見出し画像

【短編ホラー小説】短夜怪談「歩道橋の下に」

駅へ向かう為、歩道橋を歩いていると、柵の向こうを何かが並行してゆっくりこちらへ向かって来る。それは、頭部が異様に大きい背の高い人間だった。柵の下ギリギリに頭が見える。人間と呼べる背丈や頭では無かったが、人の形だった。固まっていると、それが不意に上を、こちらを向く。魚のような、ぎょろりと濁った目。
「……疾く去ねよ。降るぞ」
低い声でそれだけを言うと、ゆっくりと顔を前に戻し、歩き去って行った。後ろ姿を追うと、車道に足をつけて歩いている。着ているものは袈裟に見えた。それからすぐ、その姿は掻き消えたのだ。この間、車が一台も通らなかったのが不思議だった。そしてまた歩き出したところで、急なゲリラ豪雨に襲われた。あの言葉はこの雨を指していたのかは、分からない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?