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【読書記録】ラミア虐殺/黒と愛(飛鳥部勝則)

本格長編推理です(本格長編推理……何だよなあ、悔しい)。

作品はめちゃくちゃ面白くてオススメしたいのですが、お値段が全然面白くない(黒と愛16,000円超えかあ……)。いつか紙の本でほしいな……。

ラミア虐殺

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「僕は自分が犯人ではないことを知っている。つまり殺人鬼は他の、誰かだ。それを突きとめられないなら、全部殺してしまえばいい。その方が、自分が殺られるよりは、はるかにいい。疑わしきは、罰せよです」吹雪の山荘で起こった連続殺人。残された謎のメッセージカード。犯人を探そうとしない滞在者たち。ここには、人倫も尊厳もなかった。殺すか、殺されるか。その二つだけがあった。極上にして凶悪。鬼才渾身の「背徳の本格」、出現。(Amazonページより引用)

主人公である探偵・杉崎はクリスマスの日の朝、家の外に北条美夜という大人にしては小柄な女を見つける。彼女の依頼で、美夜の実家へボディーガードを兼ねて同行することに。北条家はまさに吹雪の山荘という立地にあり、その中で連続殺人事件が起きる。館に滞在しているのは食えない人物ばかり、激しい吹雪で館から脱出することは不可能。

それはそれとして、世紀末が終わり新世紀が訪れた日本では、いわく怪物、怪獣、UMAがどこかしこで目撃されていた――。

私「ンンンンン??????(困惑)」

正確に言うならば、UMAの目撃談が諸正規の冒頭(序章)で描かれ、第一章で杉崎と美夜の出会いが描かれるという順番です。読者である私は序章を読み、頭に叩き込んだ上で、別に怪物が出てくるわけでもなく一見ハードボイルドな探偵・杉崎の行動を追っていく――わけなのですが、端々になんだか不穏な空気が漂うのです。

ああ、これは長編本格推理なのではないのだな、これは、あれだ、やばい作品だ(怪奇ミステリ、SFミステリ、特殊設定ミステリの類なのか)、と読んでいる私は頭の中で思います。(※本の表紙に「長編本格推理」って書いてある)

主人公の杉崎は、たまたま偶然美夜の親・北条秋夫と過去に因縁があり、また彼は傭兵上がりで探偵をしているという癖のある経歴。そんな物語の設定も、「特殊やなあ」と思わせられます。
小気味よいテンポでガンガン人が死んでいき、そこらへんの推理小説のように途中途中で推理が挟まらないのも、またそんな思いを加速させます。
そして終盤のあの展開。

しかし、最後まで読み通して思うのですが、この作品はやっぱり長編本格推理なのです。

黒と愛

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奇妙に傾く狂気の城、奇傾城――血と内臓と腐肉が主題の絵画が集う一室に幽霊が出没する噂がたち、「探偵」亜久は心霊特番に協力して城を訪れる。遅れて「霊能リポーター」役の女子高生、全身黒服の少女・黒が現れ、亜久にそっと囁いた。「あなたは、鋏が好きですか」……やがて密室状況で、黒と親しい男がくだんの部屋で首を切断された。これは幽霊の凶行か? 呪わしく美しい純愛(変愛)本格ミステリ(Amazonページより引用)

いや~~~~~~~~~~~~~~~……めっちゃくちゃよかった……。
並べて感想を書いているように、この作品は「ラミア虐殺」を読んでから読んだほうがぜっっったいに面白いです。単体で読んでもいいと思うのですが、単体で読むと「なんだこのトンチキさは」となってしまって良さに感情が到着しない気がします。

ある日、ゴミのように汚い少女に出会った男。少女は「海が見たい」と言い、男は少女を海に連れて行く。そしてそのまま少女は男の腕の中で息絶えてしまう。その時見た少女の体は……

まさにラミア虐殺の第一章の杉崎と美夜の出会いを思い出すような始まり。少女の体への言及も、ラミア虐殺を思い出してします。

そこから物語の視点は変わり、テレビの心霊番組のためのロケハンで奇傾城と呼ばれる曰く付きのスポットを訪れる人々の物語が描かれていきます。その中でも中心となるのが、「示門黒」という霊能リポーター役の女子高生です。彼女は、ゴシック趣味というか残酷趣味というか、名前の通り「黒」いものが好きで、芸術から文学、はたまた制服まで趣味は真っ黒。そんな彼女の独特な雰囲気は、男も女も魅入らせてしまいます。
「探偵」亜久が主人公のように思われる序盤から、章が変わると視点の変わる物語と、それに伴って読者が理解していく「黒」をめぐる物語は、推理小説というよりは幻想文学、怪奇文学のよう。

しかし――しかしですね。奇傾城の持ち主は、北条夏夫。んん???北条??ラミア虐殺の美夜の父は、北条秋夫。これは、これは……。

奇妙に傾く狂気の城・奇傾城、奇妙な4つの部屋、幽霊画、人形、フリークス、見世物、ブランコ、復員兵の幽霊、幽霊殺人(自殺?)、要素要素も幻想・怪奇・そしてゴシック愛好者としてはキュンキュンしてしまうものばかり。
特に第二幕~第三幕で描かれる「亡霊園 上下」では、黒の通う学校のっしょである康彦が示門黒に出会い、彼女への想いのせいで狂気じみた行為に走る様子はなんとも気持ちが悪く、それでいて面白いのです。

「なるほど、このミステリというのは、ホラー小説における怪異の解明なのだな」と思いながらページを進めるとやってくるカタストロフィは、まさに物語ジャンルを崩すような読書の会館に満ちまくっています。(物語のカタストロフィという言葉を使うことがためらわれてしまう作品ではありますが)

推理小説的な面白さもありながら、なによりもこの示門黒という、全然理解が出来なかった少女が、ページを進めていくうちに他の登場人物のように彼女に魅了され、魅了されていたかと思ったらいつの間にか彼女に感情移入してしまうのです。「こんな女子高生いねーよ!」という知識と雰囲気を持ちながらもどこか等身大で、なんだかチグハグで、大人びているのに幼さも感じるような、そんな彼女のことが大好きになってしまうのです。

まさに「呪われた美しい純愛(変愛)ミステリ」。この純愛(変愛)は、探偵・亜久から黒に、首を切られて殺されたTVディレクター蒲生から黒に、支所の康彦から黒に、そして私達から黒に、向けられる愛。

そしてどういうわけか、こんなにもカオスで、本格ミステリで、怪奇ミステリで、要素モリモリひっちゃかめっちゃか展開なのに、こんなに爽やかに青春ミステリみたいに終わるんだろう。

私はこんなにとっちらかった話が美しく終わるなんて思わなかった。これは絶対的に示門黒の物語。


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