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2023ファジアーノ岡山にフォーカス34『 不屈の童心と不動の大人心~熱さ~ 』J2 第24節(H)vs藤枝MYFC

 試合開始と同時に止む雨と早い時間に売り切れのポンチョ。晴れの国である岡山の晴れの力と意地を感じられた。ファジも試合で雨を乗り越えたように、藤枝のパスワークを中心とした豪雨に打ち勝てれば良かったが、7チアゴ・アウベスの負傷交代と共に、太陽(月)は、雲の奥へと消えて行った。直後の不味い判断の末に、一人少ない藤枝に対して、まさかの3失点目。諦めない大多数のサポーターの気持ちと選手が自身への怒りを闘志に代えて、2点返すも同点から逆転に繋げる時間と力は残っていなかった。晴れなかった結果と降り続ける怒り。気持ちが晴れる日が来るのか、ファジアーノ岡山ファミリーの心が晴れない戦いは、続く。

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2023 J2 第24節 ファジアーノ岡山vs藤枝MYFC シティライトスタジアム
岡山イレブン。


藤枝イレブン。


1、最後まで諦めない~童心~


 大人になると、知恵や知識によって、現実を知る事となっていく。私のレビューを読んで頂いている方も岡山の現在地(J2の順位や勝ち点)を計算して、もう岡山の優勝は厳しいのでないか。「頂」には、もう届かないのではないか。どこか、そういった現実を嫌でも理解してしまい、どこか諦めかけている(諦めてしまっている)方も一定数いるのではないだろうか?

 しかし、この試合で、3点差が開いた時に、席を立ち帰っていく大人が一定数いるなかで、それまで聞こえていなかった(目立っていなかった)子供たちの応援の声、大人の重い声とは違った高い声というのが、メインスタンドでもバックスタンドでも僅かだが、はっきりと聞こえてきた。

 私もこの応援が耳に入って来た事で、次の呟きを行った。

 「はっとした」というか気付かされたというか、サポーターの私でさえ、少し心に響いたというか、神戸戦のような展開にならないかなという心の奥に眠っていた「期待」が「願い」とへとはっきり姿を変えた。

 そして、この声に恐らく一番奮起したのが、5柳 育崇であるだろう。2失点も最後の壁として立ち塞がって、チームのキャプテンとしても防ぎたかったシーンであった。

 選手によっては、この責任の前に、自暴自棄になってしまうことや心が折れてしまうことで、普段のプレーができなくなったり、自身の限界を越えるプレーができなくなってしまう事もある。いや、実際にそうなっていたかもしれない。

 この4,254人のほんの数人の声だけかもしれない。確かに子供の声は、5柳 育崇を中心とした岡山の選手達に届き、その5柳 育崇が頭で1点を返した事を皮きりに、パワープレーで前線に出ていた5柳 育崇が、空中戦でミッチェル・デューク以上に競り勝って、無双していた。

 そこに理屈や理論はなく、自分の上に来たボールを少しでも近くの味方へ届ける。それだけしか考えていなかったはずだ。「頭」で決めたが、「頭」は使っていない。「胸」で、「心」で決めた得点、「心」で産んだプレーの数々であった。

 小さい「声」や少ない「声」もそこに気持ちがあれば、届く。「子どもたちに夢を!」という理念は、もしかすると、岡山の粘りの根源や最後まで走り切る気持ちへと繋がる。岡山が誇る武器であることを、証明できた試合に感じた。

 確かに、同点に追いつけなかった。逆転できなかった。数字上は、何も残らなかったかもしれない。しかし、諦めなかった子供の応援の声。そして、90分間通して、諦めなかった大人達の応援の声。

 私は、この4,254人の応援が、選手に届いたと信じたい。そして、最後に、2点返したことによって、この試合最大のボリュームの応援の声がスタジアムに広がった。まさに、スタジアムが、一つになった瞬間であった。

 1章の最後に、この試合の捉え方として、勝ち点という結果は手にできなかったように、似たような展開の過去のアウェイ神戸戦のように追いつけなかったかもしれない。しかし、プレーオフでは、1点も返せなかった木山ファジが、この試合では2点返した。

 1人退場者が出ていて、守備が不得意な藤枝に対してであっても、プレーオフでは1点も返せなかった0-3から2点も返した。比べてはいけないかもしれないが、5柳 育崇のファジの公式動画で語っていた「この試合のことは、忘れないと思います。」の言葉通り、このスコアだからこそ、5柳 育崇を奮い立たせたのかもしれない。

 チームの選手の成長や意地が見えた試合だからこそ、ファジアーノ岡山は、この試合の最後の追い上げのように、「童心」を忘れてはいけないという気持ち、追い上げのヒントを感じた試合となった。


2、勝負に徹する判断力~大人心~


 子供には、子供の強さや弱さがあるように、大人には、大人の強さや弱さがある。という事で、2章で、チームとしての岡山の敗因や藤枝の勝因となる大人心の部分で、勝負を分けた判断の違いが、どこにあったのかというテーマのもとに、話を進めていきたい。

 この試合の最大の岡山の敗因は、筆者は、7チアゴ・アウベスが裏に抜け出しそうで、倒されて、藤枝の16山原  康太郎が退場した後のチーム全体の判断である。この後、少しプレーした後に7チアゴ・アウベスが、プレーの続行が不可能という事で、ピッチを後にすることとなる。

 この時、実は今の岡山の状態を考えると、退場者が藤枝にでるよりは、1点返せた方が良かったのではないかと考えていたが、現実は、7チアゴ・アウベスの負傷交代という最悪の結果がまっていた。

 岡山にとって、藤枝の選手が一人退場して、エースである7チアゴ・アウベスの投入という事で、反撃ムードになる筈であったが、まさの7チアゴ・アウベスの負傷。見間違いかもしれないが、この流れを見ていた交代を待っていた藤枝の選手の一人の表情に、一瞬、笑みが見えたように感じた。

 これは、7チアゴ・アウベスの不幸を喜んだという悪意ではなく、岡山のエースの選手が下がるという藤枝の状況的な「利益」と0-2でリードしている現実を考えた時に、「勝利」というのが、現実味を帯びてきたという事に対する気持ち、つまり「勝利」を意識したことによる、一瞬の笑みである。

 実は、スポーツを長く経験している方にとっては、イメージし易いと思うが、「敗戦」を意識して、パフォーマンスが落ちる様に、「勝利」を意識することで、プレーが堅くなることや甘くなることがある。つまり、気持ちの「隙」が、生じていたかもしれないという兆候を示す表情であった。

 ただ、それ以上に動揺していたのが、岡山であった。7チアゴ・アウベスが、インプレー中に下がっていたので、ピッチの選手が1人「多い」筈の岡山が、藤枝のピッチの選手の人数が「同数」の状態に一時的に陥っていた。

 本来であれば、すぐに外にボールを出して、「数的優位」を確保すべき状況であることは、一目瞭然であった。もちろん、岡山のチャンスであればまだ理解できるが、数的同数となったことで、後でしか回せないプレーを強いられていた。

 選手達を擁護するのであれば、リアルタイムでは、気が付かなかったが、恐らく選手達の中では、7チアゴ・アウベスが、戻って来るという意識があったのではないだろうか?インプレーという事で、その様子を共有する心の余裕が、現在おかれているチームの順位からの立ち位置、そして0-2で負けているという状況でなかった事は想像できる。ただ、もう32福元 友哉の交代を審判に告げていて、数時がはっきり見えていたので、交代は確実であった。

 だとすれば、これは木山 隆之 監督の責任であるだろう。ただ、普段の木山 隆之 監督は、ここで大きな声を出すタイプではなく、そういった所で声を出せる熱さをもった元岡山の有馬 賢二元監督のような方が、ヘッドコーチがベンチに入ってくれればと、書いていて感じた。

 ただ、選手に自主性に任せるという方針が色濃い木山ファジにおいて、巧く噛み合うのかという問題こそあるが、木山 隆之 監督の「冷静さ」が際立つもののリーダーシップというか「熱さ」が、有馬 賢二元監督にあった分、木山 隆之 監督に対しては、この部分での物足りなさを正直感じている。

 想像してしまったが、もし木山 隆之 監督と有馬 賢二ヘッドコーチという親交がある両雄のダックを組むことが実現すれば、もしかすると、岡山は、次の段階へと進み、奇跡を起こせるのではないか。

 今季は、無理かもしれないが、個人的には観てみたいシナリオの1つだ。

 何れにせよ、このインプレーで攻めあぐねていた時間が、正直長く、非常にもったいなく感じた。普段は、ポジティブに試合を捉える事が多い私も、流石にこの時間帯のチームに対しては、かなり「怒り」というか「不満」に近いものを抱いた。正直、この感情は、今季初めてであった。

 この一連の流れに対しては、フォローできる部分こそあるが、一時的に0-3というスコアになった通り、チームとしてすべきことができなかったという事実は、今季を象徴するシーンの一つでもあり、チームとしてというか木山ファジのここまで1年半の共通の課題であり、今季の観客動員が伸び悩んでいる大きな理由ではないだろうか?

 やるべきプレーができなければ「勝つ気あるの?」と言われても仕方ない。負けていてもという言葉は、この試合の2点返した時間のように、プレーで気持ちを体現できている時に初めて、意味をなす。

 だからこそ、この気持ちもこのプレーをどう90分間で体現するのか、そこが最も問われている部分である。

 その点、藤枝は、勝つための攻撃的スタイルというのをどんな相手にも90分間やり通す力。何点差ついても取り返すといった感じの強さというのが、実際の強さとは別にある。

 確かに、「繋ぐ」という部分にフォーカスされたスタイルへの憧れの気持ちもがあるが、私は、岡山の強さは、粘り強い守備と絶対諦めないという強い気持ち、チームのためにプレーするという献身性にあると考えていて、当然のプレーのようでも大事なプレーであり、誰にでもできることではないプレーでもある。

 あくまで「繋ぐ」は、手段であり、気持ちが感じられる戦い方、プレーをもっともっと出していかないと、岡山のサポーターは、納得できないはずだ。

 今季の岡山への「不満」の根源が、私の中で初めて表面化したことで、問題の本質の一端が私の中で見て取れた。

 私が、夏場に求めるのは、有馬 賢二(現広島コーチ)や長澤 徹(現京都コーチ)のようなコーチの招聘であることを強く感じた。というか、有馬 賢二ヘッドコーチ、長澤 徹メンタルコーチ、木山 隆之監督の3人体制も面白いかもしれない。

 22シーズンにあって、23シーズンにないもの。それは、「熱いプレー」や「熱い展開」であり、「勝てない安定感」は、見方によっては、「冷めたサッカー」であり、22シーズンにできたようなサッカーができる選手編成にできなかった強化部への「不信」も私の中では、ここにきて、膨らんでいる。

 もし、夏場の補強が、的外れでこのまま昇格を逃したとして、強化部にメスをいれる、もしくはチーム編成で動けなければ、来季は、成績低迷と観客動員低迷の先にある降格を意識してしまうシーズンになるかもしれない。

 有馬 賢二監督のように歴代の監督にあった一緒に戦うという「熱さ」。原 靖元強化部長にあった「迅速な補強」を失った岡山の組織的劣勢。まさに大人の中での大人の競争に敗れつつある現状。

 正直、不満が爆発しそうだけど、向けられない不満。

 サポーター目線でも、色々と問題があるのに、そこに対して手が打てない。このままでは、やばいよ岡山。大丈夫?

 そして、もう1点。抗議する事に熱くなる多くの岡山の選手の中で、ただ一人遠くに転がっていたボールを拾いに行き、次のプレーに備えていた。

 「熱いプレー」とは、「言葉に発すること」でも「抗議すること」でもなく、監督であれば勝負に徹する「采配」であり、選手にとっては「プレー」で体現することだ。

 形だけ、「熱く」みせてもサポーターの目は、ごまかせない。

 48坂本 一彩のように、不満や不信、不安といった気持ちをコントロールして、やるべきプレーとやるべき行動を実行することで、それができていたからこそ、得点を決めることができた。

 試合終盤の5柳 育崇のように、自分の武器を理解し、そのプレーに徹する。

 22佐野 航大のように、試合終盤に自身のミスでのボールロストを取り返すべく、全力疾走の守備に見えた闘争心。

 90分間プレーした中で辛くても、その守備の後に攻撃の時間があると信じて、最後の2高木 友也の全力疾走の守備。

 23ヨルディ・バイスの気が付いたら、ゴール前にポジションを取っている、勝利への執着心。

 8ステファン・ムークの疲労で、シュートミートできなくてもゴール前に飛びこむ、諦めない気持ち、やり切る気持ち。

 落ち着いたプレーが武器であった41田部井 涼の泥臭く、攻守でハードワークする気持ちの籠ったプレー。

  私達俺達サポーターは、そういったプレーがみたいんだよ。

 18櫻川 ソロモン。あの決定機になりそうなシーンで、シュートを打たずクロスを入れたシーン。ここまでの試合で置きに行くようなシュートの数々。なんだろ、君は、ストライカーだから、思い切って打っていいんだよ。

 子どもたちの応援に、同じサポーターとして、心動かされたように、選手もプレーで、それが、できるはずだ。

 チームには、なぜ2点返せたのかという理由を良く考えて欲しいのと同時に、点返した後のあの雰囲気。これを忘れるな。10点差が開いても、最後まで気持ちをみせろ。諦めるな。下を向くな。そういった言葉が自然と出てくるような、「熱さ」。

 そこを最低限、私は目に見える形で見たい。諦める理由を探すのではなく、勝てる方法を探せる強さ。

 そこで、「大人心」を発揮して欲しい。


3、蹴球都市の誇り、藤魂~激熱~


 気持ちの部分を抑えられないというか、そこばかり語ったので、今度こそ冷静にサッカー面で、藤枝についても書いていきたいと思います。

 実は、この試合のテーマとして、「藤枝」の得点力があるのに、どうして守備が安定しないのか。そこを意識して観ようと思っていたが、私の中では、前節のように奇麗な「答え」に到達しなかった。

 あくまで、仮説というか印象になるが、あるプレーが明らかに少ない事にあるように感じた。

 それは、ロングパス。藤枝のDF陣は、J2では、弱いというよりは、ビルドアップを貫き通す事で、そこで奪われての失点が多いのではないかと感じた。岡山であれば、前に人数をかけてプレスをかけてくるチームがあれば、ロングパスを選択することに躊躇いはないが、藤枝は、岡山がプレスをかけていくよというシーンでも、GKまで戻しても繋ごうとする。

 ましてや、そこに対して、岡山の選手がプレスをかけられる状況であっても繋ぐ意識が強い。しかし、こういったリスクを背負う代わりに、その先の景色を見る事ができるのが、藤枝のサッカーの魅力であり強さだ。

 プレス網を越えた先の広大なスペースやチームとして前進した事による、人数をかけた攻撃。こういった状況が、藤枝の得点力を生み出している。

 ゴール前のパスでの崩しにしても、もしかすると自陣からのビルドアップの延長線上にあると言ってもいい。そして、留意していくこととして、必ずしも「繋ぐ」ことが「正解」ではなく、「ロングパス」も有効な攻撃手段ということだ。

 あくまで、「正解」ではなく、「手段」の一つである。岡山のサッカー観であれば、状況によっては、もっと「ロングパス」を活用しても良いんじゃないかと感じる部分こそあるが、ゴール前の崩し方を見ていくいくと、チームとしての「繋ぐ」「崩す」に特化した、プレースタイルの選手を集めた時の「爆発力」や「創造力」をまざまざと見せつけられた試合であった。

 これで、藤枝に対して、岡山は2試合で5失点。守備面で、岡山が藤枝の攻撃陣に勝てなかった(抑えられなかった)。今のサッカーでは「駄目だ!」ではなく、何が良かったのか。何が悪かったのか。何が足りなかったのか。何が通用したのか。

 こういった視点での分析や修正、改善を繰り返す事。フィードバックしていく事で、岡山も藤枝のように、自分達のスタイルで再び勝てる日がくるはずだ。

 23シーズンで対戦した藤枝は、本当に強かった。

 しかし、次こそは岡山も決めたい。

「決めろ!勝利の一撃!」

平日の中、試合前まで雨という条件の中で、岡山の地に駆け付けた藤枝サポーター。

4、アディショナルタイム~風景~


 気になった風景や気になった事など。

 22佐野 航大の裏へのロングスルーパスが、何度も見れた事や48坂本 一彩とのパス交換は、観ていて可能性を感じた。これからは、この2人が攻撃のを軸になって戦っていくのか。

 そういった予感を感じた試合であった。負けはしたものの岡山の良さが出た部分もあった試合で、そこについて、本文であまり言及できない結果や内容になってしまった事は、非常に残念だ。

 ただ、藤枝の強さに直に二度、観れた事は、サッカー好きの一人としては、楽しかった。ただ、ファジアーノ岡山サポーターとしては、次こそは、勝てるように岡山を応援していきたい。

雨がかなり降っていたことが分かる一枚。
表現の難しい美味しさ。そして茶葉が・・・

5柳 育崇 選手(岡山)
「この敗戦から学ぶことはしっかり学んで、後ろを向いている時間はないので前を向いて、しっかり団結して勝ちに行きたい。」

ファジアーノ岡山公式HP
J2第24節 藤枝MYFC戦 監督・選手コメント
URL: https://www.fagiano-okayama.com/news/202307052200/
より一部引用。

文章・画像=杉野 雅昭
text・photo=Masaaki Sugino

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