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【創作小説】佐和商店怪異集め「ゲーム」

「すみちゃん、最近そのゲームずっとやってるな。どんなゲームなんだ?」
休憩中。事務所にやってきた榊さんが、私のスマホ画面をちらりと覗き見る。
「『脱出!メイプルちゃん』てタイトルで、お化け屋敷から脱出する、うさぎのぬいぐるみのゲームです」
「ゲームでもそんなことやってんの?」
感心したような呆れたような声に、私は苦笑いを返すしかない。そりゃそうだ。
「うさぎがかわいいんですよ。それに、」
時折哀愁も感じるうさぎが、何となく他人事とは思えなくて。
「それに?」
「これは脱出ゲームなんですけど、お化け屋敷とうさぎを自由に着せ替え出来る、別のゲームもあります。そっちも遊んでます」
お化け屋敷の着せ替え、というのも妙な感じだけど。メイプルが可愛いから帳消しだ。榊さんが、ふーん、と唸った。
「脱出ゲームはやってみるか。すみちゃんが絶賛するうさぎ、見てみたい」
「そんなに難しくないので、良いと思います。ただ、」
店でゲームをしていると、最近妙なことになる。
「何よ」
「ここでゲームしてると、倉庫がうるさくなるんですよね。関係あるか分からないんで、ゲームは続けてますけど」
榊さんが噴き出した。
「すみちゃんも強くなったねぇ」
「はい?」
榊さんは私の頭をポンと撫でて、事務所を出て行く。よく分からない。私は、画面へ目を戻す。今日もお化け屋敷を彷徨うメイプルを、導くために。

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