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短編小説 「うちから外へ」


僕の名前はルイ。26歳、千葉に住んでいる。毎日のように映画やゲームに没頭して、バイトの日以外は誰とも話さない。こんなにも人との関わりを避けて生きてくると、自分でもどうしたらいいのか分からなくなる。だけど、この日は少し違った。兄の結婚式がある日だ。兄はいつも私のことを理解してくれる数少ない人の一人だった。彼の大切な日に、僕も一緒にいられることを嬉しく思う。

結婚式そのものは、僕の予想を遥かに超えるほど心温まるものだった。兄が幸せいっぱいの顔で新しい人生を歩み始める瞬間を目の当たりにして、僕は自分の人生でこれまで経験したことのないほどの感動を覚えた。式場の中に漂う愛と喜びが、一瞬で僕の心を満たしたんだ。

そして、その日の流れで、式が終わり、兄から二次会への招待を受けた時、僕の心は複雑な感情で揺れた。一人でいることに慣れきってしまった僕にとって、知らない人ばかりが集まる場所は、ある種の試練のようなものだった。いつもなら、こういう場は避けて通るところだ。

しかし、兄の真剣な眼差しと「来てほしい」という言葉が、僕の心に響いた。彼にとっても、僕にとっても大切な日。だから、どんなに心が怯えても、僕はそこにいなければならないと感じたんだ。兄のため、そして何より自分自身の一歩を踏み出すために。

そんな心境で足を踏み入れた二次会の会場は、僕の予想通り、見知らぬ顔ばかりで溢れていた。僕はまるで小さな舟が大海原に放り出されたような気持ちで、人々の視線を避けるかのように、会場の隅の席に静かに身を落ち着けた。そこに座って、僕は自分の小さな世界に引きこもり、周囲のざわめきを遠く感じながら、何とか場の空気に溶け込もうとしなかった。

この瞬間、僕は自分がどれだけ他人との距離を取って生きてきたかを痛感した。でも、兄の一言が僕をここに連れてきた。僕は勇気を振り絞ってこの場にいる。これが、僕が自分自身に挑む、小さな一歩なんだと思うようにした。





時間を割いてくれてありがとうございました。

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