
【⑤の謎の空想】
 さて、いよいよ最後の謎です。
 
⑤アニメ開始後すぐ、パトロール装甲車が登場するシーンは、「On Your Mark」というタイトルが登場した後のシーンとどのようにつながっているのか。
 
 この謎を考えるための材料は、あまりないように思われます。地上が危険地帯であること、装甲車に乗っているのが主人公の2人ではないか、ということくらいです。そして、これまでの分析による妄想をもとにすれば、タイトルが表示された後の一連の物語は、2人の回想なのではないか、という推測を無理やり作り出せそうです。もし、そうであるならば、はじめの装甲車のパトロールシーンは、時間的な順序としては、タイトル表示後に続く物語の後に来る場面のように思われます。
 つまり、「夢」を思い出し、持ち続けられた2人は、あえて危険な地上をパトロールしている、ということになります。地上はまだ汚染が残り、人の住居も荒れ果てています。もしかすると、人の手の入らない自然状態になっているかもしれません。それでも、彼らの思い(それがどんなものであったにせよ、警察組織に入った時の「夢」)で彼らは行動している、ということです。
 このようなことを考えて、この最初のパトロール場面を見ますと、
「さあ、今度は、あなたの番ですよ。あなたには『夢』がありますか。その『夢』を持って行動していますか」
と問われているような気がしてきます。
 
【最後に】
 このアニメを以上のように解釈してみると、この作品の作り方にある特徴があることが分かります。具体的なものにある象徴的意味を持たせ、それをつなぎ合わせることで、作品の中にメッセージを埋め込むという手法を実験的に採用しているようです。いわゆる、象徴的手法とでも呼んだらいいのでしょうか。この手法は、『ハウルの動く城』や宮崎駿監督の作品でありませんが、『借りぐらしのアリエッティ』に見られるように思います。
 この『On Your Mark』が宮崎駿監督の他のアニメ作品に果たした役割は、その小さな規模にもかかわらず、きわめて大きなものであったのではないか、と思われます。(この解釈文も、たった7分に満たない作品に、5回分、つまり、『となりのトトロ』の半分以上もの量を必要する、規模の大きなものになってしまいました。)
 そのような重要性を持つこの作品について、これまで行なわれた妄想的解釈がまったくの見当外れでないことを、そして徒労に終わっていないことを最後に願うのみです。
 
 ここまで、ご清読、ありがとうございました。
 
【おまけ・その1・同時併映の『耳をすませば』】
 『On Your Mark』『耳をすませば』と同時に放映されました(どうやら、順番はこちらが先だったようですが)。『耳をすませば』というアニメは、どのようなアニメだったでしょうか。それは、中学3年生の月島雫と天沢聖司の2人が自分の「夢」を語り、自分の「夢」の実現に悪戦苦闘する物語です。同時に併映された『On Your Mark』も同じように「夢」を扱った作品なのではないでしょうか。2つのまったく毛色の違うアニメ作品を観客は見て、どう反応するだろうかと、宮崎監督はスクリーンの裏側でほくそ笑んでいたのかもしれません。もしかすると、これが私たちの鑑賞眼を試す「実験」だったのでしょうか(一度見ただけではとても理解できない作品ですから、監督のこの作品についての発言はとても意味深いかと思われます)。
 
【おまけ・その2・最後のシーン】
 このアニメの最後のシーンは、空から車の2人を見ているシーンのようです。ということは、空から見ているのは、「天使」でしょうか。「天使」は、自分をあるべき大空に飛ばした2人を空から見守っているのでしょうか。手の届かない大空にいる、ということは、彼ら2人には、もしかすると、実現できないかもしれない「夢」を意味しています。しかし、「天使」は、2人を見ていてくれているようです。このシーン、「あなたたちがこちらを見ている限り、見ていますよ」と言っているみたいです。
 
※次回は、「ジブリ作品雑感」です。分析・解釈は少しお休みです。ご容赦。

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