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陸上長距離走競技における走速度に関して・・・

現在、持久系アスリートのトレーニングに関する情報提供に力を入れていることから、改めて陸上長距離走競技パフォーマンスに関して様々な視点から考察を重ねています。

当方は、そもそも1990年代後半に筑波大学大学院において持久的走運動時の疲労が運動後半の走速度の切り換えに及ぼす影響(持久的走運動時の疲労がいわゆる”ネガティブスプリット”に及ぼす影響)に関する実験を行い修士課程を修了したので、当時の世界陸上マラソン競技における5km毎のスプリットタイムのデータや当時の日本のエリートランナーの5000m競技からフルマラソン競技までの自己ベスト記録のデータ等を収集しておりましたので、それらのデータも活用しつつ色々と考察を重ねている訳ですが、今更ながら、当たり前といえば当たり前でありながらも改めて気づかされた点もありましたので、今回はそれらをシェアしたいと思います。

●5000m競技の走速度と10000m競技の走速度の関係

1998年頃の日本のエリートランナーの5000m競技のランニングスピード(自己ベスト記録)と同一選手における10000m競技のランニングスピード(自己ベスト記録)を比較すると、下図に示す通り相関関係がみられることが分かります。

このことは、5000m競技パフォーマンスが高い選手は10000m競技パフォーマンスも高いことを示しており、10000m競技パフォーマンスを高める上で5000m競技パフォーマンスを高めることが重要である、更にいえば5000m競技におけるランニングスピードを高めることが重要であるといえる訳です。

●5000m競技の走速度とフルマラソン競技の走速度の関係

ところが、上記と同一選手における5000m競技のランニングスピードとフルマラソン競技のランニングスピード(自己ベスト記録)を比較すると下図の通り相関関係がみられなくなります。

このことから、当時の日本のエリートランナーの殆どが5000m競技でのランニングスピードをフルマラソン競技に活かしきれていない可能性があったと推察される訳です。

●10000m競技の走速度とフルマラソン競技の走速度の関係

更に、10000m競技のランニングスピードとフルマラソン競技のランニングスピードを比較しても下図の通り相関関係はみられません。

これらのことから、当時の日本のエリートランナーの殆どにおいてトラック競技のパフォーマンスがフルマラソン競技のパフォーマンスに直結していないことが推察されるのです。

いい換えると、トラック競技に優れた選手がフルマラソン競技でも良い成績が残せる訳ではない、トラック競技とフルマラソン競技は別物であるとも考えられる訳です。

が、果たしてそれで良いのか・・・?

●日本のフルマラソン競技の低迷原因?

以上は古いデータを用いた考察であることから一概にはいえませんし、世界レベルのランナーとの比較も出来ていませんが、いずれにしても最近の男子フルマラソン競技における世界と日本の差、いい換えれば、最近の日本の男子フルマラソン競技の低迷原因は、トラック競技でのパフォーマンンス(ランニングスピード)をフルマラソン競技パフォーマンスに結び付けられていないことにあるのではないかと推察されます。

確かに、トラック競技とフルマラソン競技はレース条件も含め明らかに相違する競技ですので必ずしもトラック競技パフォーマンスがフルマラソン競技パフォーマンスに直結する訳ではないとも考えられますが、更に高速化が進むといっても過言ではない近年のフルマラソン競技においてはトラック競技のスピードをフルマラソン競技で活かすことが重要ではないかと推察されます。

すなわち、1952年ヘルシンキ五輪で5000m,10000m,フルマラソン3冠という偉業を達成した故エミール・ザトペックのようなスーパーオールラウンダーを目指すべく様々な工夫を重ねていく必要があるのではないかと当方は考えています。(実際にはレーススケジュールの関係も含め現在では長距離競技3冠を達成することは不可能であるともいえますが。。。)

勿論、現場で指導されている陸上競技指導者や選手からの異論、反論はあるかと思いますが、いずれにしても、トラック競技からフルマラソン競技へと如何にパフォーマンスの転移を図るか!?が今後の日本陸上長距離競技界の課題ではないかと考えています。。。

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