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幻想的空想的妄想的ジブリ解釈です!(『On Your Mark』編)1

『On Your Mark』の謎 〜その1〜
 
《このシリーズは、すでに視聴されている方を対象としています。ご容赦ください。かなりマニアックな作品ですので、このアニメを見ながらお読みくださるとありがたいです。》
 
【はじめに】
 皆さんは、ジブリの『On Your Mark』という短編アニメをご覧になったことがあるでしょうか。一度、テレビでも他のアニメの前に、放映されたことがあったように思いますが、それ以外の機会でこのアニメに出会うことがあまりないかと思います。
『On Your Mark』は、CHAGE&ASKAの歌にアニメーションをつけたプロモーション作品として位置づけられていて、台詞はありません。
 1995年に『耳をすませば』という作品と同時併映されていて、当時『耳をすませば』を映画館で見た人に聞いたことがあるのですが、見た記憶のない人、見たけれど内容を覚えていないという人などで、どんなアニメだったか話をできる人はおりませんでした。
 テレビで一度見たことがある方も、実はあまり記憶がはっきりしないのではないでしょうか。プロモーションビデオのような感じなので、内容があるのかないのかはっきりせず、見たかもしれないが、何が何だかよくわからなかった、という人も多いのかと思います。
 このアニメは、現在『ジブリがいっぱい SPECIAL ショートショート』というDVDに納められています。全体で7分に満たないたいへん短い作品です。宮崎駿監督は、この『On Your Mark』について、「謎をいっぱい散りばめておきました。何度も映画館に見にきてください」ということを、テレビインタビューで話していました。この作品だけではなく、特に宮崎作品には、細部に微妙な謎かけが存在する、という話をこのシリーズの「『となりのトトロ』の謎 〜その1〜」ですでに書いていますが、実は、この短編こそ、宮崎アニメの謎やメッセージの込め方という視点からして、アニメ制作手法にとり重要な要素を含んでいるのではないかと妄想的に考えています。
 
【感想】
 私が初めに見た時の印象は、な・ん・だ・こ・りぁ?でした。いわゆる、ちんぷんかんぷん、というやつです。すでに、『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』をあれこれ考えていたので、この『On Your Mark』も何かあるに違いない、と思っていました。特に、アニメの最初に、「ジブリ実験劇場」と表示されているので、これは何とかしないと気持ちが悪い、といいますか、すっきりしないといいますか、もやもやの晴れない状態でした。というわけで、これを見たその日から、楽しい格闘が始まったのです。
 『On Your Mark』は、そのはじめのシーンで、先ほど述べました「ジブリ実験劇場」という文字が出てきます。このアニメで実験した手法が何か、というのを表現するのは難しいのですが(もしかすると、このシリーズの中で表現できるかもしれません)、この作品から感じ取れる手法は、後の『ハウルの動く城』で見事に開花しているように思います。
 
【作品解釈・分析の原則】
 このように、宮崎作品を妄想的に読み解くにはとても大事な作品ではあるのですが、一度見ただけでは、内容を把握するのがとても難しい作品で、なかなか分かりやすいコメントや解説に出会うことがないように思います。しかし、以下の空想的考察に見られますように、これが実に意味深い作品ではないかと考えられますので、ここでも実験的に(妄想的に)作品分析を進めていこうと思います。
 ここでの分析、つまり「幻想的空想的妄想的解釈」の原則は、すでに『幻想的空想的妄想的ジブリ解釈始めました(ジブリの秘密)1』に書きました。その原則は、
 ・アニメ内部のシーンをいくつか集めて、それだけから空想的に考える
 ・考えた内容が他のシーンと違和感がないか調べる
というものです。ただ、やはり、このアニメでは、一般的な知識(放射線マーク、危険を示していると理解できる)も必要かと思います。このアニメの世界の地上は、放射能汚染により、危険地帯になっているようです。
 まずは、ストーリーを追ってみましょう。
 
【あらすじ】
 このアニメの出だしは、装甲車のようなパトロールカーに2人が乗っていて、地上をパトロールしているシーンです。その後、「On Your Mark」というタイトルが表示され、場面は一転し、地下世界に移ります。その地下世界で、飛行艇に乗り込んだ警察隊(or機動隊?)が、ある謎の集団らしき組織の建物に突っ込み、その建物内の信者たちを銃などで皆殺しにします。そして、主人公らしき2人の人物(CHAGEとASKA?)が、羽の生えた天使(のような存在者、以下「天使」と表します)を救出します。
 その後、救い出された天使は、実験室で科学者に調べられます。その間、2人は居酒屋でお酒を飲みながら物思いにふけっていました。その後、何やら電子機器を改造し、その機器を使って実験室へ侵入します。実験している科学者たちに麻酔(?)ガスを注入し、天使を実験室から奪い取り、逃走します。天使と一緒に彼らが乗り込んだ装甲車は、警察隊のパトロール飛行艇に追われ、高架道路で追い詰められて、あえなく逃走に使用した装甲車もろとも墜落してしまうことになります。
 ここで、シーンは一転し、最初の集団抹殺の場面に戻ります。謎の集団から天使を救い出し、その後天使は実験室に入れられ、2人は実験室から天使を救い出す、という先ほどと同じ行動を繰り返すシーンが続きます。しかし、今度は、パトロール飛行艇に追われた装甲車は高架から墜落しますが、下まで落下することなく装甲車はジェット噴射で逃げます。2人は途中で自動車に乗り換え、天使とともに無事地上に脱出します。地上に車で出てきた2人は、天使を車から大空に飛び立たせて、7分に満たないこのアニメは終了します。
 
【作品解釈・分析の材料】
 だからなんなんだ、という声が聞こえてきそうな作品です。筋があるのかないのか、何が起こっているのか、天使のような存在者はいったい何なのか、全く説明がありません。このアニメには、台詞がいっさいありません。しかし、歌詞はあります。よくよく見ると実に興味深いことが分かってきます。歌詞、という言葉と映像のみで解読する謎解きのような作品に思えます(ここから、先は、実際に作品を見た後か、見ながら読む方がよいと思いますが……)。
 この作品を読み解く鍵(キー)は何でしょうか。いくつかの特徴や疑問を提示して、まずは謎を抽出し、作品そのものを読み解く材料を作りましょう。
 繰り返しこのアニメを見て行きますと、あることに気がつきます。繰り返しがある、ということです。しかも、よく見ると、2箇所あるように思います。1箇所は、はっきりしていますが、もう1箇所は、繰り返しなのか、一瞬ためらいますが、この7分に満たない短い作品で、テレビのコマーシャル後に再度前画面を繰り返すようなシーンは作らないだろうという推測から、アニメ開始後1分58秒後のシーン(ASKAらしき人物が囚われていた天使に触れた後、挿入シーンがあります。その挿入シーンの後です。以後、「アニメ開始後」は省略します)は、繰り返しであると解釈します。
 それからもう1つ。途中で挿入シーンが3回あるようです。2回目は、かなり短いのですが、これがキーになります。
 さらに見て行きますと、あるシーンだけ、やたらと長く映すのです(4分16秒から41秒まで、5分54秒から6分39秒まで)。この長く映すシーンに何かあるのではないか、ここもマークです。
 顔の表情も解釈の助けになります。登場する2人の行動を顔の表情からも推測できるようです。
 こうした点を踏まえて、まず、特徴や謎をいくつか列記します。これらが、解釈・分析の材料になります。
 
【『On Your Mark』の謎】
①繰り返しがある(よく見ると、2箇所)。繰り返しはなぜ起こっているのか、その意味は何か。
②挿入シーンが3箇所ある。どういうシーンなのか。
③顔の表情や手の動き、飛び立つ動作などがクローズアップされ、わりあい長く映し出されるシーンがいくつかある。何か意味があるのだろうか。
④天使を大空に飛び立たせて終わる、ということにどのような意味があるのか。
⑤アニメ開始後すぐ、パトロール装甲車が登場するシーンは、「On Your Mark」というタイトルが登場した後のシーンとどのようにつながっているのか。
 
今回はこれにて。

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