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ビニール傘がすき

ビニール傘が好きだ。

大きな雨粒が当たる音。ぼとぼとと雨に撃たれていく。
雨音しか聞こえない世界は
自分の存在を浮き彫りにする。

夜になって街中に明かりが灯りだす。
ビニール傘越しに見る明かりたちは、
雨粒によって滲んでいた。
目に涙を溜めたときのように
光が広がる。
この景色を見ているのは、ビニール傘のなかにいる私だけ。たった一人。
このうつくしくて儚い景色を一人占めしている。

隣を横切る車たちは
傘をさす歩行者を迷惑そうに避けていく。

横切るときゆっくりとスピードを落とす車。
歩行者がいようが速度をあまり変えない車。
水しぶきが足元にかかる。

傘をさすのが下手な私は
水しぶきをかけられようがかけられなかろうが
どっちみち身体は濡れている。

だから別段気にしない。

そんな足元のことよりも
目上に広がる景色のほうが重要なのだ。




ビニール傘の唯一好きじゃないところは
簡単に持ち去られていくところだ。

傘立ての、この場所にさしておいたはずなのに。
他人の傘を持っていく人の気が知れない。
自分が濡れないぶん、どこぞの誰かが雨に打たれるのだぞ。

さようなら私のビニール傘。



ビニール傘でも、雨の日の写真でもないけれど。

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