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年末年始だし今のラグビー日本代表の状況を整理しよう(前編)

「誰が呼ばれどう使われたか、本当に覚えてます?」
「そもそも、どんな状況から始まりました?」

2019年、つまり来年に日本でラグビーW杯が開催されます。概ね代表チームというのは「〇〇を出せ!」「依怙贔屓するな!」「采配がダメ」
なんて言われるのはどのスポーツでもよく見る光景。ベテラン選手を使えば「若手を使え」。若手を使えば「まだ早い」。そしてラグビー独特なのは、日本以外にルーツを持つ選手を代表で出せば「日本人を使え!」という少し危なっかしい話に踏み入り常に議論があります。
でも、ここで海外日本問わず考えてみたい。
「誰が呼ばれどう使われたか、本当に覚えてます?」

あの「史上最大の番狂わせ」

 私の周辺の話ですが、ラグビーW杯や日本代表の話を誰かに振ると、まず2015年のW杯、エディーJAPAN南アフリカ戦の話が出てきます。
ラグビーW杯の公式はYouTube等にこの試合の全編を公開していますし、日本開催W杯のプロモーション関連のあちこちにもこの試合のシーンが。

 私の環境だとYouTubeの方は何故か3:33くらいからスタートしていますが、どちらも中身は同じです。これを再生しだすと結局80分間見てしまいます。今ちょうどリーチがトライしたシーン。
"It looks like a skipper Michael Leitch, what a hero!" このすぐ後、お返しとばかりに同じ手法で取り返されるんですけどね。
それにしてもいい実況と解説だ。

 ご存知の通り、日本は1980年代に始まったW杯において1勝しかできていない格下。'minnow'だとか'Tier 2'扱いのチームでした。対して、相手は南半球3強のチーム、当時W杯最高勝率、優勝過去2回の最強チームです。発表された23人のメンバーも「ほぼ」フルメンバーでした。
 

ある時期から「勇敢な桜 (#braveblossoms)」と評されるようになった懸命のプレーを見せる日本代表ですが、格上の国フランス・フィジーなどには善戦し胸躍るも、もっとランクが高いニュージーランド等には圧倒的な差をつけられていました。2015年当時、日本が勝つと想像していた人はごくごく少数であったと思われますし、南アフリカか……という及び腰らしきものは様々な所に見え隠れしました。ラグビーの放送をしていたのはNHK-BS、日本テレビ、JSPORTS系の3つだったと思いますが、唯一の地上波で試合を放送していた日本テレビはリアルタイム中継せず編集映像を後に放映ということをやっておりました。その判断は責められないし致し方ないことです。
 この試合をめぐる賭けの様子を見れば、とある場所でのオッズは南アフリカ1倍、日本34倍だったようですし、それくらいの差想定された相手です。グループリーグを突破する、あるいは目標の3勝を挙げるにしても、その一つが南アフリカになると考えた人がどれくらいいたのか。

いくら他の国に善戦していても、過去ニュージーランドオールブラックスに3桁得点を取られたチームのイメージは強固そのもの。そんな中でいくら選手やHCがチームを仕上げていても、どことないネガティブな何かは自国にすらあり、

「どうせ人気も支持もなく負けるんだから全員日本人にして散ってこい」(大意)

という言説も見た記憶があります。
国籍の話は少し厄介で、さらに昔の代表だととあるスポーツ雑誌が海外出身者を多く選出したエディー以前のHCに対し明確なバッシング特集をしたこともありましたし、今年限りの退任を決めた清宮克幸ヤマハ発動機ジュビロ監督(清宮幸太郎選手のお父様)あたりも「日本人のチーム」という事を言っていたわけです。批判非難はよくあることとはいえ、選手のルーツの話が噛み出すとどこか危うさありますね。本当にそのタイミングでの最高のチームになっているのか、というレベルでも等々。

 選手とルーツの話、この偉業を成し遂げたエディーJAPANはどうだったかと申しますと、
日本人の為のチームを作ると宣言し、 #japanway なる標語も作り
「日本人にはこれしかない!」「日本人のチーム」
といいつつ、裏では「日本人だけというのはナンセンス」と言っており、
 ある試合から

腑抜けてるから海外の選手使い始めるぞ
(大意)

と宣言したことも。実にうまい。
実際2015年のW杯では「逆輸入」小野選手やハーフの松島選手を含めるなら31人中12人がなんらかの海外ルーツを持つ選手でした。
(他、トンプソン・アイブス・ツイ・リーチ・ブロードハースト・ホラニ・マフィ・サウ・ウィング・ヘスケス。当時において国籍が日本なのはアイブス・トンプソン・ツイ・リーチ・ホラニ・小野・松島。その後ブロードハーストも。)
前任のHCを「前任のHCみたいに海外選手をずらっと並べるのか」のように揶揄したことはあったようですが、招集人数自体は大差なく南アフリカ戦には23人のうち先発7人控え2人の合計9人出ています。メンバー発表時点では「生命線」ウィング選手が立川選手のポジションを務め、田村選手はメンバー外ですから当初10人。小野松島はカウント外?そうですか。

そうして戦った南アフリカ戦は、下馬評から批判非難からなにから、オセロがごとくあらゆるマイナスがプラスにひっくり返った勝利でありました。
(ただ、このチームはあちらこちらに無理をさせた産物でもあり、これで負けていたら一体何が起こっていたのかは想像したくありません。
)
今この文章を書いている脇では最後のスクラムが組まれたところ。

反響はあちらこちらに出ました。明らかに負ける前提で原稿を書いていたのにチームが勝ったが故、初版では誤字脱字から表現から何からおかしなことになっていた記事なんてのもありましたし、先述の清宮監督は「日本人少ないと言ったがあれを見て変わった、最強の日本チームを見てみたい」的なことを言っていたりします。

いやー何度見ても立川→マフィ→ヘスケスのトライのところは心躍りますね。"Tatekawa, Mafi, HERE WE GO, HESKETH, KARNE HESKETH!"こんな針孔に糸を通し続けるような試合展開、漫画はまだしもボツ脚本送りです

 初対戦であり格下と奢るところに付け込み、ジェローム・ガルセレフェリーとは事前にセッションを持ち、相手は徹底研究済み。「コンサバティブ」なメンバーで来たが明らかに仕上がりきっていない相手の意表を突くゲーム構成。ほとんど一切ボールを取りこぼさず、体格で負けそうなモールやスクラムで互角に戦い、何度もボールを奪い返す。苦境を迎えるも反則を奪って五郎丸で3点とり追いすがる。最後に相手を一人退場させ、最後の反撃をゆるさない形・時間帯での逆転トライ。どっちがinvictusなんだか。

さて、このラグビーW杯イングランド大会を日本は3勝1敗で終えました。
3勝したのに予選敗退したのは史上初。ベスト8ならず。
サモア戦で勝ち点を余分に取りにいかなかったからだという言説もあるでしょうが、それについての私考えは山下選手のこの一言につきます。


考えられる限りのリソースを後先関係なくつぎ込み、ありとあらゆる方策を尽くし、偉業は残したし歴史も作ったけれど、結果は予選敗退。ある意味でGood Loserで終わった。全てを注ぎ込んだ南アフリカ戦に負けたら地獄だったかもしれませんが、偉業成し遂げた先のさらにその先の大きな壁に跳ね返された形。勝ったら勝ったで修羅の道が待ち受けていたのです。

ポストエディーの大変さ

 つまるところ、あれだけやっても決勝トーナメントに行けなかったのに2019年は自国開催、リソースも尽きているのに残り4年しかないぞという状況です。選手も高齢だったり「様々な事情」もあって、明らかにこの大会がキリだろうという選手が沢山いました。
 ロックというポジションを例に見てみますと、早々に代表引退宣言したのが3大会連続出場の「救世主」トンプソン選手当時34歳(現役、その後ある試合で1週間だけ代表に復帰した)。同ポジション、大野選手当時37歳(現役)。伊藤選手35歳(引退)。アイブス選手31歳(引退)。一番若い真壁選手28歳(現役、代表候補)。
他、フッカー湯原選手31歳(現役)。右プロップ畠山選手30歳(現役)。ルースフォワードホラニ選手34歳(現役)。スクラムハーフ田中選手30歳(現役、代表候補)。フライハーフ(スタンドオフ)廣瀬選手34歳同年引退。この次があるんだろうか……と言っていたのがフルバック五郎丸選手29歳(現役)。明らかにこれが最初で最後だったろうセンターのウィング選手36歳。2016年に神戸製鋼を退団。
平均年齢は29歳弱、そしてあくまでこれらは「当時の年齢」なので2019年には+4歳されます。2015年を支えた選手は間違いなく当時のトップ選手でありましたが、それがごっそりと抜けることはわかっていたわけです
更に、勝ったが故日本代表は強制的にマークされる対象になってしまった。マークされるから弱者の戦法戦略は絶対に使えない。簡単にアップセットをさせてもらえなくなった。ランクが下の国々に狙われることにもなります。
そして、エディー指揮官自らが戦法や強化法において「何か違うやり方が要る」と認めた。

人は減る、マークはされる、同じ強化法は使えない、この戦法は行き詰ったとエディー自身が認める。2015年大会では開催国イングランドがグループリーグ敗退したおかげで、もし仮にに強化が間に合わず、2019年大会で日本がグループリーグ敗退しても最初の事例になることは無い、というのはいささか黒い言い方ではありますが、日本の実力や置かれている状況を踏まえれば頭によぎる話です。端的に言って

史上初の3勝やったねよかったね なんて言ってられない状況

それが2015年のW杯が終わったタイミングでわかっていたことでした。
じじつ、日本が対戦したチームがW杯でその後どうなったか。
日本戦以降急激に調子を上げた南アフリカは凄まじく強く、
スコットランドは決勝に残ったオーストラリアに「誤審」で競り負け、
そのスコットランドをサモアは追い詰めました。
そして、2019年もサモアとスコットランドが日本と同組にいます。

……これらの状況に正面から立ち向かうなら、円熟している世代の力を借りつつ、若手含め裾野も巻き込んで全体が強くなるしか無いですよね。
ただ朗報として、勝ったが故、そして2019年W杯という大義名分の元、格上と試合を組ませてもらう権利は与えられた。それに乗っかり正々堂々と公開で強化すればいいわけですが。その機会自体を誰に与えるか、そして機会をどう増やすかとなります。(あと本番を考えれば奥の手をどう準備するか)

スーパーラグビーに準日本代表が参戦!

気づいたらとても長くなっていたので記事を二つ以上にわけることにしましたが、サンウルブズの事だけはここに書いておかねばなりません。

エディー体制が最後に残したものに、日本代表に関係する選手で作るチームで最高強度の試合が繰り広げられるスーパーラグビーに参戦する機会ということがあげられます。非常にレベルの高いラグビーに挑むことで代表選手のコンスタントな強化システムを作り上げる……というもので、同様の思想でもってアルゼンチンのチームも参戦しました。
ただ、これは2015年当時、一時空中分解しかけていました。エディー下で生活も何もかも犠牲にして代表にコミットし、その下でさんざん管理されている状況下、「新しいチームをSuper Rugbyに作るぞ!俺がディレクターな!」となったときの選手の心境たるや。そのままチームが発足するのかしないのかはっきりせず、また誰が参加するのかという事も固まらず。

結局参戦は確定しメンバーもある程度入って事なきを得たのですが、並行して代表監督どうするかということが宙ぶらりんになりました。これは結果どうなったかというと、2016年秋からジェイミー・ジョセフHCが指揮をとり、それまでサンウルブズのマーク・ハメットHCが代理で指揮をとるという形になりました。理由としてはジョセフHCにスーパーラグビーのチームであるハイランダーズの指揮官としての契約が残っているため、それが終わるまでは指揮をとれないという話。統一した形での日本代表チームのスタートがこの時点で半年以上遅れており、すでに時間的なハンデがある中ジョセフHCが引き受けたというのはありがたい話であります。
……そもそも宙に浮かんだ後準備期間も短い寄せ集めのチームのヘッドコーチを務めてくれた上に、どうせ後で別のコーチがつくことになる日本代表の指揮まで執ってくれたハメットHCには頭があがりません。そして同じく2年目、総指揮的なポジションで選手のマネジメントをジョセフHCが行いつつ、サンウルブズの現場指揮は1年目にも参加していたティアティアHCが務めるという変則体制を請け負ってくれたティアティアHCには頭が上がりません。

ただ、いろいろあった経緯はさておいて、このサンウルブズというシステムが日本代表候補の強化に使われてきたことは事実です。
……これも初年度からとはいかず、どちらかというと2年目からという注釈をつける人もいるかもしれない。
そして、サンウルブズと並行し、National Development Squad 略称NDSというシステムが作られ、NDS選手による合宿が定期的に行われるようになります。サンウルブズ/代表の選手のコンディショニングや育成、また若手の発掘育成といった非常に幅広い代表候補選定の場です。2017年のNDSは若手発掘とサンウルブズ選手の準備、2018年のNDSは候補選手に付加価値をつけ指揮官にチョイスとして提供する形式で、2019年のNDSは恐らく「W杯本番候補の一段下でのトレーニング」くらいでしょうか。

……ここまで長々と書きましたが、代表の強化・選定という観点でいえば、混乱期であった2016年サンウルブズ+6月代表戦周辺をみるよりも、2016年秋からサンウルブズや代表の試合・合宿、NDSに誰が呼ばれていたのかを追いかけるのが筋になるでしょう。ただ、それを網羅し一覧できるデータというのは私が知る限りありませんでしたし、そういうデータの把握なしに「誰誰を使え!」「誰は使えない!」「育成!」「ベテラン!」と言い出すのも何かが違う気がしたのです。

という事で9日前ぐらいに……

とりあえずいったんマージしたデータを作って、軽く色づけでもしてみようか、とやったわけです。ツイートでいろいろ書くのも限界があるので、ひとまずnoteを開設したまでです。

本表自体はTwitterに上げていますが、ここではそれをまとめるイメージで。
(前編了)

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