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「自分がどう生きていきたいか?」という問いの中に、仕事も子育てもあった【#男性育休 インタビュー】

今回から、育休を取った男性への不定期インタビュー連載をはじめます。

これまで、フリーランスで働きながら子育てしている女性へのインタビューを通じて、キャリアと育児の両立を探ってきました。
でも、いろんなお話を伺っていると、ともに育児と向き合うパートナーの存在は無視できないと感じます。もし夫婦という単位で子育てをしているのなら、夫の協力は大きなカギ。この4月には改正育児介護休業法も施行され、男性の育児参加は、これからさらにスタンダードになっていくのでしょう。

なのに、男性の育児参加というと「妻が夫をイクメンに育てる」「夫も育児をしっかり手伝う」といったトーンのコンテンツが多く、個人的にはめちゃくちゃ違和感があります。夫を育てるのは妻のタスクじゃないし、そもそも、もっと主体的かつフラットに育児をしている男性は、すでにたくさんいると思うからです。

そこで考えたのが、この連載でした。
育休を取得し、キャリアと育児の両立を踏み出した男性にお話を伺うなかで、彼らのリアルが見えてきたら。男性目線の「子育て」が、伝えられたら。後に続く方々の道を明るく照らすのではないかなぁと、思っています。

第一回にご登場いただいたのは、株式会社メルカリで働く西丸亮さん。コロナ禍と結婚を機に地元・福島県にUターンされ、第一子となる息子さんを授かりました。育休に至るまでの経緯や、育休中にしていたこと、考えたことを伺います。

はじめて我が子を抱いた瞬間

妻の気持ちを想像して、とにかく伴走した妊娠期

――まず、西丸さんご夫婦の簡単なプロフィールを伺いたいです。

僕と妻は同い年で、二人とも福島県いわき市の出身です。出会った頃は僕が東京、彼女は福島に住んでいたため、しばらく遠距離恋愛を経て、婚約。そこでコロナの感染が拡大しはじめて……完全リモートワークに切り替わった結果、東京にいる必要性がなくなり、福島に帰ることを検討しはじめました。(当時の)会社のマネージャーも背中を押してくれて、2020年5月に東京と福島を行ったり来たりする日々がはじまり、その年の10月には完全移住。お互いに32歳のときでした。

――そのタイミングでは、子どもについてはどう考えていましたか?

遠距離だったから二人で過ごした時間があまり多くなかったし、それこそ新婚旅行にも行けていなかったので、最初は「授かったら授かったでうれしいし、しばらくは二人のままでも楽しいね」くらいのテンションでした。ただ、年齢を重ねれば不妊のリスクは高まるし、二人の時間を過ごすことは、子育てが落ち着いてからでもきっとできる。自然と「妊娠・出産は早いに越したことはないだろうね」という話になっていきました。

――そして、めでたくご懐妊。妊娠中に、なにか心がけていたことはありますか?

とにかく妻と伴走するようにしていました。たとえば、ベビーグッズやマタニティ用品を買うとき、相手に任せきりにしない。妻は情報を集めることが得意だから、必要なものやスペックなんかをリスト化するところまでは、楽しんでやってくれるんです。でも、「これとこれは何が違うんだろう」「何をいくつ買う?」みたいな比較検討や、最終的な意思決定は、二人で。そうすると、あとから「なんでこれ買ったの?」って失礼な質問が出るようなこともありません。二人で決めることをできる限り楽しむ、みたいな感じですね。当たり前ですが知らないことばかりなので、日々発見の連続でした。「哺乳瓶って、こんなに種類あんのかい!」みたいな(笑)。

――当事者目線をもつ、ということですね。男性は物理的に身体の状態が変わるわけではないのに、早くからそこまで自分事にできるのはすごいと思います。

どうなんでしょうね。でも妊娠・出産・育児って夫婦二人のことですもんね。僕の身体に変化はないけど、相手の気持ちを想像する姿勢が持てなくなったら……朽ちるなというか。姉と妹がいる家庭に育って、女性の身体のことが耳に入る機会も多かったから、その影響もあるかもしれません。あと、Netflixで『ヒヤマケンタロウの妊娠』も観たからかも(笑)。

――妊娠中、パートナーの様子はどうでしたか?

妊婦は情緒が荒れるってよく聞くし、本人からも「出産後はどうなるかわからんよ~」とか言われたけど(笑)、ずっとおだやかに過ごしていたように思います。ほんわかした子なんですが、産後もいつもの彼女のままでしたね。

――それは、西丸さんのいいサポートがあったからじゃないですかね……! 西丸さん自身は、出産に際してなにか準備していましたか?

生まれるまでは、想像することしかできないんですよね。しかもコロナ禍の妊娠・出産だから、よく聞く自治体主催の「父親教室」みたいなのが一切なかったんです。一応「オンラインの講義があります」とかって案内は受けたけど、あんまりピンとこなかった(笑)。

なので、一般の女性が出産や育児の体験を語っているYouTubeとかを、夫婦で観ていました。あと『出産前の友だちよりも心配な友だちの夫に贈る100の言葉』(VERY編集部)も、めっちゃ参考になりましたね。友人であるGoodpatchのhacoさんが「西丸さん、これ読むといいよ」と贈ってくれたのですが、妊婦の気持ちが想像できる大切な一冊となりました。

僕にできることは、妻にベクトルを向けること

――自分の育休については、どう考えていましたか?

職場の同僚もばんばん取っていたし、妻の懐妊がわかった時点から「西丸さんは、何ヶ月とるの?」って話が普通に出る環境だったから、とらない選択肢は考えたことがなかったかも。

それに、この取材を受けることになって振り返ってみると、「そろそろ少し社会人生活を休みたい」って思いもあったなと気づきました。メルカリにはサバティカル休暇がないから「いましかない!」って。もちろん育児や家事をやるための休業期間なんだけど、自分と向き合う機会にもなったらいいなと思っていました。

――取得の時期を決めてからは、職場でどんな調整をしていきましたか。

まったくいいことではないのですが、僕は一人でいくつものプロジェクトを抱えちゃっていたんですよね。だから、僕が育休でいない2ヶ月間も問題なく業務がまわるように、新メンバーの採用をする必要がありました。マネージャーと要件を洗い出して、体制づくりを淡々と進めていった感じです。育休に入るギリギリまで採用活動は続けて、結果3名の仲間を集めることができました。

――自分の抜ける穴をそうやって会社がきちんと埋めてくれれば、気兼ねなく休めるようになりますね。多くの会社にそうあってほしいところです。

他社はどうかわからないですが、メルカリでは、そういう動きは必ず行いますね。新しい働き方をつねに推進してくれるカルチャーなので、そこに助けられたと思います。

――体制を整えていざ育休に入ってからは、家のことにどう関わっていましたか?

なんか……やっぱり妻にしかできないことがまぎれもなくあるんですよね。僕に抱っこされているのと、妻に抱っこされているのとでは、子どもの安心感が絶対に違うなって感じる。

――(だからあんまり育児やってない、とかいうオチだったらどうしよう)

そこで僕にできることは何なんだろうかって考えると、どちらかといえば、子どもよりも妻に多くベクトルを向けることだったんです。家事をするのはわかりやすい貢献だし、単純に妻に優しく接するとかもそうですよね。こまごました妻へのサポートが、結果的に子育て全般のサポートになると思いました。

だから、授乳とか子どもが甘えたいときの抱っことか、物理的に妻にしかできないことを妻にやってもらう代わりに、周辺のこぼれたタスクをできるだけ巻き取る。そうやって妻の仕事を奪えば(笑)、彼女はあいた時間で休んだり、映画を観たりできるだろうし。

――よかった、すばらしいです! パートナーとぶつかることはありましたか?

ほぼなかったですが、一度だけ、ささいなことから険悪になって翌朝まで口をきかなかったことがありました。そのときは理由を探してしまったんですが、女性は産前産後、ホルモンの関係でメンタルが不安定になることもあると聞きます。僕がするべきだったのは、険悪になる前にストップをかけることや、ただ隣で寄り添うことだったのかもしれません。正解はわからないけど、そのときはうまく対応することはできなかったから、ちょっと後悔してますね。産後はやっぱり不安定になりやすいんだろうし、もしまたこういう機会があったら、今度はもう少し早くそのサインをキャッチできたらいいなって思ってます。

コロナで出産に立ち会えず、初対面はビデオ通話で。
仏のようなお顔で息子を見つめる西丸さん

子どもと向き合う妻が、うつくしかった

――そのほか、印象的だったことがあれば聞かせてください。

男性が育児をしたり育休をとったりするのは、まだまだ一般的じゃないんだなって感じる場面がたくさんありました。友達に「復帰したあと、職場にちゃんと居場所あるの?」っていじられたり、飲食店で知らない人に「男性がおんぶする時代なんだね」って驚かれたり。

――過渡期なんでしょうね。早くこの時代を渡りきりたい! でも、西丸さんのSNSを見ていて、すごく育児を楽しんでいるのも伝わってきたし、いい育休だったんだろうなって思いました。

生まれてから2ヶ月の成長って本当にすごいから、そこに立ち会えたのはかけがえのない経験でした。いうなれば、プロダクトの立ち上げフェーズですもんね(笑)。なにより、誰よりもたくさん妻と話して、二人で誰よりも息子のことを考えたっていう時間は、すごく大きなものだったなと感じています。

この前、両親に息子を預けて、夫婦でひと休みにでかけたんですよ。でもその間、二人でずっと息子の話をしてた。そしたら急に寂しくなって、結局一時間くらい海を散歩しただけで息子のもとへと帰りました(笑)。もう生活の一部であり、身体の一部でもあるなぁと感じて、なんか夫婦で笑いましたね。息子、愛おしいーーって(笑)。

いまの息子と過ごせるこの時間を、もっと体感していたい。だから、もっと長く育休取ってもよかったかなって思ったりもして……せめて3ヶ月とか、半年とか……いや、そんなこと言ってたらキリないんですけど(笑)。

――どうして長く取らなかったんですか?

僕の気持ちのスイッチ的に、あんまり長く休むと仕事に戻れなくなっちゃうんじゃないかなと思って。だから、自分のスキルの問題ですよね。もしまたの機会があるのなら、そのときまでにスキルを磨いておきたいです。

お風呂あがりのボディケア

――子育てを通じて、お互いの新しい一面が見えたりしました?

子どもに対する妻は……やさしいし、うつくしいですね。僕には向けない表情をしています(笑)。子どもってかけがえのない存在なんだろうなとは想像していたけど、やっぱりそんなにも愛おしいんだなって感じるし、楽しそうに子育てしている姿を見ると僕まで幸せになる。めっちゃピースだなって思います。

あと、せっかくこんなインタビューを受けることになったから、妻に「育休中の俺、どうだった?」って聞いてみたんですよ。そしたら感謝してもらえたんだけど、なんというか、感謝されるのも違うよなって……。育児は二人のことだし、育休を取ったのも二人のためだから、感謝してもらうのはなんか違う気がするんですよ。どう受け止めたらいいのかなってちょっと思いました。

――「お互いありがとう!」で終わりでいいんじゃないですか? うちはそんな感じです。

そっか。そうですね! それが一番ヘルシーですよね(笑)。

夫婦でお散歩

「自分はどう生きたい?」という問いのなかに、仕事も子育てもある

――育休を取ったことは、仕事面にはどんな影響がありましたか?

ずっと仕事ばっかりだった自分から離れられたのは、やっぱりよかったなと思います。本を読んだり、客観的に自分の働き方を振り返ったり、日ごろ後回しになりがちだったことに手が回りました。いままでは仕事がつい属人的になっていて、少なからず自分自身の首を絞めちゃってたなと思うんですよね。でもこれをきっかけに、サステナブルな仕組みに整えられた。それから、仕事の見え方も変わりました。

――仕事の見え方?

仕事は「人生」という大きな傘のなかにあるものだなぁ、というか。
そもそも僕が30歳でメルカリに転職したのは、今後の自分のライフステージを考えて、この会社でなら仕事にも人生にも前向きになれると思えたからでもあるんですね。この会社でなら仕事のために子育てができるし、子育てのために仕事ができて、いいシナジーを生み出せる。実際に子どもをもって、仕事と子育ての境界線は非常にあいまいだし、もはや不可分だなと感じるようになりました。いまは「自分はどう生きたいのか?」という問いのなかに、仕事も子育てもあるものだと感じています。

――では、これから西丸さんはどんなふうに働いていきたいですか?

まずは子どもに自分の仕事を説明したとき、「お父さんはこういう仕事をしてるんだ」「こういう働き方をしてるんだ」って誇れる自分でありたいなと、思います。

子どもに「何の仕事をしているの?」ではなく「なんで、その仕事をしているの?」って聞かれたときに、ちゃんと自分のなかで答えを持っていたい。もちろん、持っていないわけじゃないんですが、子どもに伝えるってすごく覚悟がいることだから、しっかり信念というか、いま以上に軸を持たないといけないな、なんて思ったりする。

あと、いまの上長からはチームのマネジメントをしてみないか? という相談をいただいているんです。つまりそれって「西丸さんの仕事を、もう少し再現性を持ったかたちにしてほしい」というオーダーだと思うから、そこは力を尽くしていきたいと思っています。それに、人事や採用をやっていくうえで育休取得の経験は必ず糧になるはず。今後のパフォーマンスによって、「育休を取った選択」を、ちゃんと正解にしていかなければいけないなとは思います。仕事でも、家庭でも。

オンラインで息子も出勤

――そういう事例を積み上げていくことで、育休を取りたいと思った人が誰でも取れて、仕事にも育児にも納得感をもって向き合える状況が増えていけばいいなって思います。

たしかに、事例をつくらないと社会の選択肢は広がっていかないですもんね……。もちろん、「男性は全員育休を取るべし!」とはまったく思っていません。育休を取ることだけが正解ではないし、夫婦それぞれに選択があるのは大前提として。

――おっしゃるとおりだと思います。夫婦で納得していれば、取っても取らなくてもいい。

僕にとっては、子どもと妻と一緒に過ごすことが人生のなかでのトッププライオリティだったんだなと思います。いろいろお話したけれど、最終的にはそれ以外の何物でもない。だから、結果的に仕事がうまくいかなかったとしても、この選択に後悔はありません。

いま、育休を取得するかどうか、取得するにしても社内とどうコミュニケーションをとるべきか悩んでいる方がいれば、一人で抱え込まず周囲に話してみてほしいです。もっと気軽にこういうテーマを話せる場を、会社のみならず、社会全体でつくっていけたらいいですよね。

家族3人で、はじめてのお花見

■育休を取った男性、募集中です!

本記事のように、このマガジンでインタビューをさせてくださる方を募集します。
育休取得期間の長短や職種、自薦他薦は問いません。ぜひお話を聞かせていただけたらと思います。(もしも多数のご連絡があった場合、お願いしたいと思った方にだけお返事させていただきますこと、お許しくださいませ。)
また、こうした企画を書かせてくださる媒体さんも募集中です。

菅原さくら
メール: sakura.0116.sakura@gmail.com
Twitter: @sakura011626

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