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短編小説 「垂れ耳ウサギ」


茶色いウサギのアーロンは、子供の頃は何かと他のウサギをいじめて毎日を送っていた。

特に、彼の目にはいつも黒い垂れ耳のウサギ、エリーが気になっていた。子供心にエリーの耳が普通ではないことを面白がり、他のウサギたちと共に彼女をいじめたものだ。

しかし大人になったいまは、アーロンはその行動を深く後悔していた。エリーに対しては特に、なぜあんなことをしたのかと自問自答の日々を送っていた。

ある日、アーロンはエリーに自分の罪滅ぼしをする方法を考えた。彼はエリーの垂れた耳をピンと立たせる方法を模索し始めた。エリーが他のウサギたちと同じように美しく耳を立てている姿を想像するだけで、彼は少しでも彼女の過去の痛みを和らげられるのではないかと考えたのだ。

「エリー、少し変わったお願いなんだけど、ちょっと会ってくれないか?」アーロンはある晴れた日、エリーに連絡を取った。

彼女は少し驚いた様子で応じた。「アーロン? うん、いいよ。どこで会うの?」

「あの、君が昔よく遊んだ野原で待ってるよ」

野原で再会した二匹は、しばらく気まずい沈黙が流れた。アーロンは勇気を出して言葉を続けた。

「エリー、昔のことで本当にごめん。僕、君の耳を立たせる方法を考えたんだ。少しでも昔の僕の行動を償いたくて……」

エリーは驚いたようにアーロンを見つめ、やがて小さく笑った。「アーロン、ありがとう。でもね、私の耳はもうこのままでいいの。昔は気にしてたけど、今はこれが私なの」

「本当に? でも、僕が……」

「アーロン、大切なのは見た目じゃなくて、今の気持ちだよ。あなたが心から謝ってくれたこと、それが私にとっては一番のプレゼントだよ」

アーロンはエリーの言葉に心から感謝した。彼女の優しさと寛大さに、改めて心を打たれた。

「エリー、君ともう一度、きちんとやり直したいんだ。今度は友達として、いや、それ以上の……」

エリーは彼の言葉を遮るように言った。「アーロン、私もそうしたい。私たち、新しいスタートを切ろう」

そこから二匹の関係はゆっくりと芽生え、過去の傷を乗り越えながら、新しい絆が深まっていった。彼らはお互いを理解し、支え合う関係を築き上げていった。

結局、エリーの耳はそのまま垂れた状態で残ったが、アーロンはそれを愛おしく思うようになった。エリーの耳は彼女の個性であり、その個性がアーロンには愛しく、尊いものとして映った。




時間を割いてくれてありがとうございました。

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