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映画とドラマと街と、おいしいごはん

大手町・丸の内・有楽町エリアの街づくりを担う三菱地所と、同社が開発を手がける有楽町エリアに仕事場を構える映画企画会社のSTORY inc.による共同プロジェクト「STORY STUDY」。
有楽町──映画館、演劇の劇場、コンサートホールやギャラリーをはじめ多くの娯“楽”が“有”る“町”──の魅力を再認識する、クリエイター発信型のイベントを定期的に実施し、「物語のある街」「街に集う歓び」を提案していく。
2024年2月29日の第6回STORY STUDYは、数多くの映画やドラマにフードスタイリストとして携わる飯島奈美さんをゲストに招き、STORY inc.の川村元気とのトークセッションのかたちで行われた。テーマは、「映画とドラマと街と、おいしいごはん」。

Intro

今回の会場は、有楽町・新東京ビル4階「Shin Tokyo 4TH」にあるシェアキッチン。ドアを開けると、飯島奈美がおむすびを握っており、エプロンをつけたスタッフ陣がしゃーっといい音で唐揚げを揚げている。おかずは他にも、きんぴら、卵焼き。第6回STORY STUDYは、この場で作ったお弁当を食べながらの開催となった。

川村が「トークイベントのための試食です」と言い訳しながら、おむすびをひとつ頬張る。すると、「めっちゃくちゃ美味しい!」と絶叫。さまざまな期待が高まるなか、トークセッションが始まった。


ゲストの飯島奈美さん(中央)と川村元気(右)

川村 みなさん、お預けをくらってますね(笑)。
 
飯島 どうぞ温かいうちに召し上がってください。
 
川村 お弁当をご紹介いただけますでしょうか。
 
飯島 では、今日のお弁当箱から。浅草の木具定商店さんの折り箱です。おむすびが潰れないように、ちょっと深めの箱になっています。白いほうのおむすびは、中に焼いたシャケと叩いた梅干しとゴマを混ぜたものを、ピンク色のほうは、梅干しのドライと甘酒のドライ、赤シソの粉末とかつおぶしなどを混ぜたものが入っています。そして唐揚げは、私がプロデュースしている梅酢(「紀州の、うめ酢」)と酒だけで味付けしています。きんぴらは、ゴボウ、レンコン、ニンジン、絹さやをそれぞれいためて、それぞれの味つけをして混ぜたもの。私は韓国によく行くんですけども、韓国料理のチャプチェの作り方をきんぴらに応用してみました。

川村 飯島さんのおにぎり、なんでこんなに美味しいんですか。何か秘密が?

飯島 秘密は特にないんですけれども(笑)。まず、米が炊けたらおひつに移します。米が少し落ち着いたら、本当に軽く軽く握るんですね。それを、お米がくっつかないクッキングシートを敷いた飯台に5分くらい寝かしておくんです。軟らかいから立てると崩れてしまうので、横にして。あと、思ったより塩を多めに使うのもポイントですね。

川村 いや、同じようには作れないですよ。すきやばし次郎のしゃりの握りと同じレベルの話だな、というふうに思いながら聞いてましたけど……みなさん黙々と食べてますね!

一同 (笑)

川村 今日のお米の種類は?
 
飯島 今日は「つや姫」を使っています。普段、撮影の仕事が多いんですよね。つや姫は本当にツヤがいいので、つい使っちゃうんです。でも、他にもおいしいお米はたくさんあります。今は全国どこでもおいしいお米が採れるので、地方に行ったりすると、そこで採れたお米を食べるようにしていますね。
 
川村 僕は唯一の趣味が、食べることなんです。普段やっている映画の仕事とはちょっと距離があるように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、映画における“食”って、美術や音楽と同じくらい大きな要素なんですよね。例えば、飯島さんとご一緒した『舞妓さんちのまかないさん』は、京都の屋形(舞妓置屋)で一緒に生活する女の子たちの話でしたが、本当に美味しいものを作っていただいているから、俳優たちが「美味しい!」という芝居になっている。
 
飯島 かわいい子たちに日々料理を作れて、幸せでした。

川村 食事のおかげで置屋の中のグルーヴ感が出てきたっていうぐらい、演技にものすごく影響するんですよ。僕達の仕事場でも、同じようなことって起きていると思うんです。例えば会社の同僚とランチをしに行って、美味しいものを食べて帰ってくると、その後の仕事のグルーヴ感が出たりするじゃないですか。あるいは、街に美味しいものがあると、その街に人が集まる。ニューヨークはその典型だと思うし、サンセバスチャン(スペイン)なんかもそう。一方、東京のとある街などは、ビルの中にチェーン店しか入っていない。土日になると働いている人がいなくなるので、ゴーストタウンみたいだったりする。食と街は関係性が非常に深い。
 
飯島 私も本当にそう思います。美味しいお店がなかったら、仕事以外でわざわざその街へ行かないですよね。
 
川村 今日は飯島さんに「映画やドラマと食の関係」について伺いつつ、後半では「食と街の関係」についても、いろいろとお話しできたらと思っています。

1.『カルテット』(2017年)

川村 美味しそうな映像作品て、だいたい飯島さんがやってますね(笑)。
 
飯島 ありがとうございます(笑)。
 
川村 一つずつお伺いしていきたいんですが、まず『カルテット』は坂元裕二さんの脚本作品です。アマチュア演奏家の男女4人がカルテット、弦楽四重奏を結成する。それと同時に軽井沢の別荘で共同生活を始めるんですが、しょっぱなで大喧嘩が勃発する、というシーンがあります(第1話「偶然の出会いに隠された4つの嘘」)。


飯島 これは、脚本に「唐揚げ」とだけありまして、お皿に山盛りの唐揚げにどうレモンを添えるかは、俳優さんたちが取りやすいようにと、こちらで考えました。1人がセリフを間違うとまた揚げて、また盛り付けなければいけない。4、5回はやったと思うんですけども、あれだけ大量の唐揚げを作る機会はなかなかなかったです。

川村 長回しでしたもんね。このシーンのポイントは、食べるってことは人間を表すということ。唐揚げにレモンをかけるかかけないかという意見の違いで、キャラクターが見えるんですよね。勝手にレモンをかけたことに対してあんなに怒るってことで、高橋一生くんの役は神経質なやつなんだなってことがよくわかる。
 
飯島 そうなんです! 黙っていた松たか子さんも最終的に参戦して、唐揚げにレモンをかけてもいいかどうか、「“どうしてかける前に聞かなかったんですか?”ってことを言ってるんですよ」と。このシチュエーション、本当によくわかるんですよ。何人かで居酒屋とかに行くと、誰かがかけちゃうんですよ、周りに聞かずに。心の中で「あー、かけちゃった……」と思うんだけれども、それで終わりじゃないですか。それをああいうふうに脚本にするって、坂元さんはすごいなと思います。
 
川村 坂元裕二という書き手の、人間に対する洞察力の深さを感じますね。普通は「神経質な人」ってシナリオに1行書いてしまって、それを読んだ俳優はなんとなく神経質そうに動いたりしゃべったりする芝居になる。でも、唐揚げにレモンをかけるやつにいちゃもんを付けるという具体的な行為が示されることによって、その人の半生が見えてくるというか、こういう育ちをした人で、こういう性格で、普段こういうことをしているんだろうな……ということが、決して説明的ではないにもかかわらず伝わってくる。食事の仕方って、人柄がものすごく出るんです。

飯島 そう思います。坂元さんが脚本を書かれた作品では、『大豆田とわ子と三人の元夫』(2021年)にも参加させていただいたんですが、松さん演じる主人公が、亡くなった友達の家に入って冷蔵庫の残り物で炒め物を作る、と脚本にあったんです。「炒め物ってなんだ?」と。一人暮らしだったら、野菜だとピーマンなんかは日持ちするからありそうじゃないですか。他に豆腐と卵はあるだろう、その主人公と友達はワインが好きという設定だったので、ボローニャソーセージみたいなものは冷蔵庫に入っていそうだなということで、チャンプルーを作ることにしたんです。そういう時は一応、“何でこれにしたの?”と言われたら答えられるように、なんとなく理由を考えるんですね。調べてみたらチャンプルーは混ぜるという意味で、人と人が交わったり、文化の交流という使われ方をする言葉でした。その場面は友達の家で友達が描いた漫画を読んで、亡くなった友達と漫画を通して交流するようなシーンだったので、すごくいい炒め物になったなと自画自賛しています(笑)。
 
川村 あのシーン、素晴らしかったです。


2.『舞妓さんちのまかないさん』(2023年) 

川村 撮影現場でも大人気で、順番待ちの列ができていた親子丼です。このシーンの撮影で知ったんですが、卵は2回に分けて入れるんですね。そうすると、硬さが違う卵のレイヤーができる。
 
飯島 森七奈さん、この時までお料理をそんなにされていなかったんです。私のスタジオへ練習しに来られて、撮影で使う包丁をお渡しして、ナスの切れ目を入れるというのをやっていただいたんですが、「毎日やってるのかな?」というくらい本当に綺麗なんですよ。撮影では、私もそれを再現しなければいけないわけじゃないですか。結構、難しかった(笑)。切るのも上手だし、ちょっと言うと「あー!」って、すぐわかってくれるんですよ。
 
川村 森七菜さんは、何でもうまいんですよね。舞もうまかった。京都の井上八千代師匠に習ったんですが、どの女優よりうまい。そういうことはできなくて落第生だから、舞妓見習いを辞めてまかないさんになる役なのに、「あんたがやればいい」と井上八千代先生に言われてました。
 次に観てもらうのが、是枝さん(是枝裕和監督)がドキュメンタリー的に撮った、食べることで空気が変わるというシーンです(エピソード2「お多福」)。森七菜演じるキヨが愛宕の山登りをして、途中で疲れちゃって休憩するんですね。そこにいる人たちに、自分が握ってきたおむすびを渡す。

飯島 子役の男の子がとても幼いお子さんだったので、うまくいくのかなと思いながら観ていたんですが、素敵なシーンになりましたね。

川村 飯島さんが現場で握ってくれたおむすびのおかげです。本当にみんなが笑顔になったし、ほっこりした気持ちになりましたからね。この子役もノーコントロール系だったんですけど、森七菜に渡されるおむすびを実際に食べた後だと、なぜか言うことをきくんです(笑)。その後、この子のお父さん役の北村(有起哉)さんが「俺も1個もらっていい?」という感じでガサツに取って、3口ぐらいで乱暴に頬張るんですが、食べる直前にはちゃんと「いただきます」と言っているんです。やっぱり、食べ方にはキャラクターが出ますね。

3.『そして父になる』(2013年)

川村 カンヌでも賞を取った(第66回カンヌ国際映画祭審査員賞)、是枝監督の作品です。福山雅治さんの家庭とリリー・フランキーさんの家庭との間で赤ちゃんの取り違え事件が起きて、子供たちがある程度大きくなった後になって病院側からその事実を知らされる。子供たちを入れ替えるか、どうするか。血の繋がりなのか、一緒にいることこそが家族なのか、というテーマの素晴らしい映画です。片方はお金持ちでタワーマンションに住んでいて、片方はぼろぼろの電気屋に住んでいる。食事風景で、明快に二つの家族の差を出しているんですよね。
 
飯島 リリー・フランキーさんの方の食卓では大量の餃子と、副菜としてポテトサラダを。お母さん役の真木よう子さんがお弁当屋に勤めている設定だったので、残り物のポテトサラダを、輪ゴムだけ外してパックごと出しているっていう感じで置きました。

川村 リアルですよね。それに対して、福山雅治さんの家庭の食卓はフルコース。でも、果たしてどちらのごはんが美味しそうか……というところも含めて、この映画は面白かったです。“食”というものがいろんな説明を省いてくれる、という顕著な例だと思います。
 飯島さんは、是枝監督と『海街diary』(2015年)でもお仕事されていますよね。鎌倉の古民家に暮らす四姉妹の話ですが、あの映画も食が非常に印象的でした。さきほどの映像でもちらっと出ていましたが、やっぱりあの辺りはシラスが美味しい?
 
飯島 そうですね。映画に出したもので言うと、生シラス丼も美味しいんですが、シラストーストがすごく美味しい。試作してみたら、シラスが結構ぽろぽろ落ちるんですよ。シラスにオリーブオイルを軽く混ぜてからトーストに載せたら密着したので、演技の時にちょっと食べやすくなったかな、と。
 
川村 演技のためにやっていることなんだけど、結果的に美味しくなる、みたいなことってありますよね。四姉妹が食堂でアジフライを食べるシーンも、めちゃくちゃ美味しそうでした。
 
飯島 あのシーンは、脚本にアジフライと指定がありました。ソースを順番に渡しながら長くしゃべり続けるという撮影だったので、誰かが失敗すると、アジフライは1人2尾なので8匹揚げ直さなきゃいけない。10回ぐらいやったんじゃなかったでしょうか。用意していたぶんのアジがなくなって、追加で買いに行ってもらったりしました。監督ってセリフの間違いだけじゃなくて、間とか、誰にもわからないところで「もう一回」ってされるじゃないですか。終わりが見えないんです(笑)。でも、きっと何かあるんでしょうね。

川村 何かあるんですよ。実際、現場では「どうしてこれにNG出してるの?」みたいなところも、編集で繋げて観てみた時に、「なるほどなぁ」みたいなことは結構あるんです。


4.『かもめ食堂』(2005年)

飯島 師匠の元から独立して初めて参加した、フードスタイリストとしてのデビュー作です。私自身もフィンランドに1カ月半滞在しての撮影だったんですが、飯島奈美の「ナミ」が、フィンランド語で「美味しい」という意味だったんですよ。飯島は「飯」の島で、奈美は「美味しい」。自分の名前に、運命のようなものを感じました。
 
川村 日本人女性がフィンランドのヘルシンキで食堂をやる、という設定の荻上直子監督の映画です。たぶん飯島さんも、小林聡美さんたちが演じる女性たちと同じように、フィンランドの食材で和食をやり繰りする、ということをリアルにやられていたわけですよね。

 飯島 そうですね。事前にプロデューサーや監督と話し合って、向こうの材料でできるメニューを提案しました。例えば、あちらはサーモンが美味しいので、シャケを焼いたものをメインにして、副菜で出すきんぴらをゴボウではなくパプリカで作ってみたり。豚肉もおいしいので生姜焼きもできるかな、とか。撮影時に見栄えがいいように、豚肉の生姜焼きはタレに漬け込まず、お肉を焼いた後で、上からタレをかけてジュワーッという音を楽しめるレシピにしています。カメラマンさんや照明さんなど撮影スタッフは、ほとんどがフィンランドの方だったんですね。撮影に入る前に、プロデューサーさんから「どんなものを撮るのかわからないと美味しそうに撮れないと思うから、スタッフみんなにおむすびを作ってほしい」と言われて、日本から持っていったコシヒカリで100個ぐらい作って振る舞いました。
 
川村 今は世界的に日本食がブームですが、当時はほとんど知られてなかったんじゃないですかね。

飯島 おむすびの海苔を剥がして食べる方もいらっしゃいました(笑)。でも、どんどん慣れてきて、撮影で余ったものをフィンランドのスタッフさんたちにお出しすると、競い合って食べてくださいました。
 
川村 珍しいからではなく、美味しいからですね。最近はロサンゼルスなんかに行くと、ミシュランの星付きレストランは和食屋だらけなんですが、それがまた微妙な和食だったりするんですよ……。
 
飯島 えーっ!? それはショックですね。
 
川村 東京の居酒屋や食堂のほうが、おいしい和食を出すんですよね。最近はいい和食のレストランに行くと、半分ぐらい、外国人のお客さんだったりしますし。
 
飯島 だから外国の人たちが日本に来ると、ご飯が美味しい美味しいと言っているんですね。
 
川村 日本は食のレベルが本当に高いし、観光資材になっているのは間違いない。『かもめ食堂』という映画は、時代の先を行っていたんだなと思います。

5.街とご飯

川村 今日は久しぶりに丸の内、有楽町エリアにいらしたそうですが、イメージとちょっと違うなと感じませんでしたか?

 飯島 今まではビジネス街というイメージだったんですけど、実際に来て歩いてみると、おしゃれな雑貨屋さんなどいろんなお店や素敵なカフェがあったりして、すごく綺麗で楽しい街なんだなと感じました。オフィス街だからこそ、いろんな地方から来ている方もたくさんいらっしゃるわけじゃないですか。少し地方色を出したお店があったら面白いのかも、なんて思ったりもしました。地方から出てきた人がちょっと仕事に疲れた時、たまたま隣に座っていた人が同じ町の出身だったりしたら、ほっこりしますよね。地方の食材を食べにレストランへ行けば、ちょっと旅行気分も味わえたりしていいなぁなんて。

 川村 この辺りのエリアって地方のアンテナショップが意外とあるんですが、食材屋さんになっちゃっていて、その場で食べられないんですよ。結果、わざわざみんな行かない。それがいつももったいないなと思うんです。

 飯島 奈良県のアンテナショップが新橋にあるんです(奈良まほろば館)。そこは1階が奈良の食材や工芸品を扱うアンテナショップで、2階はものすごく素敵な、レストランなんですよ。

 川村 あのお店、美味しいですよね! 実は地方のいいお店も結構、八重洲の地下なんかに出店していたりするんですよ。でも、あまり知られていなかったりする。例えば、地方ですごくちっちゃいけど美味しいお好み焼きの店がありますと。東京に新しいビルが建って、そのお店の支店が地下の食堂街に入ったんだけれども、本店とそんなに味が変わらないのにお客さんが入らない。この現象って何なのか。東京に来ると、魔法が解けるんでしょうか。

 飯島 そういうこと、よくありますね。地方のカキ小屋に行ったことってありますか?

 川村 はい。僕が行ったのは、大分だったかな。

 飯島 私は福岡のカキ小屋に行ったんですが、昔はボロボロの小屋だったのに、綺麗なプレハブ小屋になっていて、美味しさが半減したように感じたんです。それって間違いなく、建物の印象ですよね。逆に、恵比寿とかでよく見かけるんですが、新しくできたはずなのに、昔からずっとそこにあったような雰囲気の食堂があるんです。それの何がいいって、初めましてのお店でも入りやすいんですよね。

川村 ファインダイニングが星を取ったりすると、店の内装を気合い入れすぎてやりすぎちゃったりしてしまう。

 飯島 はい(笑)。もっと素朴な店構えだったらな、と思うことはあります。

 川村 「有楽町ビルヂング」の地下に、僕が大好きだった「マーブル」というカレー屋さんがあったんですが、去年の10月に閉店してしまったんです。美味しいのはもちろん、いい雰囲気の店だったんですよ。新有楽町ビルも有楽町ビルもこれから建て直して新しくなっていくわけなんですが、昔ながらのいい雰囲気のあるお店がテナントに入ったら嬉しいなぁと。

 飯島 なくなってしまったお店を復活させるのは大変ですけど、お店の備品とか廃材を全部捨てずに残しておいて、綺麗にして次のお店で再利用したらいいのになと思うんです。

 川村 名店のテーブルとかタイルとか、絶対取っておいたほうがいいですよね。新有楽町ビルの外壁のレンガも、すごく綺麗な色なんですよ。映画美術的に言うと、めちゃくちゃいいエイジングがかかっている。あれを取っておいて、新しいビルに建て替えた時に、1階のカフェとかに使ったら最高だなと思うんですよね。

 飯島 絶対いいですよね。

 川村 ただ壊すだけではもったいない。……今日はいつも以上に言いたい放題言っています(笑)。というわけで今、僕は新しいランチのお店を探しています。飯島さん、おむすびの店を出してくれませんか? おむすび屋さんであまり推しが見つからず……。

 飯島 美味しいところもありますよ(笑)。ただ、具の種類が多すぎて、もっとシンプルに選ばせてっていう時はありますよね。「焼きサバ」とか要るかな、みたいな。

 川村 今、これだけ米の種類が多いじゃないですか。個人的に塩むすびが大好きなので、塩むすびで米の食べ比べをしたいんですよね。

 飯島 それ、いいですね。

 川村 今日はこの豆でこのコーヒー、みたいな感じで。最近は米がどんどん主食から追いやられていると言われますけど、日本人にとってやっぱり米は食の根っ子にあるものだと思うんですよ。そういう店を三菱地所さんに作っていただいて、飯島さんに握ってもらうのが今の僕の夢です(笑)。

 飯島 私は今、ほとんどがCMや映画のお仕事で、本も出させてもらったりと幅広くやらせていただいてるんですが、まだお店は出したことないんです。いつかおでん屋とスナックをやるのが夢なんですよ。

 川村 最高じゃないですか! そこで、塩むすびも出してください(笑)。

 飯島 いい物件がありましたら、よろしくお願いします(笑)。

Outro

 質疑応答では、「具体的にこういうお店をやりたい、というプランはありますか?」と直球の質問が飛び出した。飯島が答え、そのプランに川村も追随し……魅力的かつ実現可能性も高いため、記事ではオフレコとさせていただく。「仕事で行かれて、好きだなと感じた街は?」という質問でも、二人の会話が弾んだ。

 飯島 輪島(石川県)は、地震で今は大変なことになっていますが、すごく好きな街です。日本だったら他には、唐津(佐賀県)も大好きですね。海があって自然豊かで、街中にはおいしい豆腐屋さんとお寿司屋さんなど、ひと通り美味しいお店が揃っている。景色とご飯屋さんだけで何泊も行ける。

川村 器の文化がある土地って、美味しいものがありますよね。

飯島 そうなんですよ。あとは海外だと、イタリア、フランス、スペイン……。地方に素敵な街があると、その国全体がいいなって思いますね。

 川村 僕は去年、『怪物』という映画で是枝さんとカンヌへ行った時に、レンタカーを借りて国境を越えて、北イタリアのリグーリアという港町に行ってきたんです。

 飯島 リグーリア、いいですよね!

 川村 イタリア語しかしゃべれないおっちゃんたちが、炭火で魚を焼いて塩とレモンかけて、そのまま出す、みたいな料理ばかりだったんですが、最高でした。

 飯島 サンセバスチャンがいいなと思うのは、ふらっと入れる美味しいお店がたくさんあるんです。ここはダメだけどこっちだったら入れるかな、ここは今いっぱいだけど空くかもしれないから、こっちで1品食べてから行こうかな、と。何カ月も前から予約しなければ行けない店ではない、気軽で美味しい店がたくさんある街が、私にとっていい街なのかもしれません。

 川村 もともと有楽町ビルの地下って、まさにそういう機能があったと思うんです。とりあえずランチの時間に足を運んでみて、この店は混んでるから、じゃあ今日はこっちの店にしようかな、ということが成立する場所だった。

 飯島 お店に入ってきてくれる人を選ぶのって、大事ですよね。そのためには、お店の側から「こういう人に入ってほしい」って意思表示をする必要があると思うんです。

 川村 確かに。これからのお店作りは、そこがポイントになりそうですね。今日は飯島さんのおかげで、街に関するいろいろな論点が出てきて楽しかったです。ありがとうございました。

 飯島 こちらこそ。おむすびとお弁当のおかずで残ったものを後ろのテーブルに用意してありますので、食べたい方はご自由に召し上がってください。

 川村 おむすびと唐揚げが食べたいです!(笑)




 第6回「STORY STUDY」
2024年2月29日 有楽町・新東京ビル4階「ShinTokyo 4TH」にて開催
構成・文:吉田大助  写真:澁谷征司  編集:篠原一朗(水鈴社)