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【コラム】国会に若者の叫びは届くか─「裏金」まみれの自民党政治から希望ある社会へ🥎元朝日新聞記者 飯竹恒一【語学屋の暦】【時事通信社Janet掲載】

【写真説明】「さようなら自民党政治」と若者らが訴えた国会正門前のデモ集会=3月15日、東京都千代田区(撮影・飯竹恒一)

この記事は下記の時事通信社Janet(一般非公開のニュースサイト)に2024年3月26日に掲載された記事を転載するものです。


夜空にくっきり浮かび上がる国会議事堂に目をやりながら、この国は若者に夢を与え得る社会なのだろうかと考えさせられた。

「さようなら自民党政治」と銘打ち、3月15日夜に開かれた国会正門前のデモ集会。20~30代の市民を中心に、公正な社会や政治を目指す有志グループ「WE WANT OUR FUTURE」が主催した。SNS上や人づてでその趣旨に共鳴する人たちが続々と現地に集まった。立憲民主党、共産党、社民党の国会議員らに加え、若者も次々とマイクを握った。

「さようなら自民党政治」と若者らが訴えた国会正門前のデモ集会=3月15日、東京都千代田区(撮影・飯竹恒一)

「自民党の議員はキックバックや裏金で、何百万円も、何千万円もお金を隠し持ち、納税もしない。説明もせずにごまかしている」と、男子大学生(21)が声を張り上げ、こう続けた。「仕事をしながら学費を稼いでいる学生も多く、大学生の2人に1人が、平均310万円を貸与型の奨学金として借りている」

この日は確定申告の最終日。一般国民が納税義務への対応に追われる中、前日の14日には参院政治倫理審査会(政倫審)が開かれた。自民党安倍派の世耕弘成・前参院幹事長が同派のパーティー収入の不記載の経緯について「記憶にない」を連発し、世論の反発を招いていた。

この大学生は取材に対し、政治に関心を持ったきっかけは、故安倍晋三氏の首相時代に浮上した「桜を見る会」をめぐるスキャンダルについて、「国民に対する説明責任がないがしろにされたと思ったことだ」と説明した。
 
出身地の千葉県を離れて沖縄県内の大学に通学しており、ホテルでアルバイトをしている。周囲に奨学金を借りている仲間も多いという。「人への投資無くして国家なし」と実感しており、「国外へのキャピタルフライト(資本逃避)や人材流出に歯止めがかからないのは、この国への希望が皆無だからではないか」と嘆く。

日本財団による2022年3月発表の「18歳意識調査」によると、自分の国の将来について、日本は「良くなる」が13.9%で、調査対象の6ヵ国中、最下位だった。トップは中国(95.7%)で、インド(83.1%)、英国(39.1%)、米国(36.1%)、韓国(33.8%)の順で続いた。

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そんな若者を取り巻く環境を、学問的に解き明かす研究をしているのが、本田由紀・東京大学教授(教育社会学)だ。3月1日、同じグループが主催した国会前デモ集会でマイクを握り、「およそ権力の座に座るに値しない人間がずっと座り続けている」と語気を強めた。

後日、改めて取材で話を聞くと、政治や社会の行き詰まりの根幹に「戦後日本型循環モデル」があると指摘した。政府が大規模な財政支出を行わなくても、「教育」は子ども、「仕事」は父親、「家庭」は母親という形で、性別と世代に基づいた分業が成立してきた日本独自の社会システムだという。

本田由紀・東京大学教授=3月18日、東京都文京区(撮影・飯竹恒一)


「このモデルの下、子どもの教育に親が多額のお金を注ぎ込むことが前提となった。高度経済成長の時は父親の収入が上昇したため、循環は成り立った」と本田氏は分析する。「石油ショックの後も、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』ともてはやされた成功体験から離れられないでいる。バブル経済が崩壊し、失われた30年が続く中、循環モデルは壊れているのに、自民党は抜本的に改善しないままそれを引きずり、破綻が起きている」

奨学金の問題もその一環で、「公教育への公的支出が、特に高等教育である大学に対しては極めて少ないという現実を反映したものだ」という。「奨学金の大半は借金。数百万の借金を背負って社会に出る若者は結婚が難しく、少子化にもつながる悪循環だ」

本田氏は著書「『日本』ってどんな国?─国際比較データで社会が見えてくる」(筑摩書房)で、経済協力開発機構(OECD)加盟国を対象とした1学級当たりの生徒数について、「特に中学校については、OECD平均が23人であるのに対して日本は32人と、調査対象校の中で最多の人数」になっている統計を取り上げ、「政府が少人数学級の推進を怠ってきた」と指摘した。教員の多忙さなどと相まって、一般的な学力は高いとされる日本の教育の質の貧しさを示すものだろう。

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自民党が支持を失ったとしても、野党の結集がままならず、投票先としての選択肢が明確でないなら、有権者も行動を起こしにくいという指摘もある。それでも、政権交代の鍵を握るのは、低い状態が続く若者の投票率だろう。

国政選挙の年代別投票率は、2021年10月の衆院選では、10歳代が43.23%、20歳代が36.50%、30歳代が47.13%で、全年代を通じた投票率55.93%をいずれも下回った。翌2022年7月の参院選でも、10歳代が35.42%、20歳代が33.99%、30歳代が44.80%で、こちらも全年代を通じた投票率52.05%に及ばなかった。

そもそも、全世代を通じた投票率が低く、本田氏は上記の著書で、2014年の衆院選の投票率52.66%が世界200カ国中、150位に位置付けられている統計に着目した。中でも、20代、30代の若年層が特に低いことについて、「ひまがない、面倒、投票しても何も変わらない」といった若者の感覚を読み取り、「選挙へのふわっとした『他人事感』が、近年の日本の若者の投票率の低さの背景にはある」と指摘している。

それでは、日本の若者が政治でもっと存在感を示すためのヒントはないのか。その点、興味深い指摘をしているのが、「シルバー民主主義:高齢化する日本における若者の政治参画(仮訳)」(Silver Democracy: Youth Representation in an Aging Japan)と題した著作に取り組む米イエール大学博士研究員のチャールズ・マックレーン氏だ。自身の研究について、「私の中心的な議論は、『シルバー民主主義』、つまり、高齢の政治家が政治を支配している日本のような状況を支えているのは政治制度なのであって、よく指摘されるような高齢の有権者ではないという点だ」(My central argument is that “silver democracies”-cases like Japan, where politics are dominated by older politicians-are sustained by political institutions and not older voters as is often assumed.)と説明している。

この主張は、高齢の政治家が政治の主導権を握る状況が続く日本について、それは高齢者がそう望んで投票しているからではなく、制度が若者の政治参画を阻んでいるからだという指摘だろう。さらに、示唆に富む指摘が続く。

「こうした制度では、選挙で勝つために、候補者が多額の資金、地元での経験、知名度を必要とすることが多い。こうした条件は、いずれも年齢を重ねれば次第に増えていくもので、若い候補者は明らかに不利な立場になる」(Such systems often necessitate that candidates have significant financial assets, local experience, and name recognition to win an election-all attributes that individuals tend to accrue with age, putting younger candidates at a distinct disadvantage.

マックレーン氏はさらに、日本で被選挙権を得る年齢の高さも指摘している。衆院議員が25歳、参院議員が30歳で、市区町村議でも25歳だ。国立国会図書館の2015年の調査では、年齢が判明した194 の国・地域のうち、18 歳が 54カ国(27.8%)、21 歳が60カ国(30.9%)、25歳が 57カ国(29.4%)で、日本は高い部類に入る。また、一定の得票数に達しなかった場合には没収される「供託金」も、衆院選小選挙区で300万円かかる。候補者の乱立を避けるためという理由はあるにせよ、あまりに厳し過ぎないか。

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反安保法制の国会前デモ集会=2015年9月、 東京都千代田区(撮影・飯竹恒一)

ところで、2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故を受け、原発の再稼働に反発する世論のうねりは首相官邸前に空前の20万人が集まる街頭デモにつながった。「3・11後の社会運動─8万人のデータから分かったこと」(筑摩書房、樋口直人・松谷満編著)によると、2015年の反安保法制デモに参加した人の76%が反原発デモの経験者だったという調査結果があるという。反安保法制デモでは、若者たちがつくった「SEALDs(シールズ)」が活躍し、反原発デモに参加した人たちを再結集させる触媒になったと指摘される。

WE WANT OUR FUTUREの中心メンバーの一人である会社経営者(34)の女性は「2015年の反安保法制デモ集会の頃、私は大学院生で、SEALDsとは直接関係はなかったが、国会前には行った。国会前に人が集まることは、象徴的な出来事だった」と語る。昨年12月から進めてきた「さようなら自民党政治」の国会前デモ集会を企画するにあたって、念頭にあったようだ。

若者が触媒になって、政治を動かそうとする芽は、こうして少しずつではあるが育まれ、また、引き継がれている。解散総選挙が近いという観測も流れる中、自民党に代わる選択肢はなかなか見えないが、「まずは暴走する車を止めることが先決」と話す女性は、仲間と一緒に次の一手を模索している。

日本では、選挙権が得られる年齢が20歳から18歳に引き下げられたが、加えて若者が立候補しやすい環境が整備されれば、国会前のデモ集会に参加した若者の中からも、手を挙げる人が出てくるのではないか。

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飯竹恒一(いいたけ・こういち)
フリーランス通訳者・翻訳者
朝日新聞社でパリ勤務など国際報道に携わり、英字版の取材記者やデスクも務めた。東京に加え、 岡山、秋田、長野、滋賀でも勤務。その経験を早期退職後、通訳や翻訳に生かしている。全国通訳案内士(英語・フランス語)。



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