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「ナントの敗戦」を振り返る(2):敗因となったのはキックからの失点

「ナントの敗戦」こと日本対アルゼンチン戦のレビュー2回目。

 前回は、22mラインを越えてマイボールで攻撃できた回数が、アルゼンチンは6回、日本は8回あり、アルゼンチンはそのすべてで得点した一方、日本は4回しか得点できなかったことを振り返りました。
 22mラインを超えた回数が多いということは、中盤での攻防で日本が優位に立っていたことを意味していると考えていいと思いますが、一方で、アルゼンチンは、トライが狙える有利な状況で22mラインに入ったことも示唆しています。


キックを数えてみる

 今回のジャパンは、キックを多用しました。これはアタックを十分整備する時間がなかったからということのようです。

 ではこのアルゼンチン戦において、キックはどれくらい有効だったのでしょうか。実は細かく見てみると、アルゼンチンの得点チャンスは、日本のキックからしばしば生まれていたことがわかりました。今日はこの点を見てみます。

 タッチキックやプレースキック、リスタートのキックは除外するとして、ラグビーでは、キックが行われたあと、どのような展開になるでしょうか。まず、ハイパントのあとでのボールの再確保が考えられます。
 次に、再確保はできずに相手ボールになったとしても、テリトリーキックとして機能し、プレーエリアを前進させることがあります。一方、逆に相手のカウンターアタックを許し、プレーエリアを後退させられることもあります。あるいは、単にリターンキックを蹴り返されることもあります。

 というわけで、試合のビデオを見直して、「再確保」「プレーエリア前進」「プレーエリア後退」「リターンキック」に分けて数えてみました。プレーエリアの前進、後退については、キック後3フェイズの間に前進できたか後退させられたかを数えています。
 なお、ルール上は他にフェアキャッチやドロップアウトがあり得ますが、この試合ではフェアキャッチはなく、ドロップアウトは18分にアルゼンチンのロングキックがデッドボールラインを割ってアルゼンチン陣内のスクラムになったときだけなので「プレーエリア後退」としてカウントしました。

日本は有効にキックを使えていた

 まず単純に蹴り返されたリターンキックですが、これは合計で3回。日本が8分、アルゼンチンが35分と71分です。

 次に一番有効な再確保。これは日本は11分の1回だけ。アルゼンチンは8分、40分(後半)、52分と3回あります。特にアルゼンチンが太陽の方向の陣地となり、日本がハイボールのキャッチに苦しんだ後半に2回再確保できていることがわかります。

 次にプレーエリア前進。日本は17分、22分、35分、40分(後半)、48分、71分の6回となります。特に22分と35分はアルゼンチン側のノックオンで、マイボールスクラムからのリスタートですから、実質的には再確保と同じだといえます。一方でアルゼンチンは意外にも72分の1回だけです。こうしてみると、キックによる陣地確保では日本の方が優位だったと言えるかもしれません

キックからの失点が致命的

 問題はプレーエリア後退です。日本は6分、27分、67分、72分の4回。アルゼンチンは4分(ハイパントをキャッチできずノックオンして日本ボールスクラムになり、しかもスクラムでペナルティを犯して日本のタッチキックで後退)、14分、18分(デッドボールラインを割ってしまい、蹴った地点からの日本ボールスクラムでリスタート)、25分(10mサークルオフサイド)、30分、75分の6回です。

 数だけ見れば日本が4回、アルゼンチンが6回なので、やはり日本が蹴り勝っていたと見えるかもしれません。しかし問題は内容です。日本の場合、27分のプレーエリア後退は、松田が試みたドロップゴールがチャージされたあと、松島がハイパントを試みるもアルゼンチンにクリーンキャッチされて真ん中にトライされたもの。67分もアルゼンチンにとられてそのままトライ。73分はアルゼンチンに捕られたあとの展開でペナルティゴールを取られました。つまり、キックのあとに押し戻された展開の中で17点取られたということです。全体として12点差ですから、ここでの失点は決定的だったと言えます。

キックそのものでは日本が優位に立っていたともいえるが・・・・

 まとめてみましょう。フィールドプレーの中で日本は12回キックを選択しました。うち、再確保およびプレーエリア前進は6回ですから、50%はキックが有効に機能したと言えます。アルゼンチンは13回中5回の38.5%ですから、キックそのものでは日本が優位に立っていたと言えるでしょう。
 しかしプレーエリアを後退させられてしまった4回のうち3回で失点してしまっています。キックを試みたのが12回ですからその25%の局面で失点してしまったわけです。アルゼンチンは、デッドボールラインを割ってしまったり、10mサークルオフサイドを犯したりと大きなミスもありましたが、そこから直接は失点していません。むしろ日本のキックから、有利な形でボールを確保できた局面がいくつかあり、それが22mラインを越えた得点機会のすべてで得点できたことにつながったのです。

 まとめるとこう言えるでしょう。日本は陣地確保について言えばキックはうまく使えていました。しかし、ドロップゴールをチャージされて乱れた陣形の中で、チェイサーも数が確保できない中でハイパントを試み、相手にキャッチされて中央にトライされてしまった27分が典型ですが、苦しい状況でキックしたときに失点につながったケースが3回もあり、それが命取りになったと。
 一方、アルゼンチンもキックでミスを犯していたものの、日本はそのミスを得点にうまく結びつけることができなかったのです。「ナントの敗戦」の理由を1つ見いだすとすれば、「自らのキックからの失点が多すぎた」と言うことになるでしょう。

 この試合の振り返り、もう一回書きます。

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