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小説版『アヤカシバナシ』うろつく爺

祖父が亡くなった。


真夏の暑い時期、私が高校生の頃だったと思う。

移動だけでも数時間を要する山奥の田舎が祖父の家だが、通夜その他は全てその親族の家で行うことになった。

そこは祖父の家から更に小一時間と言った遠い場所。


冷房を嫌う父親が運転する車は、うんざりするほど暑く、父親以外機嫌が悪く空気も最悪だった。


親戚の家の斜め前に大きなお寺があるという立地、なかなかない設定に少し気分が晴れた。


到着して直ぐに着替え、公民館のような場所にて通夜が行われた。

若いってだけで下足番をさせられた私は、あまり手を合わせる事が出来ず、家に戻ったらしようと思っていた。


通夜が終わり、親戚宅で祖父を偲ぶ通夜、いわゆる二次会のような通夜が行われたのですが、この時住職が帰り際に、線香を絶やしてはいけない、悲しんではいけない、楽しんでお祭りのように笑いなさいと話す。『悲しむと名残惜しくて逝きにくいものなのです、だからおめでとう!いってらっしゃい!』と良い旅を応援するつもりでなさい、というものだった。


これだから説法は面白い。

今の今まで悲しむものだと思っていた通夜への考え方が変わった、高校生にして通夜のなんたるかを知る。


しかし・・・・


線香の番を若いってだけで私が寝ずにすることになった。

祖父とは言え、遺体と一緒に寝るのは心地いいものではなかったので、どうせ眠れないから丁度良いと言えば丁度よかった。


期待するような霊現象もなく朝を迎えた。

人が起き始めたので、私は仮眠を取らせてもらい、2~3時間経っただろうか、住職がやってきた。

火葬は明日なのでお経を読みに来てくれたとの事だ。

眠い目を擦り私も参加した。


心地よいお経のリズムが私の首を上下に振る。

ご機嫌のロックも今はお経には敵わない、無敵のアルファー波だ。


ガラガラッ!


勢いよく親戚宅の古臭い引き戸を引く音がした。

真夏で苛立つくらい暑い日なので、開けっ放しにしていた引き戸。

最初から開いているのに開く音がしたのだ。


反射的に全員が引き戸の方を見た。

まるでプレリードックの群れのように。

そして声を合わせてこう言った。


『じいさん!死んだんだから棺桶もどりなさい』


皆の首が被写体を追うカメラのように動き、真正面、つまり棺桶に向いて止まった。


その数秒後、棺桶から


バタン!


と音がした。


住職が驚いてお経を止める程大きな音だった。


私にはその棺桶の閉まるような音だけしか聞こえなかったけれど、ざっと20人全員が亡くなった祖父を目で追うという、凄まじい光景は今でも忘れられません。

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