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【経理】税務の情報ソースの選び方。

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

経理・財務・法務、といった会社の管理部の方は調べものをすることが多いと思います。今日は、特に税務に関してどのような情報ソースを選んだら良いか、ということを改めて整理してみます。

調べ方はなかなか教えてもらえないことだったりするので、どなたかの参考になれば幸いです。

注) 記事内で具体的な書籍・雑誌名に言及していますが、あくまで現時点の個人の見解ですので、ご利用の際は自己責任でお願いします。


法律に勝る情報ソースはない。

最初に結論を言ってしまうと、「法律に勝る情報ソースはない」です。

根拠にすべきは法律で、それ以外のものは、補足でしかありません。

税務については税法(法人税法、消費税法、相続税法などの個別税法)がありますが、その基本となる会社法・民法なども併せて読めば、大抵のことは法律で定められていることがわかります。

もちろん、「その法律がそもそもどの条文で規定されているのか」「相反するように見えるこの2つの条文はどう取り扱えば良いのか」「この条文の前提は別の条文にあるので、そちらも読まなくては理解できない」「文章が難解で、書いてあることの意味がわからない」などの数々のハードルがあり、最初から法律を読むことは難しいです。

そのため、法律の読み方を勉強した人でない限り、最初から法律を読むことに取り組むのは現実的ではありません。

ただし、「根拠は法律にある」ことを常に念頭に置いておく必要はあると思います。

解説書は「コンメンタール」一択。

法律を読めない初心者はどうしたら良いかということになると、「まずは解説書を読んで理解する」ということになると思います。

税法の解説書を何にすべきかと聞かれたときは、「"コンメンタール"一択です」とお答えしています。

この解説書は、経理の初心者からベテランの税理士まで(おそらく税務調査官も)、税務に関わるほとんどすべての人が読んでいる解説書です。法律の難解な言い回しを解説し、具体例も踏まえながら、その法律の趣旨・考え方・関連条文などについて、非常に丁寧に解説されています。

以前は紙の書籍のみでしたが、今はWeb版があり、非常に便利です。弊社もWeb版を利用しています。

良書なのですが、唯一のデメリットは「専門家以外の人が購入するには、コスパが悪過ぎる」ということです。内容が充実しているからこそ、価格もそれなりに高いです。税理士法人や会計事務所では大抵購入していますが、通常、会社の経理部では備えていないことも多いかもしれません。

国税庁ホームページの質疑応答。

法律を読むのが難しい&コンメンタールもない、という場合に、頼るべきは国税庁のホームページです。

国税庁のホームページでは、質疑応答の形式や、「~の場合」という形式で、つまづきやすい税務論点の解説がされています比較的平易な言い回しで説明されているので、初心者でも読みやすいと思います。

注意点としては、前提をきちんと読み取る必要があるということです。

法人 or 個人、対象となる法人の種類、役員 or 従業員、会計処理の限定、対象期間など、税法には細かな前提要件がありますので、書かれている文章から読み取らなければなりません。

なお、国税庁のホームページのコンテンツには、更新されて消えてしまう質疑応答があります。「踏み込み過ぎた見解」と判断されて削除されてしまうのかなと私は勝手に推測していますが、以前は掲載されていた内容(=OKだった取扱い)が削除されている(=必ずしもOKではないと考えられるようになった)こともあるので、適宜見直す必要があります。

【番外編】裁判例を見てみる。

判例(=裁判例)や国税不服審判所の事例を見てみる、ということももちろん有効です。

いちど判決が出た内容は、他の同様の案件検討の際に参照されるため、結果的に法律と同程度の効力を持つことになるからです。

ここで【番外編】と記載したのは、裁判は途中の場合(最高裁判決まで出ていないなど)もあり、また、必ずしも同じ事例ということはなかなかなく、有効でないこともあるからです。

余裕があれば読む、というぐらいでしょうか。(税理士は仕事なので適宜読んでアップデートしていますが、経理さんは問題がない限りはスルーでも良いかもしれません。)

日々の情報収集は「税務通信」。

経理部が複数名いる法人であれば、税務通信を購読していることも多いでしょう。

税務通信は週刊の税務雑誌で、税制改正の解説や講読者からの質問に回答する記事を掲載するなど、タイムリー、かつ、法人経理実務に役立つ記事が多いです。財務省や国税庁に取材をした結果を記事にしていたりもするので、非常に信頼性が高いと考えています。

しかも、今まで挙げた中でも一番読みやすいので、税務通信を毎週読んで理解するようにしていれば、勝手に税務の理解は深まります

気になる記事があれば、コピーしてファイリングしておきましょう。重要な内容が記事になっていることが多いので、もし記事の内容でわからないことがあれば、顧問税理士に質問してみるのも良いと思います

私自身、過去に勤務した会社や会計事務所では定期購読していなかったこともあったのですが、その際は自費で個人的に購読していました。それだけの価値は、充分にあったと思っています。

説明用には、他の書籍も。

自分の理解のためだけであれば、国税庁ホームページや税務通信だけで充分かもしれませんが、他の人に説明するときに図が欲しい場合などは、他の書籍を参照するのも良いでしょう。

私の場合は、大蔵財務協会「図解シリーズ」を使うようにしています。図解されているので、取扱いの理解・説明がしやすくなります。

税務の書籍を選ぶときの注意点は、わかりやすさ以前に「内容の正確さ」を重要視する必要があるということです。私の場合は、税務の書籍を専門に出版している出版社の書籍を選ぶようにしています。

Web検索することもある。

この他、Web検索をして、税理士法人や会計事務所の税法解説記事を読むこともあります。

ただし、これは「自分以外の人が何に興味があるかどうかを知るため」であり、税法の理解を深めることが目的ではありません

基本的には、税理士法人や会計事務所が書いている税法解説記事は、主に自社のラインナップを説明する"納税者向け"のマーケティング記事です。マーケティング記事に良いも悪いもないですし、その記事を読んで「こういうところは注意する必要があるのか」と知る納税者もたくさんいらっしゃることでしょう。

ただ、経理さんが参照すべき情報ソースではありませんので、その記事を根拠として、上司に報告するのはやめましょう。もちろん、気になる記事があれば、顧問税理士に「こういう記事を読んだが、どう思うか」ということをどんどん質問するのは良いと思います。

もちろん、有効な記事がゼロということではありません

例えば、BIG4出身の公認会計士・税理士の方で、よくセミナー講師をされている方がいらっしゃるのですが、その方は、会計と税務の取扱いに差がある場合の内容を解説する記事をよく書いていらっしゃいます。

「他の情報ソースではここまできれいに整理されていない」と感じる独自の記事であることが多いので、理解の助けになることも多いです。私自身、その方の著書を何冊も持っており、過去の記事もとてもわかりやすかったことから、その方の記事は参考にするようにしています。

あくまで自分の責任で補足としての情報だと理解した上で、Web検索した記事を参考にするのは、アリではないかと思っています。

【税法を体系的に学びたいとき】税務大学校の教材。

私は大学で会計・税務は学ばなかったので、本格的に勉強し始めたのは税理士試験の勉強を始めたときでした。ただし、試験勉強では全体像を学ぶというよりは、試験に合格するための勉強をします

「税理士試験のための勉強はしているものの、税法の趣旨・全体像がよくわからない」という時期が2年くらいありましたが、その中で当時の勤務先の会計事務所の所長に紹介してもらったのが、税務大学校の教材でした。

「税務大学校」とは、税務署職員採用で採用された方が、全寮制で1年間の研修を行うために使用される施設です。そこで利用されるテキストは、国税庁が「税務大学校講本」として無料でWeb公開しています。

導入教材なので、税法のすべてを網羅しているわけでもありません。それでも、全体像をとらえるのに非常に効果的でしたので、「税法を学ばなかった人が、税法の趣旨・全体像を理解するための良書」ではないかと今でも考えています。

振り返ってみて。

振り返ってみると、自分は認知特性が「読む」だな、と改めて感じます。記載したすべての情報ソースはすべて、「読む」ですね。

「聴く」教材や「見る」教材もあれば、もっと多くの人に、税法に拒絶感なく取り組んでもらえるかもしれません。

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ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。


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