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幻想的空想的妄想的ジブリ解釈・ラスト(『おもひでぽろぽろ』編)2

『おもひでぽろぽろ』の謎 〜その2〜
 
《このシリーズは、すでに視聴されている方を対象としています。ご容赦ください。》
 
 さて、今回から状況証拠に基づいて、いろいろと妄想的解釈を進めていきます。まずは、材料集めからです。
 この作品での特徴や不明点を前回取りあげましたが、その一つ一つについて簡単に素描してみます。
 
【特徴・不明点】
1.始まりが回想シーンで、小学5年生頃の建物であったこと。(過去から始まっている。はじまりはものすごく地味である)
2.全体の1/3近くは回想シーンであること。
3.27歳のタエ子は、映像の中では一度も過去の小5のタエ子ちゃんを見つめていないこと。過去の小5のタエ子ちゃんは、現在の27歳のタエ子を見たり、触れたりしています。
4.途中に出てきたタエ子のいくつかの質問の特徴は?
(1)「なぜ小学5年生なのだろう?」
(2)「なぜ一度だけたたかれたのか」
(3)「握手だけ?」
5.回想シーンで、タエ子ちゃんが父にたたかれた場面。また、タエ子ちゃんの演劇活動を父に否定された場面。
6.母の対応。
(1)おかずを残した場面。作文は誉められたが、パンに挟んだ玉ねぎで叱られています。
(2)タエ子ちゃんに外部から演劇の役が最初に来たことを言わないように、母から言われたこと。
7.劇でスターになれそうだと言ったことをタエ子は冗談で済まそうとした。(トシオは、冗談としてとらなかった)
8.回想シーンと現実シーンが主であるのに、回想でも現実でもないシーンが少なくとも2つあること。山形への列車の中にいた時に自分の部屋で寝ているシーンと、トシオの車の中にいるのにワラをつんだ馬車に乗っているシーン(28分55秒後、1時間52分6秒後)。
9.回想の阿部君が現実の雨の中と橋の上に現れたこと。(他のシーンで27歳のタエ子は過去の小5の自分を見ることはなかったが、阿部君は27歳のタエ子を見つめていた。1時間40分25秒後)
10.阿部君の話が27歳のタエ子から語られたこと。(回想シーンの形式をとらなかった)
11.阿部君のシーンでアニメ開始の音楽が鳴ったことに何か意味があるのだろうか。(何かが始まるのか、それとも終わるのか)
12.回想の小5のタエ子ちゃんと現実の27歳のタエ子が列車の中で出会うことの意味は?(列車に意味があるのか)
13.小5のタエ子ちゃんのこだわりのシーン(分数の計算、演劇での台詞)。
 
【気づいたことの素描】
1.始まりが回想シーンで、小学5年生頃の建物であったこと。(過去から始まっている。はじまりはものすごく地味である)
 古い建物がこのアニメのはじめに現れます。これはなんなのでしょうか。視聴者は何を見せられているのでしょうか。ここだけでは、なんともよく分かりません。過去の映像としか言いようがありません。
 始まりに音楽が流れますが、非常に地味なメロディーです。すぐに本編に入りますが、それも訳がわからないうちに回想シーンになります。あの音楽はなんだったのでしょうか。
 とりあえず、ここについては最後に触れることにして、先へ行きましょう。
 
2.全体の1/3近くは回想シーンであること。
 実際の時間はどれくらいか測定はしていませんが、前回の時系列メモでは、山形に行くまでは、ほとんどが回想シーンになっています。もともとの原作が、小5のタエ子ちゃんの物語ですから、それを回想シーンで紹介している形になります。すべての過去の物語をアニメで回想として出す時間はありませんので、このアニメにとり重要な部分のみ回想シーンにしています。それ以外は、口頭で残りのエピソードに触れています。それほど、現在の27歳のタエ子にとり、過去の物語は重要であったという訳でしょう。
 
3.27歳のタエ子は、映像の中では一度も過去の小5のタエ子ちゃんを見つめていないこと。過去の小5のタエ子ちゃんは、現在の27歳のタエ子を見たり、触れたりしています。
 このアニメの途中(列車の中)と最後の方で、過去の小5のタエ子ちゃんと現在の27歳のタエ子の2人が同時に映像に現れます。小5のタエ子ちゃんは27歳のタエ子を見ているように見えますが、逆はないように見えます。何か、心理的なものを表しているのでしょうか。
 
4.途中に出てきたタエ子のいくつかの質問の特徴は?
(1)「なぜ小学5年生なのだろう?」
(2)「なぜ一度だけたたかれたのか?」
(3)「握手だけ?」
 ここに挙げた疑問は、どれも不自然なものではありません。アニメの流れ上、理解できる問いです。ただ、はじめの2つの問いと最後の問いの方向性が異なるような気がします。はじめの2つは、自分から他者へ、あるいは他の何かへ。それに対して、3番目の問いは、自分から自分に向かっています。物語の進行に従って、自分の関心が他のものから自分自身に向かっているような気がするのです。これが何を意味するのかは、まとめの解釈の時に触れることにします。
 
5.回想シーンで、タエ子ちゃんが父にたたかれた場面。また、タエ子ちゃんの演劇活動を父に否定された場面。
 この場面は、戦後の比較的はじめの頃や、古い日本の家庭の一般的な価値観が示されているような場面です。気になるのは父の台詞ですが、この点については、また後に扱いたいと思います(父のセリフが途中で終わっているが、何が省略されているのでしょうか。これが、このアニメを読み解くキーになりそうです)。
 
6.母の対応。
(1)おかずを残した場面。作文は誉められたが、パンに挟んだ玉ねぎで叱られています。
(2)タエ子ちゃんに外部から演劇の役が最初に来たことを言わないように、母から言われたこと。
 これも、上の5.と似たシーンです。母親の価値観が父親と似ているところでしょうか。いつの時代でも、食べ物を大事にしなくてはいけない、というのは理解できますが、母親にとっては、どうもそれだけの理由ではないようです。他人の目が気になるような、そういう理由から、食べ物についても語られているような気がします(状況証拠のみですので、はっきりはしませんが)。
 
7.劇でスターになれそうだと言ったことをタエ子は冗談で済まそうとしたこと。(トシオは、冗談としてとらなかった。)
 このシーンでは、タエ子は、親や他人に認められない、自分の意気消沈した気持ちを軽くするため、冗談として話していましたが、トシオは認められたい気持ちを素直に理解してくれていたようです。タエ子とトシオの差がここでも出てきていて、タエ子は次第にその差について気がついていくようです。
 
8.回想シーンと現実シーンが主であるのに、回想でも現実でもないシーンが少なくとも2つあること。山形への列車の中にいた時に自分の部屋で寝ているシーンと、トシオの車の中にいるのにワラをつんだ馬車に乗っているシーン(28分55秒後、1時間52分6秒後)。
 回想シーンの中に、現実のシーン(家のベッドで寝て回想しているシーン)が出てきていましたが、現実は列車の中です。また、最後の車の中は、夜で雨が降っていましたが、昼間の晴れた天気でワラがつまれた馬車に乗っているシーンが挿入されていました。それぞれ、空想シーンでしょうか。その場その場のタエ子のイメージを映像化しているのかもしれませんが、はじめの方は、過去のシーン、次の場面のは、未来のシーンの想像でしょうか。ここにも、方向性の違う描き方があるように思います。
 
9.回想の阿部君が現実の雨の中と橋の上に現れたこと。(他のシーンで27歳のタエ子は過去の小5の自分を見ることはなかったが、阿部君は27歳のタエ子を見つめていた。1時間40分25秒後)
 雨の降った夜の現実のシーンの中に、阿部くんが現れました。これまでは、回想シーンと現実シーンは分けられていましたが、ここは現実シーンに阿部くんが現れているのです。タエ子の語りはありますが、阿部くんや友達の声が回想シーンのように聞こえてきます。彼らの見る方向は、過去の人物から現実の人物へと向かっているように見えます。今までとは少し違う場面です。これには、何か意味があるように感じます
 
10.阿部君の話が27歳のタエ子から語られたこと。(回想シーンの形式をとらなかった)
 前の9.と同じことのように見えますが、少しだけ内容が異なります。9.では、見ている方向が誰から誰へ向かっているのかが問われていますが、ここは、回想と現実の区別が問題となっています。特徴的なエピソードについては、回想シーンとして、画面で見ることができました。しかし、時間的に長くなるので、いくつかのエピソードについてはナレーションで済ませていましたが、この場面は、このアニメでも重要なシーンではないかと思います。事実、語りだけではなく、過去の女の子や阿部くんが実際に画面に登場しています。ただ、これまでの回想シーンとは異なり、現実の雨が降っている場面で現れており、現実感が強くなっているようです。
 
11.阿部君のシーンでアニメ開始の音楽が鳴ったことに何か意味があるのだろうか。(何かが始まるのか、それとも終わるのか)
 始まりの音楽です。このアニメ自体が過去のシーンから始まっています。しかし、ここでは、過去と現実が入り混じっています。ただ、思い描いているだけではありません。こちら(27歳のタエ子。それとも、見ている人?)が見つめられているシーンでもあります。
 
12.回想の小5のタエ子ちゃんと現実の27歳のタエ子が列車の中で出会うことの意味は?(列車に意味があるのか)
 途中、山形へ向かう寝台列車の中で、小5のタエ子ちゃんが出てきました。また、最後の列車の中では過去のタエ子ちゃんは現在のタエ子ちゃんに触りさえしました。初回の2人には距離が感じられましたが、2回目は小5のタエ子ちゃんが27歳のタエ子をサポートしているようです。
 
13.小5のタエ子ちゃんのこだわりのシーン(分数の計算、演劇での台詞)。
 小学校での演劇でのこだわりだけではなく、分数の計算でもタエ子ちゃんはこだわりがあったようです。「2/3のりんごを、1/4で割るって、どういうこと?」確かに、文章で表現すると、よく分からなくなります。頭の中で、りんごをイメージしてみてください。2/3のリンゴあります。それを1/4で割るというのです。イメージできますか。機械的に計算すればいい、言われた通りにすればいい、ということに抵抗を感じ、意味が分かるようにならないと、つまり理由が納得できないと、タエ子ちゃんは先へ進めなかったのですね。もしかすると、27歳のタエ子も同じなのかもしれません。
 
 このような特徴や不明点から何が分かるのでしょうか。このアニメを読み解くキーとなるシーンや台詞はなんでしょうか。次回、もう少し検討してみましょう。

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