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厭な話

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小説。
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#厭な話

厭な話『ゆびきり 後日談』

厭な話『ゆびきり 後日談』

「と、いう話を聞いたんです」

僕がそう言葉を結ぶと、湊町黒絵(みなとまちくろえ)先輩は「ああ、そう」とつまらなそうに言った。

「ああ、そう、って……。もう少しなんかこう、感情のこもった言葉はないもんですか」

僕は毎度の態度に呆れながらも先ほどまで開いていたメモを鞄に突っ込んで言った。

「偉いっ。さすが君だね! 今日も今日とてぼくなんかのために怖い話を探し蒐めてきてくれて本当にありがとうっ。

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厭な話『ゆびきり』

厭な話『ゆびきり』

「昔から紗香は、子供っぽいところがあって」

藤城さんは、コーヒーをかき混ぜながら言った。

「元々体も弱くて、実家が裕福な家だったんで、お嬢様みたいに育てられて、それがそのまま大人になった、みたいな」

学生の頃から綺麗な物が大好きだった紗香さんは、化粧品会社に就職し、今の旦那さんと知り合い、結婚したという。

「旦那さんもとっても良い人で、紗香の我が侭にもキチンと応えてあげてて。あの子、何でも

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厭な話 『呼びだし 後日談』

厭な話 『呼びだし 後日談』

「と、言う話を聞いたんです」

僕がそう言葉を結ぶと、湊町黒絵(みなとまちくろえ)先輩は、「へぇ」と言った。

「今度は、ヘぇ、だけですか。もっとこう……なんかないものですかね」

僕はたった今語り終えた話のメモが書き付けてあるノートを鞄にしまいながら言った。

「何かないものかと言われてもなあ――へぇ、が不満なら、はぁ、でもいいが」

「対して変わらないですよどちらも」

僕はジョッキに残った生

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厭な話 『呼びだし』

厭な話 『呼びだし』

「九時くらいです。夜の」

及川さんは細かく何度も頷きながら言った。

「正確ではありませんけれど、大体そのくらいの時間に、家のインターホンが鳴るんです」

及川さんがリビングでテレビを見たり、キッチンでやや遅めの夕飯を食べていたり、お風呂に入っていたりしている時、インターホンは鳴るのだ、という。

「確かに遅い時間ではありますが、そこまで非常識に遅いって程じゃありません。宅配の荷物なんかも、二十

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厭な話『ナオコさん 後日談』

厭な話『ナオコさん 後日談』

「と、いう話を聞いたんです」

僕がそう言葉を結ぶと、湊町黒絵(みなとまちくろえ)先輩は、「ふうん」と言った。

「ふうん、って……それだけですか? せっかく先輩が面白がってくれるだろうと思って、持ち帰ってきたのに」

僕は話し終えてカラカラになった喉に生ビールを流し込んだ。

「いや、まあ、なんというか――」

黒絵先輩も生ビールで一度唇を湿らせる。

「――厭な話を、持って帰ってきたものだねえ

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厭な話『ナオコさん』

厭な話『ナオコさん』

「佐野ナオコさんっていうんですけど」

仲本さんは語った。

仲本さんは沖縄県の南西にある小さな島で、賃貸をしている。

「小さな平屋を貸しているってだけで、大家ってほどでもないんですけど」

自分が住んでいる家の他に、二軒の平屋が同じ敷地内にあり、それを人に貸しているという。

2年前、そこの一軒に、東京から来た若い夫婦が住むようになった。

「奥さんが佐野ナオコさんで、旦那さんが、佐野芳文さん

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