初めてのオートクチュール③

ドレスは実用品。

「どうやって服を選んでいらっしゃるんですか?」

「どこで服を買うんですか?」

図々しい性格だし、「着ること」(ファッションとはちょっと別だと思います)になみなみならない興味があるので、素敵だな、と思う女性に会うと、私はよくこの二つの質問をしてしまう。そして頂いた答えは、自分が服を買うときの参考にすることもあれば、その人とどういうお付き合いをするか、どんなことをおしゃべりするかの道しるべにすることもある。

一見、ちょっと失礼な質問ですよね? でも素敵な人っていうのは、たいていそういうことを訊かれることに慣れているし、自分が人から憧れられていることをきちんと受け止めていることがほとんど。

だからみなさん、嫌な顔をせずに答えてくださる。

芳野まい先生もその例外ではなく、さらりと答えてくださった。

「わたしは、3度の仮縫いを経て作った<これ!>というオートクチュールのドレスを毎日着ているんです。何着か持っているものをローテーションで着回しています。朝袖を通したら、夜までずっとドレスでいるんです」

「!!!!!」(わたしの心の声)

もちろん、図々しい私は、そこからまい先生を質問攻めにしてしまった。

先生のおっしゃったことを要約すると

研究者という仕事柄、学生から要人まで、様々な人と会う可能性があり、きわめて幅広い種類の場所に、急に出入りする必要性に駆られることがある。そのような状況下で、ドレスを毎日着ていると、いいことづくめなのだそうだ。いつどんな場所への招集がかかろうとも、すぐに対応できるし、また、着ているものを理由に、どこかに行くことを諦めることもなくなる、とのこと。


逆に困ったことは?と聞くと、先生はいたずらっぽく

「サッカーをスタジアムに観に行った時だけは、寒くて辛かったんだけれど、本当にそれだけ。」

とおっしゃった。

そして、「ファッションが好きで、素敵なものを着たいとおもうけれど、いろいろやらなくちゃいけないことがあって、服のことだけを考えて生きていくわけにはいかないから。」とも。

ああ、これこそスタイルだな、と思った。こだわりぬいてオーダーしたドレス。とっておきの生地でつくったそれを、毎日着続けるなんて、なんて素敵なんだろう。

半日ほど、そのエピソードの素敵さにうっとりしていた私であったが、だんだんと居ても立っても居られない気持ちになってきた。

私はまい先生のように、すぐに毎日ドレスで過ごせるようにはなれないと思う。1歳半の息子と過ごすにはドレスはそぐわなすぎる。けれどここぞというときは、私にもある。しかるべき時に、ただ着るだけで決まる、そういうドレスが欲しい。そして、いずれ、子育てが落ち着いたら、まい先生のようなワードローブを目指したい。

私も究極の一着が欲しい。

夜になり、まい先生にご連絡をした。

先生は親切にも、直ぐに、アレンジをしてくださった。

半月後、私は、メゾンコペルの扉を叩いた。

(続く)

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