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「おいしさ」の大半は「匂い」で決まるという事実(前編)

人間は栄養を摂るために食べ物を食べるわけですが、その時においしいとかおいしくないとか感じたりします。多くの人はそれを舌で判別していると思っていますが、実は全くの誤解なのですね。それはどういうことなのか。
今回は人間が感じている「味」の真実についてのお話です。


「風味」とも表現される食べ物の「味」

 人間は食べ物を味わうとき、舌で感じる味のほかにも実にたくさんの情報が関係しています。
 そして人間が味を感じるに当たっては、舌による「味覚」の重要度は思っているほど高くはなく、実際には鼻で感じる「匂い」が味の大半を決めているというこことが、科学的に分かっています。
 にわかには理解しづらいと思いますが、今回はその驚きの真実を詳しく解説します。「味わう」ことの認識が変わりますので、食に興味のある人には是非とも読んでもらいたいと思う次第です。(手前味噌)
 
 食べ物の味を決めているものとしては、風味(フレーバー)と食感(テクスチャー)の2つが大きな要素といわれています。その中の食感や、それ以外の諸要素については改めて書くこととして、ここでは風味に絞ってお話をします。
 
 「風味」とは、「味」と「匂い」を合わせたものと考えていいでしょう。
 舌のセンサーで感じた味の情報は、神経を通して脳に送られます。一方匂いの情報は鼻のセンサーで感じて脳に送られます。
 
 ここからが重要なのですが、脳に送られた味の信号と匂いの信号は、ひとつに統合されて処理されるのです。つまり、私たちは味覚情報と嗅覚情報が脳内で「合体」したものを、「味」として認識しているというのです。それをほとんどの人が、舌だけで感じているものと思い込んでいるのですね。
 

口の奥から感じる匂いがある

 さらに話を進めると、匂いには「鼻先香」と「口中香」があります。鼻先香は鼻から入ってくる匂いであり、口中香は、口の奥から鼻へと届けられる匂いです。これはアフターフレーバーや、あと香、戻り香などとも表現されます。
 
 それらを踏まえて整理すると、食べ物の味を感じるまでの流れは、まず口元に持ってきたときのファーストコンタクトとして「鼻先香」を感じます(これは匂いと認識します)。
 次に口の中に入れてからは舌で「味」を感じます。
 そして何度も咀嚼することによって口の中に匂いが充満し、それが口の奥から鼻へと流れていきます。
 人間の匂いセンサーは鼻の奥の天井部にあるので、「口中香」もキャッチしやすくなっています。また、食べ物が口内の体温で温められるのも、匂い物質が立ち上がる重要な要素となっています。

単純な味覚と複雑な嗅覚

 舌で感じる味覚は、甘味、塩味、苦味、酸味、うま味の5種類であり、ごく単純な検知システムでもって、主にその強弱を認識しているにすぎません。(ついでにいえば、辛味や渋みは味ではなく感覚に分類されます。)
 
 これに対して嗅覚は、味覚とは比べものにならないほど複雑な仕組みのセンサーを持ち、無限ともいわれるほど多種多様な匂いを嗅ぎ分けています。
  味を感知する受容体(レセプター)は5味合わせても30種ほどしかないのに対し、匂いの受容体は約400種あるといわれています。
 そして匂いは400種の受容体信号の組み合わせとして処理されるので、理論的には何万とも何十万ともいわれる匂いをかぎ分けることができるのだそうです。

「口中香」こそが味の決め手

 つまり味にはまず舌で感じる5味の情報がありますが、それに極めて多くの匂い情報が合体されて、複雑なニュアンスを感じ取っているのです。ですから人間が感じている味の大半は匂いであり、中でも口中香が重要な要素となっていることを理解しなければなりません。研究者によっては味の8、9割が匂いによるという人もいるほどなのです。
 鼻をつまんで物を食べると、味がよくわからなくなるのは、口中香が鼻に届きにくくなるためなのですね。
 
 ラーメン店では、丼に「香味油」が必ず入れられ、そこに投入したスープの温度によって、匂い物質が盛んに立ち上がっている状態でお客さんの元へと運ばれます。ラーメン店の店主は、味における匂いの重要性をよく理解しているはずです。
 
 このようにして、私たちは味覚と嗅覚を使って、「おいしい」と感じたりするのですが、実は食べ物にこれほど複雑なニュアンスを味わっているのは、人間だけなのだそうです。それは、動物と人間との「のど」の構造の違いからくるのですが、その辺りを後編では詳しくお話ししたいと思います。

(#010  2023.11)

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