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【短編ホラー小説】短夜怪談「コピー」

中学生の頃、親戚のおじさんが突然亡くなった。
家族が無く、私たち家族が事務手続きなどに奔走することとなったのだ。提出する書類が大量に発生し、父の命で近所のコンビニへコピーを取りに行った。何種類もの書類を順調にコピーしていき、最後の一種類。原稿をセットし、無事に出て来た紙には、原稿の上から真っ赤な手形がついている。
「ひっ!」
急いでコピー機の蓋を持ち上げて確認しても、何も無い。恐る恐るコピーし直しても、やはり手形がついている。元の書類にも、手形なんて無い。怖さと訳の分からなさで何も出来なくなり、それらを持って半泣きで家へ引き返した。父に紙を見せながら事情を話すと、そうか、とだけ頷いた。
「斎場に行くぞ」
「何で」
今の今で、正直行きたくない。でも、父が大丈夫、何とかする、と言うので渋々着いて行く。父は斎場に着くなり、おじさんの眠る棺桶へ突進するように向かう。そのまま蓋を開けて、大声で言った。おじさんに顔を向けてるけど、声は空間に向けてるみたいな言い方。
「あんたは死んだんだ!自覚が無いのは仕方ないが、俺の子どもを怖がらせるな!」
がさっ、と私の背後でお線香の束と蝋燭が落ちた。私と父が振り返ってしばらくそれを見てたけど、後は何も無い。父は息を吐き出して、蓋を閉めた。二人でそのお線香を上げ、手を合わせて斎場を出る。
その後。最後の一種類の書類、死亡届は無事コピー出来た。

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