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短編小説 「ホワイトボードを買った日」


今日、ホームセンターでホワイトボードを買った。4種類あったなかから、木の枠の裏面がコルクボードになってるホワイトボードを選んだ。アルミ枠のホワイトボードもあった、けど、軽いから木の枠のボードを選んだ。青と黒のペンも一緒に買った。ただ、黒板消しは買わなかった。理由は、余ってるよれた着なくなった服で拭けばいいと考えたからだ。

リビングの壁にかけた新しいホワイトボードに、僕は心地よい緊張を感じつつ、ペンを走らせ始めた。60×90センチの白い空間は、僕の頭の中を整理するための舞台だった。今日選んだこのボードは、木のぬくもりが手に感じられる重さで、僕の生活にしっかり根付くことを予感をもたらしてくれる。

最初に、青いペンで中央に大きな円を描いた。「たべたいもの」と力強く書き込むと、その言葉が何かを引き寄せるかのように、自然と思考が食べ物に集中した。そして、ふと、牛肉が食べたくなった。右側に円をもう一つ描き、その中に「牛肉」と書いた。これが食べたい物の核となる。

牛肉という語からさらに細分化していく作業は、まるで思考の流れを可視化するかのようだ。下に「赤身」、その左に「モモ」、隣には「ステーキ」と、ひとつひとつの選択肢が連なる。それぞれの言葉が連なるたびに、料理への期待が膨らんでいった。そして、最終的に「牛モモステーキ」に行き着き、円を線で結ぶと、まるで運命が決まったかのような感覚に包まれた。

しかし、メインが決まったからといって、僕の頭の中はまだ整理されていなかった。食べ物が決まれば、次はその味だ。

ボードの左側に新たな円を描き、「味」と書き込む。牛モモステーキにかけるソースをどうするか。和風オニオンソースのさっぱりとした味わいか、それとも濃厚なグレイビーソースか。シンプルに塩コショウで味わうのもいい。いくつもの選択肢が浮かび、選択肢の数だけ円を描いて、書き込んでいく。まるで味の星座を描くように、ボードは次第に埋まっていった。

そして最後に、決定したのは「レモン塩」だった。その味が、牛モモのジューシーなうま味を引き立て、食欲をそそることを想像すると、わくわくが止まらなかった。これだ、これでいこう。

ホワイトボードには、今日の晩ごはんについての完全なプランが描かれていた。僕は一歩後ろに下がり、その全体を眺めた。

ああ、やはりこのボードを買ってよかった。

これからの毎日が、こんな風に豊かになるのだろうと思うと、ワクワクが止まらなかった。その中で、「たべたいもの」の中心からすべてが始まったことを考えると、何か小さな達成感を覚えた。何気ない一日の買い物が、こんなにも心を動かすとは。

ホワイトボードにはまだ空白のスペースがたくさんある。これからどんな思考が描かれるのか、どんな計画が形になるのか。可能性に満ちたホワイトボードを前にして、僕はただ、深い満足感を噛みしめるのだった。





時間を割いてくれてありがとうございました。

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