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厭な話

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小説。
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#ホラー

怪談『後方確認』

怪談『後方確認』

私が、新居に越してしばらくして気づいたのは、帰り道に使用する新居までの直線の道が、殺人現場であることであった。

五年以上前のことだが、その町のその道で、女子大生が帰宅途中、コンビニで弁当を買った帰り道、背後から追ってきた不良学生に腰を刺され、財布を奪われ、血塗れの状態で我が家にたどり着くも、玄関先で絶命したという事件であった。

彼女は、追いかけられてから刺され、家に辿り着くまで、全力で走って逃

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怪談『壁ドン』

怪談『壁ドン』

「マンションの最上階の、角部屋だったんですけど」

最近引っ越したという澤乃井さんは、ビールを飲み干して、言った。

「南向きで陽当りのいい3LDKで、家内も随分気に入ってたんですが」

半年と経たずうちに澤乃井さんは引っ越してしまったのだ。

「郊外だという以上に家賃は安かったのですが、それでも鉄筋コンクリートのマンションです。それまで住んでいたハイツとは違い、壁だって薄くありませんでした」

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怪談『定点カメラ』

怪談『定点カメラ』

「夜中に突然目が覚めて、そっから眠れなくなることがあるんですけど」

保険の事務をやっている名坂さんは言った。

「そういう時につい、枕元にあるスマフォを見ちゃうんですよね。余計眠れなくなるってことはわかってるのに」

名坂さんは、スマフォを操作して、呟きサイトやアプリのゲームをすることが多いのだという。

「でもその時はちょうど、夏の終わりに沖縄に行った後で」

ふと、夏に友だちと行った旅行先の

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怪談『謎ナビゲート』

怪談『謎ナビゲート』

詳しい駅名や地名などは書かない。

知り合いの芝居を観に行った帰りのことである。

芝居も面白かったし、よく晴れて気持ちも良かったため、劇場の最寄りである小田急線の駅までではなく、北に進んで京王線を超え、更に北の、井の頭線の駅まで歩いて帰ってみることにした。

井の頭線まで歩いて、まだ体力も気力もあるようであれば、更に北上してJR中央線へ向かうのもありかな、と思った。

そこまでいけば自宅まではも

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厭な話『呼び出し』 +後日談

厭な話『呼び出し』 +後日談



「九時くらいです。夜の」

及川さんは細かく何度も頷きながら言った。

「正確ではありませんけれど、大体そのくらいの時間に、家のインターホンが鳴るんです」

及川さんがリビングでテレビを見たり、キッチンでやや遅めの夕飯を食べていたり、お風呂に入っていたりしている時、インターホンは鳴るのだ、という。

「確かに遅い時間ではありますが、そこまで非常識に遅いって程じゃありません。宅配の荷物なんかも

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厭な話『ナオコさん』+後日談

厭な話『ナオコさん』+後日談



「佐野ナオコさんっていうんですけど」

仲本さんは語った。

仲本さんは沖縄県の南西にある小さな島で、賃貸をしている。

「小さな平屋を貸しているってだけで、大家ってほどでもないんですけど」

自分が住んでいる家の他に、二軒の平屋が同じ敷地内にあり、それを人に貸しているという。

2年前、そこの一軒に、東京から来た若い夫婦が住むようになった。

「奥さんが佐野ナオコさんで、旦那さんが、佐野芳

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短編小説『私の自慢の集合ポスト』 後編

短編小説『私の自慢の集合ポスト』 後編



前編はこちら。■

次の日の朝、メイコはバイトに行く前にエントランスの集合ポストを確認してみたが、ご飯粒一つ落ちていなかった。念のため202号室のポストの扉を軽く指で叩いてみたが、中からは何の反応もなく、空のようだった。

バイトから帰ると、マサノブが部屋の真ん中で腹筋をしていた。買ったばかりの黄色と白のラグマットにマサノブから滴り落ちた汗が染み込んでいく。

「今日のご飯は?」

腹筋から

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短編小説『私の自慢の集合ポスト』 前編

短編小説『私の自慢の集合ポスト』 前編

――少しでも、ましになるなら。

メイコは、そんな風に希望を抱いて、引っ越しを決めた。

新しい街で、新しいマンションで、新しい仕事を始めて。全てを新しくすることにより、自分は生まれ変わるのだ。私にはそうする権利があるし、また、そうするべきだ、とも思っていた。

岐阜の山奥の実家で母親と二人で二週間過ごし、顔に巻いた包帯が取れるようになった頃、メイコはスマートフォン一台で新しい家と町を手に入れたの

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