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【オススメ本】片山善博『知事の真贋』(文春新書、2020)

片山善博『知事の真贋』文春新書、2020 。

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https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166612840

総務官僚、鳥取県知事(2期8年)、総務大臣を歴任された片山善博さんならではの知事のコロナ対応からみる「リーダーシップ(知事)論」。

主題は「良い知事とダメな知事の見分け方」なのですが、帯にポイントが記されている通り、「小池東京都知事は広報係長か?」「理解に苦しむ大阪都構想」「北海道知事事態宣言の問題点」「9月入学に悪乗りした知事たち」とコロナ中心ではありますが、各論として国地方関係論や大都市制度や法政策、教育政策、知事会や議会のあり方についても具体的に問題提起されています(ちなみに片山氏も知事時代にSARSやと鳥取西部地震を経験し、その際陣頭指揮をとった経験あり)。

目次はこちら。

第一章 知事たちの虚を突いた感染症
第二章 法的根拠を欠いた知事の自粛要請
第三章 各都道府県知事の閻魔帳
第四章 問われる全国知事会の役割
第五章 東京都政と大阪府政を診る
第六章 ポストコロナ時代の首長と議会

本書の核となる問題意識は「知事は何をしなければならないか」という1メッセージに尽きます。片山氏曰くそれは1つは「ロジスティック(兵站。つまり人手や資機材)」であり、いま1つは「法令上」で考えることが大事であり、それを常に考えることで知事には「何ができ」「何ができないか」が分かると説きます。

この観点からまだ現在進行中ではありますが、今回のコロナ禍における数々の知事(ならびに政府も)の対応を振り返ると、首を傾げたくなることが実に多い、というのが本書の内容になります。

以下、上記の問題意識を踏まえて、具体的に印象に残った部分を引用してみます。

・感染症予防に関する業務は、その性質からして狭域の市町村の業務にはなじみません。引き続き都道府県が国と密接に連携して行うのが合理的だと思います。ところが、業務の綿密な仕分けがされないまま、一部の地域で保健所は一体として移管されました。(中略)都道府県の側では一体移管の是非を真剣に考えていたようには思われません。移管が新型コロナ対策にどう影響したか、今後検証する必要があります(p.5)。

・首相が一斉休講の「要請」をすると、ほとんどの知事がバタバタと休講を「決定」しました。しかし、2000年に地方分権改革一括法が施行され、国と地方の関係は対等になっています。総理大臣といえども、地方自治体を従わせるには法的根拠が必要でした(p.31)。

・自治体は地元に根ざした専門家を様々な分野で頼りにすべき(p.38)。

・お上から言われただけで「やらされ感」しかなければ、当事者意識は生まれません(p.42)。

・国のピントが外れているからこそ、知事がどんどんんクローズアップされて行き、現場を踏まえた対策や発言で知事が目立ってってくるのです。そうした姿に幕末を思い出しました。幕府が右往左往してどうしようもない時に、地方の藩の行動が目立ちました。それと同じ現象が今回起きたのではないかと思います(p.50)。

・通知は厚生労働省の考え方を記した文書にすぐず、本来法的な効力はありません(p.93)。

・知事に必要なのは住民に向けた会見です。「県内はこんな状況になっていて、こうした対応をしています。精一杯頑張るので、皆さんも協力をお願いします」と訴えることが大切です(p.100)。

・梶山(静六)さんがいつも言っていたのは、「政治というものは、力の弱い人や声の小さい人に目配りすることが大切だ。(中略)弱い人は手を引っ張ったり、背中を押してあげたりしなければ、自分だけでは前に進めない」ということでした(p.159)。

・「鈴木(俊一)さんは都庁のすべてを知っていたかのように言われるが、そうではなく、物事を聞いて筋が通るかどうか判断する能力に長けていた」と都政に詳しい記者から聞きました(p.175)。

・東京市を復活させ、東京府と分けることで様々な問題が解決する(p.180)。

・関西の経済界の人たちは「関西は一つ」だとよく言いますが、行政はどう見ても「関西は一つ一つ」になっているのが実情のように見え思えます(p.193)。

・インサイダー選挙を防ぐには、アメリカの大統領・副大統領のように、日本でも任期中に知事や市長が欠けた場合、副知事や副市長が自動的に残りの任期を務めるという定めにしておくのが良いと思います(p.197)。

・「議会は何をやっているか分からない」とよく言われます。もっともだと思います。今の議員たちに「決めること」への関心が薄いからです(p.201)。

・「議員のミッションはなんです」かと尋ねてみます。すると「市長に要望すること」「いい要望をすることで、市政に影響を与えたい」などという答えが返ってくることがります。要望なら、議員でなくても自治会でもできるから、議員になんかなる必要はないのではないか(p.203)。

・いざという時に(議会が)なぜ役に立たないのか。それは、普段からそうした調査活動をしていないからです。普段取り組んでいなければ、いざという時にできるはずがありません(p.207)。

・これまでの悠長で形骸化し、しかも住民の声を全くと言っていいほど効かない議会運営を改めることです。議会が日常的に住民参加を促し、委員会などの場で何かにつけて住民の発言機会を設けるような運営に慣れていれば、大災害の時には議会の役割を十二分に果たすことができるでしょう(p.214)。

以上です。

ここから分かるように本書では単純な知事の批判や論評というよりも、こうすべきでなかったかという具体的提言、すなわち対案を示す形で論が展開されます。これができるのも、現場のリアルな経験(官僚・知事)だけでなく、総務大臣や教員を経験し、メタ的見地、あるいは離れて見て物事を見ることができている片山氏ならではと思います。

コロナは全国民に関わる大きな病で災害であります。首長、議員、公務員、研究者の皆さんはもとより、1住民として自身の身近な地方政府のあるべき姿や首長の真贋を考えるためにも一読をお勧めしたい一冊です。




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