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内なる美

このニューヨークという街はファッション産業の中心でもあります。

おしゃれなファッショニスタが集うエリアに行くと、彼らはユニークな個性の表現と流行を交えて颯爽と歩いている姿を見せてくれます。
そんな彼らの堂々とした立ち振る舞いを見るのはとても刺激的です。

その一方でここ大都会のニューヨークでは電車の中、公園、道端にはたくさんのホームレス達が存在します。
私が長年ニューヨークに住んで学んだ事の一つは、ここニューヨークのホームレスたちの個性。
ホームレスといえば、ただゴミを漁り、物乞いをしているイメージがあると思うのですが、私が出会い、おしゃべりをして楽しい時間を過ごしたホームレスたちはいつも私をハッとさせてくれました。

今回はニューヨークに15年以上住んできた私に、今でも印象を強く残すホームレスのおじさん達のエピソードを綴ってみます。


<近所の公園のベンチにいるおじさん>

この記事を書いた前日、私は息子と犬を連れて毎朝の散歩に出かけました。
散歩のルートはいつも同じで、家から一番近くにある公園に行きます。
公園の中の子供達が集うプレイグラウンドに犬は入れないので、犬を連れている時は公園の外部にあるベンチやテーブルが設置してある広場に行きます。
そこのベンチに登ったり降りたりするのが息子は大好きで毎朝そこで犬と一緒に息子はいろんなベンチを登って降りてを繰り返し遊んでいます。

毎朝その広場にはホームレスの人たちがいるのですが、息子は1人のホームレスのおじさんが座っているベンチに何度も登って近くに寄ってはきゃっきゃとはしゃぐのです。
息子は普段、人の多い場所は避けて通るほど人見知りなのにも関わらず。

コロナのニュースか耐えないこの世の中…。
息子からおじさんが病気に感染してしまったら申し訳ないので、その都度息子を抱き抱えsorry..といってベンチから下ろしていました。
それでもまた、そのベンチに掛けて行きよじ登り、おじさんの近くによってはきゃっきゃっと飛び跳ねる息子….。

おじさんは笑って息子に手を振りながら
『ハーイ! It’s OK.』
といってくれていました。

息子は今まで風邪らしい風邪をひいたことがなく、私がどんなにひどい風邪をひいても風邪をひきません。
風邪が原因で食欲が落ちたり、嘔吐したり、お腹を下したことも一度もない息子。
ホームレスのおじさんは普段栄養があるものをしっかり食べれているわけでもない..。
ニューヨークの朝の気温は毎朝8度と冷え込んでる..。
息子から何か病気を免疫や抵抗力が弱ってるかもしれないおじさんに感染させてしまったらシャレにならない!

日本語で息子に

『今はおじさんが病気になったら大変です!
ルーちゃん近くに行きすぎです。』

と何度も言い聞かせていたのです。

そうすると、そのおじさんが
『日本人?』
と私に尋ねてきたので、
『そうだけど、なんでわかったの?!』
と私はびっくりして尋ね返しました。

海外に住んでいる日本人はよく感じていると思いますが、海外では私たちアジア人を中国人、韓国人、日本人というふうに区別できる人は数少ないのです。
アジア人は全員、中国人と一括りにされることも珍しくありません。
私は驚きました。

驚いている私におじさんが、
『言葉のセンテンスの最後に”です”、”ます”が付いてたから日本人って分かったんだよ。』
と言って笑ったのです。

『俺にも姪っ子が4人いるから。
子供は大好きだ。
この子の好きにさせてやればいいじゃないか。
それにしても、最近この辺であんまり日本人見かけなくなったんじゃない?』

とおじさんが言ってきたのです。

そして、おじさんは

『フラッシング(ニューヨークの郊外にある巨大な中国人街と韓国人街があるエリア)にドクターの診察によく行くけど、あそこでも日本人はあんまり見かけないよね。
日本人ってのはなぜか特定のエリアにみんな住み付かないよね。
その代わり、ニューヨークの郊外や地方に行っても、必ず少ないけど日本人がいるんだよなぁー。
いろんなコミュニティの中に、日本人って絶対いるんだよなぁー。』

と笑いながら言っていました。

(何でこのおじさんは、ニューヨークに住む日本人の特徴をここまで把握してるんだろうかぁ….?)
世間話をしながら私は感心していました。

もう一つ、会話をしていて私が感じたのは、おじさんにはシッカリした”教養”があるということです。
普通英語を話すアメリカ人が、自分の第一国語でもないアジアの外国語のセンテンスの特徴なんて知ってるわけがないです。笑
そして、そのおじさんの話す英語はとても文法的にも綺麗でわかりやすく、まるで学校の先生のようにインテリジェンスだったのです。


<用心棒で雇われていたホームレスのおじさん>

2002年くらいだったと思います。
私がとあるcafe’でウェイトレスをしていた時に仲良くなったホームレスのおじさんがいました。
cafe’の閉店時間か近くなると、ウィエトレスの私は接客をしながら、お店の掃除やゴミ出しもしなければいけません。
業務用のゴミ袋は巨大でそれがパンパンになっているので私の体とさほど変わらない大きさのゴミ袋を抱え、私はお店のドアを開いて外に出しに行っていました。

ある日、ゴミ袋を抱えてドアを開こうしたら、ホームレスのおじさんがドアを開けてくれたのですが、
その瞬間にお金を催促されては困るので、私は
『ヘルプは必要ないです。自分でできるから!』
と言い放ったのですが、その瞬間そのおじさんは
『チップなんて催促しないから安心しろ!』
って言って笑いながらゴミ出しを手伝ってくれたのです。
なぜかそのおじさんは私が当時働いていたcafe’のオーナーご夫婦とも仲良しでした。
おじさんは私が働いていたcafe’の隣にある、メキシカン料理のレストランの出入り口にいつも立っていました。

それからというもの、そのおじさんは毎回私のゴミ出しを手伝ってくれたのです。
『今日は忙しかった。』だとか、『こんな客がいてムカついた。』とか若かった頃の私の愚痴を毎回聞いてくれて、いつの間にか、おじさんは私の大切なおしゃべり相手になっていました。笑
『そういったタイプの客には、もっとこんな風に接客すればチップをはずんでくれるよ!』と心理学者のようにおじさんはユーモアを交えながら的確なアドバイスをくれるのです。
その頃の私にとっておじさんは『なんでも知っている人』。

ある時、私はおじさんと、アメリカの国の政治と国民性、日本の政治と国民性について話していました。

当時のアメリカの大統領はブッシュ(ジュニアの方)大統領。
日本は小渕首相が亡くなってコロコロと短期間で首相が入れ替わっていた時期です。

色んなことを話し終えて、おじさんは締めくくりました。

*『お前の国の前の首相は過労死で死んだな。
その時俺の国の大統領はモニカと(FxxK)していたんだ。
これが日本人とアメリカ人の分かりやすい違いだな!
よく覚えとけよ!
キャァーハッハッ!』
と爆笑しながら私の肩を叩きまくていました。笑

*(小渕前首相が亡くなった時のアメリカの大統領はビルクリントン氏。クリントン前大統領はモニカルインスキーというホワイトハウスの実習生との不倫スキャンダルで辞任に追われました。)


本当に毎日仕事に行く度におしゃべりしていたおじさん。

(おじさんって一体何者?絶対只者じゃないな..)
と当時20代前半の世間知らずの私はいつも感じていました。

そして、オーナーご夫婦のアメリカ人の旦那さんがある日私に教えてくれたのです。

”おじさんは隣のメキシコ料理レストランのオーナーさんの古い知人で、食い逃げする客がいないか常に見張るために雇われている。”

彼は毎日お給料をもらっていたらしいので、家はあるのかもしれないし、その日暮らしを選んでホームレスをしていたのかもしれない…..。
その真実は未だに謎で、当時のおじさんの素性を知る人は誰もいませんでした。

今回この記事を書いたのは昨日の朝、公園でおしゃべりしたおじさんと話した後、一気に今まで出会ってきた面白いホームレスの人たちの記憶が蘇ってきたからです。
ここに書いた以外にも、『電車の中で落語家並みの話術でチップを稼ぎまくるおじさん』とか『足があるのにわざとないようにして退役軍人を装い同情でチップを稼いでるおじさん』など、数え切れないほどユニークで個性的なホームレスの人たちに出会ってきました。
(その一方でこの記事を読んでいる人に注意していただきたいのは、みんながみんなニューヨークのホームレスが明るくて、フレンドリーなわけではないということ。ドラッグ中毒で目を合わせるのでさえ危険な人や、本当に生きるか死ぬかの瀬戸際で苦しんでいる人たちもたくさんいます。
ニューヨークに滞在予定の方はくれぐれも注意してくださいね。)

今まで自分の記憶に鮮明に残っているホームレスのおじさん達と思いっきり会話を楽しんだ後、私はいつも(わぁ〜、やられた!)と感動の衝撃を毎回食らわされてきました。
そしてたくさんの学びを私にもたらし、インスパイアしてくれるのです。

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人の外見に惑わされてはいけない。

きちんとした人の中身を見抜けるような力を自分もしっかり培わなければいけない。

外見や人生のステイタスはかっこよくても、知識や教養が貧しい人たちなんてこの世に溢れている。

ホームレスである彼らの方が実は私なんかよりももっと豊かに人生を味わう方法を知っているじゃないか?


きっとそれぞれのおじさん達には一言では言い表すことのできない複雑な事情があり、世間の人達とは違うライフスタイルを送っているのだと思います。
けれども彼らの人生で培ってきた知性や教養、人間の美学はどんなに衣食住のカタチが変わったとしても、色褪せないのです。
むしろ私の心にはそのおじさん達の方が、常識の中で苦しんで生きている人達よりも、まっすぐでとても綺麗な人達に映ってしまうのです。

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