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短編小説 「死神の笑顔」


かつて、影の世界にユリンという名の死神がいました。シャドウグレーのローブを纏い、常に耳まで届く大きな笑顔を浮かべている彼女は、死神界でも異彩を放っていました。その特徴的な笑顔は、生まれつきであり、どんな時でも変わることはありませんでした。

ユリンが赴く世界は、どこもかしこも暗く沈んでおり、亡者たちの視線は空虚で重苦しい。他の死神たちは無表情に仕事をこなし、喜びも悲しみもなくただ役割を果たしていました。しかし、ユリンは違いました。「笑おうじゃないか」というのが彼女の口癖であり、彼女はその信念を持って、どんな暗い霊も明るく照らそうとしていました。

初めてユリンを見た亡者たちは、彼女の永遠の笑顔に息をのみました。しかし、彼女の無邪気で明るい性格は徐々に彼らの心を和らげ、暗い世界に一筋の光をもたらし始めました。ユリンは一人一人の亡者に話しかけ、彼らの心にある重い霧を晴らそうとしました。

ある日、ユリンは暗い影に出会いました。その影は彼女の問いかけに小さく笑いながら、「なぜそんなに笑っているの?」と尋ねました。

「それは生まれつきこの笑顔なんだ。だから、いつもどんなときでも笑顔でいられるんだ!」とユリンは応えました。影は驚きつつも、「そうなのか、それはすごいことだ」と少し明るくなりました。

ユリンの提案により、徐々に他の亡者たちの表情も明るくなっていきました。彼らの心が開き、暗い世界に小さな光が点いたのです。ユリンの笑顔は、死神の世界にも変化をもたらし始めていました。

「笑おうじゃないか」その言葉はユリンの生きる道であり、彼女の存在意義でした。彼女は、どんなに難しい状況でも、一緒に笑って前に進むことを信じていました。そしてその信念は、暗い世界の中で一筋の希望となり、亡者たちの心にも影響を与えていきました。

彼女の永遠の笑顔が、亡者たちに希望と光をもたらし、彼らが穏やかに次の世界へと旅立てるよう導いていったのです。

そして、彼女の「笑おうじゃないか」という言葉は、影の世界に響き続ける希望のメッセージとなりました。




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