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ジョージ・オーウェル『1984年』の山形浩生翻訳のKindle版をつくりました

ジョージ・オーウェル『1984年』の山形浩生翻訳のKindle版をつくりました。


Kindle版はこちら

2023年11月25日、山形浩生氏のブログで完訳公開を知り、これは紙の本で読んでみたいとおもい、自費出版しようと思い立ちました。『1984年』はすでに読んだことがありますが、新訳がでたら、それも読みたくなるものです。つまり当初は紙の本をつくるつもりだったのですが、後述する事情があってKindle版に落ち着きました。

「天真楼文庫」というのは、今回でっちあげた文庫の名前です。杉田玄白の医学塾の名前にちなんでいます。いま気がつきましたが、プロジェクト杉田玄白と名づけられたのは、著作権保護期間が「過ぎた」と「杉田」をかけているのかしら。

この翻訳は、著作権の切れたいろいろな文章の翻訳文を公開する「プロジェクト杉田玄白」で公開されています。HTML版、LaTeX版、PDF版、Word版、縦書きのEPUB版がそれぞれ公開されていますので、無料で読みたい方はこちらからどうぞ。

翻訳文はクリエイティブコモンズ(CC BY-SA 4.0)で公開されているので、もちろんKindle版もおなじライセンスです。価格は無料でもよかったのですが、有料(490円)としました。ワンクリックでKindleに届く手軽さへの対価ということでご容赦ください。

Kindle版の不具合があれば、私までお知らせください。翻訳に関することについては、翻訳者にご連絡いただくのがよいとおもいます。

翻訳よみくらべ

翻訳者がちがうとはどういうことなのか。原文とほかの翻訳を比較してみましょう。冒頭のパラグラフを抜粋します。

原文

It was a bright cold day in April, and the clocks were striking thirteen. Winston Smith, his chin nuzzled into his breast in an effort to escape the vile wind, slipped quickly through the glass doors of Victory Mansions, though not quickly enough to prevent a swirl of gritty dust from entering along with him.

原文(Project Gutenberg Australia

高橋和久訳(ハヤカワepi文庫・2009)

四月の晴れた寒い日だった。時計が十三時を打っている。ウィンストン・スミスは不快な風を避けようと顎を胸に埋めるようにしながら、ヴィクトリー・マンションのガラス製のドアを素早く通り抜けた。とはいえ、砂埃の渦が自分について入ってくるのを防げるほど素早いわけではない。

高橋和久訳(ハヤカワepi文庫・2009)

田内志文訳(角川文庫・2021)

四月のよく晴れた、寒い日だった。時計は十三時を告げていた。ウィンストン・スミスは嫌な風を防ごうと胸元に顎をうずめ、ヴィクトリー・マンションのガラス張りのドアから中に滑り込んだ。急いでドアを閉めはしたものの、渦を巻く砂埃が一緒に入ってきてしまうのは、どうしようもない。

田内志文訳(角川文庫・2021)

山形浩生訳(2023)

四月の晴れた寒い日で、時計がどれも13時を打っていた。ウィンストン・スミスは、嫌な風を逃れようとしてあごを胸に埋めたまま、勝利マンションのガラス戸を急いですべりぬけたが、ほこりっぽいつむじ風がいっしょに入ってくるのを防げるほどは素早くなかった。

山形浩生訳(2023)

いかがですか。あまり変わらないと感じる人もいるかもしれません。ここでおおきな違いは、センテンスの数ですね。原文とセンテンス数が一致しているのは、山形浩生訳だけですね。山形訳がもっとも原文に忠実な翻訳だとおもいました。冒頭部分は違いがすくないですが、読み進めていくと違いが際立ってきます。

許可とってやってるの?

「おいおい、人の褌で相撲を取ってるんじゃないよ」「許可とって商売してんのか」とお怒りの方もいらっしゃるとおもいます。

でもこれは、オープンに公開されているテキストなので、許可をとる必要ないのです。プロジェクト杉田玄白は、トップページに「リンクやコピーは黙ってどうぞ」と掲げているように、ライセンスにしたがう限り自由にしろと強く推しています。

なので許可どりは不要なのですが、できればスムーズにことをすすめたかったわたしは事前に訳者に連絡をとりました。連絡を嫌がられるか無視されるかのどちらかだろうと予想していたら、思いのほかすばやくご快諾いただけました。その後すぐに商業出版の話がでてきたので、紙の本として出そうとする計画はストップし、Kindle版としてリリースすることにしました。

Kindle版に切り替えるのは、ほとんど組版が終えていたInDesignの書類から、EPUBを書き出すだけです。楽勝だとおもっていましたが、数多くのトラブルに見舞われ、とても苦労しました。本文中の「補遺」のみ横組みにしていたのですが、Kindleでは縦組み、横組み混合だと読みにくく、すべて縦組みに統一しています。

商業出版されるそうです

上で書いた通り、今後商業出版されるそうです。刊行時には、より充実した訳者解説などがつくでしょう。同時にKindle版も出るとおもいます。

ブログにも追記されています。

商業出版したいというところが出てきたので (まだ確定ではありません) 、いまのうちにダウンロードしたりあちこちにばらまいたりしておくといいと思うぞ。

https://cruel.hatenablog.com/entry/2023/11/25/005207

この注意書きをみる限り、商業出版されるときには、サイトでの公開が停止ないし一時停止されるのかもしれません。

山形浩生さんには、なんと事前にデータを確認していただきました。また、Kindle版リリース時には、杉田玄白ページやブログにリンクを貼ってくれたり、Xポストでも宣伝いただいて、ありがたい限りです。

いまIn-Designでそこらへん立派に作って下さってる奇特な方がいるので、そっちがいずれできるのをお待ちください。できた模様。非常に優れた出来です。アマゾンKindleで販売中。

https://cruel.hatenablog.com/entry/2023/12/02/072010

紙の本をつくる希望はまだもっています。商業出版とはちがった編集にチャレンジしようかと。たとえば、英語の勉強に役立てられる対訳版をつくってみようとおもっています。

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