【創作小説】扇形家奇譚「食事処 根(ね)」
その日。
私・扇形薫は、かなりぐったりしていた。
「薫ーしっかりおし」
勾玉の付喪神・勾楼が、私の荷物からペットボトルの水を出して飲ませてくれる。
座り込む私を屈んで見ていた勾楼は、立ち上がって背後にある建物を見る。
『食事処 根』
入口の暖簾にはそう書いてある。和風な作りのお店で、扉も引き戸に見えた。
私も、水をしまってからぼんやりと暖簾を眺める。酷くお腹が空いていた。走って疲れたのもあって、あんまり頭が働かない。いつの間にか、追いかけて来ていた人影の群れも消えていた。