大学生パロのようなもの。_第三話

蔵未と沢霧、その他人物たちによる大学生パロ。三話目です。

一話目はこちら→ https://note.com/sugar_lump/n/nbc3607cffca9
二話目はこちら→ https://note.com/sugar_lump/n/na3fbb3290914

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 こうやって開き直ること自体褒められたものじゃないのだろうが、俺はすこぶる性格が悪い。だから俺に親身な態度を期待するのは馬鹿げている。もし俺だったら深刻な苦悩を、よりにもよって俺に話そうとは全く思わないけれど、なぜだか人は相談してくる。世の人はよほど見る目がないのか。それとも案外、心に寄り添った対応なんてみんな望んでいないのかもしれない。
 とはいえ今回は事情が違う。彼が俺に電話をかけるのは至極当然のなりゆきだ。なぜなら彼が知っている〝兄の交友関係〟は俺くらいしかいない上に、その〝兄〟は俺と彼との繋がりを(多分、)知らないから。
「遅くなってごめん」
 指定されたファストフード店の一角にすでに座していた彼を、探し当て、そう声をかける。彼は、店内というのにフードを被ったまま、長い前髪の隙間からちらりと顔を確かめてきたが、俺と分かると首を振ってフードを落とした。
「呼び立ててすみません」
 向かいに座り、俺も首を振る。さっき見たばかりの顔が今も俺の正面にある——と言ってもよく見れば細部は異なり、そもそも彼のほうが幼い。ほんの少しの歳の差であれ、やはり成人と未成年とでは印象が違ってくる。それに彼はヤツと違って薄ら笑いを浮かべたりしないし、胡散臭いほど完璧な服装に身を包んでもいない。古着めいたパーカーとジーンズ、擦り切れたスニーカー。だが彼のほうがよほど魅力的だ。少なくとも俺の目には。
「久しぶり、要くん。元気だった?」
「はい」金髪碧眼の彼は、軽く頷いてからレジのほうを見た。「頼んできますか」
「あ、そうするかな。ちょっと行ってくる」
「俺いきますよ」
「いいよ、メニュー決めてないし」
「そうですか。じゃあ、すみません」
 荷物の見張りを頼み、携帯だけ持って席を立つ。ちょうど昼飯の頃合いだ。サラダを頼むか迷いつつ列の最後尾につくが、しばらくは悩む時間がありそうだった。メニューを映すモニターを見上げ新商品をチェックしながら、しかし考えるのは彼のことだ。鷲巣要(よう)、——十八歳。彼は佑の、実の弟だ。
 二人の苗字が違うのには少々複雑な事情がある。簡単にいえば彼らは孤児で、別々の家に引き取られたのだが、互いに今に至るまで連絡を取り合っている。兄弟同士は仲がいいけれど、鷲巣家が一般的で健全な家庭であるのに対し、鷹見家のほうはどうもそうではない。詳しいことは俺も知らない。要くんもよく知らないから。
 そもそも佑が自分の話を他人にするとは思えない。彼にとって情報は得るものであり、与えるものではない。パーソナルなことを知られれば、いつかはそれを利用されると固く信じているらしく、また実際彼の周りにはそういう輩がウヨウヨいるんだろう。彼本人もそうなのだから、さして同情はしないけど。というより自分がそうだから、他人も同じに見えるんじゃないのか? そう考えると自業自得だ。
 ともかく、仲のいい弟のことを彼がひた隠しにしてるのは、他人に知られれば利用されうる「弱味」だからだ。裏を返せば、要くんはそれだけ大事な存在だってことだ。佑にそんな相手がいるとはちょっと意外だった。人並みの情があるようには見えない。
 要くんにしてみても佑は唯一の肉親で、ただ一人の大事な兄である。見た目のおっかなさと裏腹に善良な少年の彼は、兄が危なっかしくてしょうがなく、折に触れ案じている。しかし当の兄は事態が深刻であればあるほど頼ろうとしない。互いに勘のいい兄弟な彼らは、相手の些細な変化から敏感にそれらを察知する。探られていることも、探られると困る腹があることも。
「お待たせ」ようやく品を受け取り、俺は彼の待つ席へ戻った。
「いえ。ってか、奢りますよ。俺が呼んだんで」
「いいよ。高校生にメシ奢らせる大学生はどうかしてる」
「でも、俺が頼ってるわけで」
「気にしなくていいから。どうしたの? 急に」
 訊くと、要くんは視線を逸らし、炭酸飲料を口に含んだ。ややあって呟く。
「兄貴のことで、ちょっと。……あのひと、最近、なにかありました?」


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